誘惑
「……お願い?」
想像もしていなかった言葉に、気づけば私の口からそんな言葉が漏れていた。
今まで私がアルフォードから面と向かってお願いなどされたことなどあっただろうか?
私はその前に動いていたというのもあるが、それ以上にアルフォードは自分から何かを頼むタイプではなかった故に、そんなことはあまりなかった。
「うん、いいよ。なんでもいって」
けれど、驚いただけでそう答えるのに、私には何のためらいも存在はしなかった。
今まで私がそれだけ皆に苦労をかけてきたか。
そのことを考えれば、そう答えるのに私に一切の躊躇も必要はなかった。
「……っ!」
私の言葉に、アルフォードの顔が僅かに赤らむ。
実際のところ、私はどんな頼みを告げられても聞く気だった。
……といっても、今の私にできることなど限られいるが。
それでも私は、ここで言われたお願いはなんとしてでもかなえる覚悟があった。
それそこそ、いくらでも時間がかかっても。
そこまでしても、私にしてくれた恩を返すにはまだまだだなのだから。
そしてそう私は覚悟を決めていたからこそ。
「それなら、サーシャリア──俺がお前について行くことを許可してくれ」
「……え?」
想像もしないアルフォードのお願いに、私は唖然と声を上げることになった。
数秒間、その間私は声を上げることができなかった。
アルフォードの言葉の意味が理解できなくて。
それでも何とか意味を咀嚼し、震える声で私は尋ねる。
「……何を言ってるか分かってるの?」
これは何かの冗談なのか、と。
本当にそんなことを言ってるのかと。
「ああ、仕事についてか? 大丈夫、それならすでに話は付いている」
問いかける私の様子に気づくことはなく、アルフォードは満面の笑みを浮かべ告げる。
「といっても時間は限られてるけどな。半年だけって。その期間が終わったら、一旦俺は戻らないといけない。まあ、また仕事を終わらせて、時間をあけてくるけど」
まっすぐ私を見ながらそう告げるアルフォードの表情には、一切の偽りも存在はしなかった。
何もいえない私に対し、アルフォードは王宮の方へと軽く振り返って続ける。
「出てくる前、ソシリアがその時間をあけておいたと教えてくれたんだ。だから俺はサーシャリアについていける。だから、俺を連れていってくれないか?」
それは私の聞きたかったことではなくて。
けれど、その言葉に、真剣そのものなアルフォードの表情に、私は理解せざるを得なくなる。
アルフォードは本気でこの言葉を言ってることーー本気でこんな私の側に異様としてくれていることを。
「どう、して……?」
その瞬間、私は呆然と呟いていた。
ぼろぼろと自分の中で何か崩れていくのをかんんじながら、私はアルフォードに問いかける。
「覚悟は決めたのに、やっと皆から離れようと決めれたのに。どうして私を誘惑するの……!」




