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理想郷が壊れる前に

 私を辺境伯の養女に。

 それだけの情報で、私は大抵のことを理解していた。


 ……なぜなら、貴族の令嬢を養女にするにあたって、その両親を無視することなどできはしないのだから。


 それだけで、アルフォード達が私の為に何らかの行動を起こしたと理解できた。

 私の為に伯爵家に何らかの行動を起こしてくれたのだろうと。

 マルクの奮闘と言うことは、マルクの少なからず動いてくれたのだろう。

 いや、辺境伯の養女にするという話なのだ、関わっていない訳がないか。

 そう理解して、私は小さく呟いた。


「そっか、もう遅かったのね」


 父に、伯爵家に待っているのは決して明るくない未来だと理解しても、私に衝撃はなかった。

 おそらく私はもう、伯爵家より生徒会メンバーの方が大切なのだ。


 だから、私は今の現状にどうしようもない虚無感を覚えずにはいられなかった。


「……何が、皆頼ってくれれば、よ!」


 拳を握りしめ、私は吐き捨てる。


「私はただ、皆に迷惑をかけているだけじゃない……!」


 がらがらと、今までの私の思いが崩れていくのを感じる。

 なんとか、今からがんばれば役に立てるはず、今まで感じていた思いが。

 今になって、ようやく私は理解する。


 もう、全部遅いのだと。

 私はもう、皆に負担をかけるお荷物でしかない、と。


「……もう、そうするしかないよね」


 そのことを理解してから、そう決断するまでに多くの時間はかからなかった。

 皆は優しい、まだ私を嫌いにならないなんてわかっている。

 いや、もしかしたらこのまま私が役立たずであってもなお、優しく受け入れてくれるのかもしれない。

 そうわかりつつも、もう私の心は決まっていた。

 このままずるずると皆に負担をかけるつもりなんて私には存在しなかった。

 いや、それは言い訳だ。


 ……もし、皆に失望されたら私はもう、立ち直れないことを知っているのだ。


 なぜなら、皆は私にとって希望で、奇跡そのものだから。

 皆は私のおかげで助かったという。

 でも、それは違うのだ。

 私はその何倍も、皆の存在に心を救われているのだ。


 伯爵家で常にかわいげがないと言われ続けていたありのままの私を、皆は受け入れてくれた。

 その時、どれだけ私が救われたかなんて、皆は知らないだろう。

 皆が私に救われたという何倍も私は皆に救われていることを。

 ここは、私にとって何者にも変えることのできない理想郷なのだ。

 それが粉々になることだけは、私は絶対に認められないのだ。


「……っ」


 だから、声を必死に押し殺して泣きながら私は。


「王宮から、出て行こう」


 ──理想郷が壊れる前に、自ら去ることを決意した。

次回からアルフォード視点となります。

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