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ソシリアの怒り

 私の言葉を聞いてしばらく、ソシリアは無言で立ち尽くしていた。

 けれど、ゆっくりと笑い始める。


「ふ、ふふ。本当にとんでもないことをしてくれたわね……」


 そんなソシリアを前に私は俯くことしかできない。

 今さらながら、自分がなんてものをとられてしまったのか知っても、後悔することしかできない。


「ごめんなさい。そのときに同じく取られた生徒会の制服にばかり気が取られていて。……それも取り返せなかったのだけれども」


 俯いているせいで、ソシリアの顔は見えない。

 それでも、伝わってくる雰囲気から、ソシリアの怒りは充分に理解できる。


「貴女が謝ることではないわ」


 だが、その雰囲気に反してソシリアの言葉は優しかった。

 声に反応し、思わず顔を上げた私にソシリアは微笑む。


「私が怒っているのは、サーシャリアじゃなく伯爵家よ。王妃様の宣言を知らないはずないのに、好き勝手しているね」


 ほほえみで隠しきれない怒気を露わにしつつ、ソシリアはそう告げる。


「王妃様が与えたバッジを取る? 一体何を考えればそんなことができるのかしら? ほんっとうに救いようがないわね!」


 最早、笑顔を取り繕う余裕もなく、ソシリアは一気にまくし立てる。

 しかし、その途中で満面の笑みを浮かべ告げた。


「──まあ、これからは相当見物だろうなのが救いね」


「……え?」


 思わず声を上げた私に、ソシリアは告げる。


「当たり前の話でしょ。サーシャリアがいない状態で、カルベスト家の事業なんてほとんど成り立たないじゃない」


「……さすがに、貴族同士の事業がそう簡単に取り消されることなんて」


「あのね、貴女がいなくなる時点で充分一大事なのよ」


 そう告げるソシリアの目に浮かぶのは、心底呆れたような視線。


「王妃様のお気に入り、黄金の生徒会の中心人物、辺境発展の第一人者。これ、何か分かる?」


「……いいえ」


 嫌な予感を覚えつつも首を振ると、ソシリアは悪そうかつ、非常に楽しげな表情で告げる。


「全部、貴女の異名よ」


「う、嘘?」


「本当よ」


 過剰としか思えない名前に愕然とする私を楽しそうに見ながら、ソシリアは続ける。


「とにかく、サーシャリアはそれだけ評価されているの。だから、貴女がいなくなればカルベスト家に注目する人間なんていなくなるに決まっているわ」


 そう言われても、私はどこか信じられなかった。

 異名が嘘だと思っているわけじゃない、それでも本当に自分がそれだけ評価されていると思えない。

 ソシリアは、そんな私の頭を優しく撫でてくれた。


「……いえ、こんな話をしてもなんの意味もないわね。サーシャリア、貴女はただゆっくり休んでいればいいの。また、生徒会のメンバーも集まってくるわ。そうしたら、昔みたいに皆で集まりましょう」


 それは、まるで子供に対するような態度。

 そうと分かるのに、何故かとても心地よかった。

 まるで甘えるように、私は無言でソシリアに頷く。


 ──その瞬間私は、カインのことを忘れていることにさえ、気づいていなかった。

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