目覚め
今回から、サーシャリア視点となります!
とても幸福な夢を見ていた気がする。
意識が覚醒したとき、私が感じたのはそんな感覚だった。
今も身体に感じる温もりに名残惜しさを感じながらも、私は目を覚ます。
どれだけまだ眠りたくとも、私はカインを次期当主にするために動かねばならない。
さぼることなど許されないのだ。
「……え?」
そうして、身体を起こした私の目に入ってきたのはまるで見知らぬ部屋の光景だった。
足下には金髪の女性が突っ伏して寝ており、そのこことがさらに私の動揺を煽る。
必死に私は記憶を蘇ろうとして。
……家から追い出されたことと、気を失う前に見た夢を思い出したのはそのときだった。
その夢は、本当に幸せな夢だった。
現実に起きていればどれほど幸せかと思えるほど。
その夢に活力を貰えた気がして、私は微笑する。
けれど、すぐにその笑みは消えた。
なまじ夢が幸福であったからこそ、現実との落差が辛かった。
もう、カインは私のそばにいない。
いやそもそもカインは私の味方ではなかったのだ。
それはあまりの喪失感で、カインを恨むことさえ私にはできなかった。
家族に冷遇される私を支えてくれた記憶が、色濃く残っているからこそ、なおさら。
「……かわいげのない、そんなこと最初から知っているわよ」
そう、今までも言われなれている言葉のはずなのだ。
なのに、なぜこんなにも心が痛むのか。
どれだけ考えないようにしても、私はカインのことを頭から締め出すことができなかった。
嫌なことから頭を振り払おうと、私は頭を振る。
「……ん、んん」
今まで寝ていた金髪の女性が身動ぎしたのは、その瞬間だった。
自分の動きで、女性を起こしてしまったことに気づいた私は、慌てて見ずまいを整える。
その時に自分が来ているのが上等な寝巻きであることに気づき、一瞬驚くが表情には出さない。
……てっきり、倒れてしまった私を庶民が介抱してくれたと思っていたのだが、違ったらしい。
まあ、とにかくお礼を言わなくてはならないのは変わらない。
そうして私は、女性が頭をあげると同時に、声をかけようとして。
その顔を目にして、言葉を失うこととなった。
「サーシャリア! 起きていたの!?」
一方、女性の方は私が大丈夫なのを見ると、その場から飛び起きた。
そして、私に顔を近づけ、真剣な表情で見つめ始める。
「……顔色も、目元にくまもない」
一瞬、私は肩を震わせるのものの、自分の状態を確認されているだけだと理解し、大人しくされるがままになる。
女性が顔を離したのは、それから少しした時だった。
その顔には安堵が浮かんでいる。
ようやく私が口を動かせるようになったのは、その瞬間だった。
ぎこちなく口を動かしながら、私は問いかける。
本当に彼女なのかと。
「嘘、本当?」
その言葉に彼女は泣きそうな顔で笑った。
その表情でようやく私は理解する。
長い髪は肩あたりでばっさりと切られており、二年前よりも大人っぽく綺麗になっている。
それでも目の前の女性は、本物の彼女だと。
「ソシリア、なの?」
次の瞬間ソシリアは、まるで答えの代わりというように、私を強く抱き締めた。