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回り道の理由 (アルフォード視点)

「すまなかったな、マルク。汚名を全てお前にかぶせるような形になってしまって」


 馬車に乗りこんだ俺はそう謝罪の言葉を口にする。

 これは絶対に必要なことで、しかしそれでもこうしてマルク一人に汚名を着せる形となってしまうことに、俺も罪悪感を感じない訳ではなかった。

 しかし、その俺に謝罪にマルクは俺を気遣う様子で口を開いた。


「いや、俺がいってやりたかったことを言わせててもらったんだ。感謝こそあれ、文句はねえよ。……俺は正直お前の方が心配だしな」


「俺のほう?」


「お前気づいてないのか? その手を見てみろ」


 その言葉に俺が視線を下におろすと、その手には血が滲んでいた。

 今さらながら伝わってくるジンジンとした痛みに、俺は自分の手に血が滲むほど握りしめていたことに気づく。


「まあ、あんだけ好き勝手言ってる奴に対して黙っていなきゃならなかったんだ。こんだけ握りしめもするか」


 そのマルクに言われた言葉に、俺の胸の中好き勝手言っていた伯爵家当主への怒りがよみがえる。

 必死に怒りを押さえたが、あの時は伯爵家当主を衝動的に殴りそうになったほどだ。

 傷から伝わる痛みが、そのときの怒りを物語っているように感じ、俺の拳に再度力が入る。

 けれど、一度息を吐き俺は手から力を抜いた。


「いや、この位気にすることはないさ。その対価は十分に得たんだから」


「……ああ。思ったより苦労したが、な」


 俺の言葉に笑みを浮かべマルクがうなずく。

 そう、実のところ俺たちがここまで周りくどく伯爵家を追いつめてきたのにはある目的があったからだった。


「これでようやくサーシャリアを伯爵家の干渉できない場所に逃すことができた」


 全ては、伯爵家の動きを制限するため。

 そして、その目的は手間取ったものの達成することに成功した。


「その成果を考えれば、こんな傷なんてどうだっていい。これでようやく、伯爵家に対処することができる」


 そういいながら、俺の口元には獰猛な笑みが浮かんでいた。

 実のところ、伯爵家をつぶすことなら、俺たちになら簡単に行えた。

 そのための証拠も、準備も全てが整っている。

 それでも俺たちにがこんな回りくどい手を使った理由はなぜか、それは全てサーシャリアのためだった。

 このまま伯爵家をつぶせば、その縁者であるサーシャリアも少なくないダメージを追うことになる。

 最悪、伯爵家当主達がサーシャリアを盾にすることさえ考えられる。


 だから俺たちは、伯爵家がサーシャリアに関われないようにした。


「後少しだ。俺を味方と思いこんでいる伯爵家が養女の話しについて異常に思うことはないはずだ。──そして、契約が成ったその瞬間、伯爵家はつぶす」


 最後の命綱を切ってしまったことに、まだ伯爵家当主は気づいていなかった……。

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