口添え (ソシリア視点)
横を見ると、未だサーシャリアは歩きながら、何かを考えている。
その何かがマリアであることは確実で、その様子に私はさらに予感を強めていた。
マリアという少女、彼女を語ると知れば善良で可愛らしい、それだけで済んでしまうだろう。
付け加えるとしたら、サーシャリアに恩を感じる貴族の令嬢であるという程度。
私たちや、サーシャリアなどのような、特別な出自も能力もない。
だが、そんな彼女だからこそサーシャリアの考えを変えられるのかもしれない。
マリアなら、どれだけサーシャリアの言葉が足りなくとも、自分から引き下がることはないだろう。
むしろ、サーシャリアの言葉が足りなければ足りないほど、気合いが入りそうにも思う。
そんなマリアにサーシャリアが困惑する姿が、目に浮かぶ。
「ふふ」
自分の想像に、私は思わず笑ってしまう。
マリアの言葉は、いずれサーシャリアの凍りきった心に届くようになる。
そう思うからこそ、私は願わずにはいられない。
サーシャリアが、マリアを受け入れられる勇気をもてるようにと。
そして、本来ならば私は願う以上の手出しは考えていなかった。
必要以上の手出しは、サーシャリアにとって警戒心を抱かせるだけと知っている。
それでも、ひたむきに頑張るマリアを応援する程度なら許されるのかもしれない。
だから、私は少しだけ手伝うことにした。
「何も言わないつもりだったけど、一つだけ教えてあげることにするわ」
その言葉に、俯き気味だったサーシャリアが顔を上げる。
そんなサーシャリアの姿に、内心笑いながら告げる。
「マリアは本気で貴女を慕っているわよ」
「……っ!」
その瞬間、見るからな動揺がサーシャリアの顔に浮かぶ。
そんなサーシャリアに畳みかけるよう、私は続ける。
「貴女が人に近づかれるのが嫌いなのは知っているわ。でも、マリアに対して誠意は持ってあげなさいよ」
「気に留めておくわ」
神妙な表情でそう頷くサーシャリア。
その表情に達成感を感じつつも、同時に卑怯なやり方をしたという罪悪感を私は覚える。
何せ、こういうやり方をすれば、優しいサーシャリアがマリアを無視できなくなることを私は知っていたのだから。
内心、ごめんなさいね、と謝りながら再び考え込み始めたサーシャリアから目をそらす。
ただ、罪悪感を覚えながらも、これでマリアをサーシャリアが受け入れられたら、と考えずにはいられなかった。
私は密かに、口元を緩ませる。
「あっ……」
ふと、言い忘れていたことを私が思い出したのは、その時だった。
「どうかしたの?」
怪訝そうに尋ねてくるサーシャリアに、一瞬焦る。
しかしすぐに、私は思い直す。
まあ、今さら改まる仲でもないのだ、別にいいだろう、と。
だから私は、何気なくサーシャリアの方へと振り返り告げる。
「言い忘れていたけど、食堂にはアルフォートが待っているから」
考え事をしていたサーシャリアの表情が、驚愕に彩られることとなったのは、その瞬間だった。
呆然とした表情で、何事かをサーシャリアが呟き始める。
「う、嘘……」
「サーシャリア?」
ただ事でない様子に、私は思わずサーシャリアの顔をのぞき込み。
「何でもっと早くに言ってくれないのっ!」
……眼前で叫ばれたのは、次の瞬間のことだった。
次回から、サーシャリア視点に戻ります!




