養女の理由 (伯爵家当主視点)
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「……は?」
もう、戻らない。
そう断言された私は、ただそう惚けることしかできない。
そんな私を冷ややかに一瞥し、マルクは告げる。
「俺達がサーシャリアを養女にすることを条件にした理由、それにまだ気づいてないのか?」
「何を……?」
「サーシャリアがいるのだとすれば、俺は伯爵家に辺境貿易を任せていてもよかった。足でまといがいても、サーシャリアなら間違いなく辺境貿易を回せる」
足でまとい、その言葉に私は思わず唇をかみしめる。
こんな状況でなければ、こんな若造に馬鹿にされることを私は許すことはできなかっただろう。
とはいえ、マルクの言葉はただ屈辱なだけではなかった。
何せ、サーシャリアが帰ってくればまだ巻き返しが効くということなのだから。
私は笑みを浮かべ、口を開く。
「つまり、サーシャリアが戻ってくれば辺境貿易を再開してもよろしいという……」
「……本当に、状況を理解していないんだな」
しかし、その私の言葉にマルクが浮かべたのは、呆れとあざけりのこもった視線だった。
「絶対にサーシャリアがこんな場所に帰ってくることはあり得ない。そう考えたから俺達はサーシャリアを養女に迎えることを条件にしたんだよ」
「……え?」
「大々的に伯爵家の名前を使って調べている今、どんな辺境にもサーシャリアの失踪は伝わっている。それでもサーシャリアが出てこない、その意味がまだ分かってないのか?」
そう言うと、マルクは私への嘲りを隠す気のない笑みを浮かべ告げる。
「──サーシャリアはもう、伯爵家になんか帰ってくるつもりはないんだよ」
「……っ!」
今まで考えもしなかったその可能。
それにようやく気づいた私はしばらく呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
思わず、否定の言葉を頭で探す。
けれど、その言葉がそうしようもない言い訳でしかないことに私が一番気づいていた。
「……今さら気づいたのか」
茫然とする私に、そう吐き捨てマルクは続ける。
「サーシャリアを辺境泊の養女にしようとした理由はそれだよ。伯爵家が捜索したところでサーシャリアは絶対に見つからない。だから、辺境泊でサーシャリアの捜索を引き継ぐ」
しかし、その時にはもはや私はほとんどマルクの話など聞いてはいなかった。
怒りのまま、私はマルクの言葉を遮り怒声をあげる。
「それゆえの条件だ。きちんと理解……」
「ふざけるな! あの、親不幸ものが……!」
もはや、マルクがなにかを話していることなど、私の意識にはなかった。
わき上がってくる怒りのままに、叫ぶ。
「あの馬鹿は、親に育ててもらった恩さえ忘れたのか! 今までどれだけの金を……」
「……なあ、それ本気で言ってるのか?」
底冷えする声で、マルクが問いかけてきたのはその時だった。
一瞬、その声に私は少し冷静さを取り戻す。
それでも完全にはさめない怒りのまま、私はマルクに吐き捨てる。
「これは家の問題だ! いくら次期辺境泊と言え口出しは……っぶ!」
──顔に衝撃が走り私がその場で倒れ伏したのは、次の瞬間のことだった。
殴られた、一拍おいてそのことを理解した私が顔をあげると、私の前にたっていたのは、憤怒の形相のマルクだった。
「お前、本当に救いがないな」




