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ソシリア

「そ、ソシリア」


 突然抱きしめられる形となった私は、思わず声を上げる。

 なれないことに、私は情けなくもうろたえてしまう。


 だが、そうして私が動揺していたのは、ソシリアの涙に気づくまでだった。


 震える肩、ソシリアの顔が押し当てられた肩から感じる、暖かい涙の温度。

 それを感じながらも、私がソシリアが泣いていることに気づくまでに少しの時間を要した。


 ……なぜなら、ソシリアが泣いたところを私は一度しか見たことがなかったから。


 冷徹な仮面をかぶった公爵令嬢にして、その実姉御肌。

 そんなソシリアは滅多に弱音など口にしない。

 弱音を吐く前に行動を起こしてきた彼女が泣いたのは、本当に耐えきれなくなった一度きり。


 そんな涙を流しながら、ソシリアは私に謝る。


「ごめんなさい、サーシャアリア。あなたと手紙で話していたのに、追いつめられているのに気づけなくて……」


 ソシリアの謝罪を私は無言で聞いていた。

 そんな頭の中、急速に思い出されていくのは、昨夜見た夢の光景。

 いや、夢だと思っていた出来事の光景。


 私を優しくだきしめながら、ソシリアは告げる。


「でも、もう大丈夫だから。気づけなかった分、サーシャリア守るから。だから、安心して休んで」


 そこで、ソシリアは涙に濡れた顔を上げる。

 その顔に、満面の笑みを浮かべサーシャリアは告げる。


「お帰りなさい、サーシャリア」


 ──私が、昨夜の出来事が夢でないと気づいたのは、その瞬間だった。


「……っ!」


 胸の奥が一杯になる感覚と共に、私の目から涙があふれる。

 今まで、伯爵家でどんな扱いをされようとも、私は泣かないようにしてきた。

 しかし、今だけは耐えることができなかった。


「ちが……! そ、ソシリアのせいじゃ!」


 泣きながら、私は必死にソシリアのせいではないと訴えようとする。

 だが、次から次へと流れてくる涙のせいで、その全てを言い切ることはできなかった。


「大丈夫、大丈夫だから」


 そんな私を、ソシリアは優しく抱きしめる。

 暖かく柔らかい身体の感触に力を抜いた私に、ソシリアは優しく告げた。


「後ででいい。ゆっくりでいいから、今までのことを教えてくれないかしら。時間は沢山あるから」


 その言葉に、私は何とか頷く。

 そんな私の身体を、ソシリアは引き寄せてさらに抱きしめる。

 ゆっくり落ちつけばいい、そう言いたげに。


 それから、十数分後。

 私はゆっくりと、全てを話し始めた。

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