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唐突な宣言

 今さらながら、私が思い知らされたのはその時だった。

 そう、もう昔とは違うというそのことに。

 その瞬間、私は夢から覚めるような感覚を覚えていた。


 ……決して二人が婚約者であることを忘れていたわけじゃなかった。


 けれど、あまりにも二人が昔と同じで、私は忘れてしまっていたのだ。

 もう二人は、これまで通り接して良い人間でないことを。


 そして、そのことは私から言わねば、優しい二人は言い出せないだろうことも私は理解していた。


「……えっと、ね」


「もう私を気にしないでいいわよ」


 だから私は、ソシリアが何かを言う前に口を開いた。


「二人は婚約者なんだから、もっとお互いで過ごさないと。……私なんかより、大切なんでしょう?」


 だが、その言葉を言いきった瞬間、私は気づいてしまう。

 ああ、失敗したと。

 これではまるで、二人が私が苦しんでいる間に楽しんでいたと責めているようではないか。


 ……二人は私の恩人であるのに。


 どうしてこんな言い方をしてしまったのか、焦りながら私は言葉を修正しようとする。

 けれど、なぜか頭にはまるで言葉が浮かんでこなかった。

 まるで、見知らぬ人間と相対したときのように。

 これまで、生徒会メンバーだけには普通に話せていたからこそ、私は半ばパニックに陥る。


 もう、この場から逃げ出したくてどうしようもなかった。

 いや、後数秒何もなければ、私は逃げ出していただろう。


 ──その前に、アルフォードは椅子から降りて、私へと頭を下げた。


「そう思われても仕方ないことをした。本当にすまない」


「……え、あ」


 謝罪されるなど、まるで考えていなかった私は、咄嗟に何も言えない。

 しかし、そんな私の反応など気にせず、アルフォードは続ける。


「しかし、言葉だけの謝罪になんていみはないのも分かっている。だから、態度で示そう」


 そう言って、アルフォードは私の手を取る。

 そして、まるで騎士がするように、ひざまづいて手に口づけをした。

 手に一瞬ふれた柔らかい感触に、私は硬直する。


「これから、俺はサーシャリアの使用人となろう。仕事があるから、全ての時間は無理だが、空いている時間全てをサーシャリアに捧げる。存分にこき使ってくれ」


 ……その宣言に、私はもう何も言うことができなかった。

 もはや、頭は破裂寸前で、これが現実かどうかも判断できない。


「あらー、暴走したわね」


 背後から聞こえた声に振り返ると、そこにいたのは呆れたような表情を浮かべたソシリアだった。

 目があったソシリアを、助けを求めるように見つめるが、すっと目をそらされる。


 ……え、何で婚約者の暴走を止めないの?


 そんな心の声にソシリアが反応してくれるわけもなく。


 そうして、私の奇妙な王宮での生活が幕を開けたのだった。

次回から少し、ソシリア視点になります。

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