壊滅的な事業 (アメリア視点)
「黙っているってことは、何のようもないの? だったら僕は行くね」
言葉を失っている私にそう言うと、本当にマールスは私に背を向ける。
その時になって、私はようやく言葉を発することができた。
「……今更、お姉さまの味方をする気なの? あれだけお姉様を虐げておいて?」
私の言葉を聞いて、マールスの足が止まる。
一瞬、私は会心の笑みを浮かべるが……それも向き直ったマールスの顔を見るまでだった。
「ああ、そうだよ。もうあんた達に媚びを打っても仕方ないからね」
そう告げたマールスは満面の笑みだった。
その態度に、驚きよりも怒りを覚えた私は叫ぶ。
「私がいえば、あんたなんかすぐにお父様に追い出され……」
「そうしてくれるなら、ありがたいなあ!」
「……っ!」
本気で嬉しげな表情で、マールスは告げる。
「そうすれば、すぐに第三王子のところにいけるのに! サーシャリア姉様を助けようとしたら追い出されましたってね」
「……あんたは恩も感じないの?」
そう告げると、心底不思議そうな表情でマールスは口を開いた。
「サーシャリア姉様にあれだけ救ってもらっておいて、冷遇し続けたあんた等がそれをいうの?」
その言葉に、私は一瞬で冷静さを失った。
「ふざけないで。お姉さまに助けてもらっていた? そんなことある訳ないでしょう! お姉さまがいなくても……」
「いなくても?」
復唱してくるマールスに、私は何もいえなかった。
……そう、調べた瞬間から私も理解していた。
お姉さまがいなければ、伯爵家はもっと酷い状況だったことぐらい。
けれど、頭で理解するのと感情で納得するのは別の話だった。
「……うるさい! とにかくお姉様はただの無能なのよ!」
「へぇ、そう。まあ別にそれでいいよ。僕はサーシャリア姉様がいなくなったからじゃなく、伯爵家にいる意味がなくなったから見限っただけだし」
興味なさげにマールスが吐き捨てた言葉に、私は言い返そうとする。
そんなことを言われるほど、伯爵家の事業は落ち込んでいないと。
けれど、その前にマールスは続ける。
「もって一週間、それで辺境貿易以外の全ての事業は終わるんじゃない?」
「なっ!」
……そのマールスの言葉に、私の顔から血の気が引いた。




