表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/167

後悔 (アルフォート視点)

 サーシャリアが意識を失った後、俺は慌ててすぐ後に来た馬車の中に彼女を寝かせた。


「……ふむ。もう少し発見が遅ければ危なかったでしょうが、もう心配はありません」


 そんな彼女を診てくれたのは、豊かな白髪を蓄えた老紳士、王家の執事の一人セバスチャンだった。


「……そうか」


 経験豊かな老執事の診察に、俺は頷く。

 セバスチャンは王家の執事の中でも優秀で、本職に叶いはしなくとも、医術の心得を持っている。

 彼の見立てが間違っていることはないだろう。

 そう理解して、俺はようやく安堵することができた。


 目を向けると、そこにいるのは俺の外套を纏い安らかに眠るサーシャリアだった。

 外套の裾から見える素足は傷だらけで痛々しい。

 今は身体は温もりを取り戻してはいるが、意識を失ったその時、彼女の身体は冷えきっていた。


 ……本当にもう少し遅れているか、セバスチャンがいなければ、サーシャリアは危なかったかもしれない。


「助かった」


「いえいえ、お役に立てて良かったです。……決して失う訳には行かぬお方ですからな」


 心からの感謝を込めた俺の言葉に、セバスチャンは穏やかに笑う。

 そんなセバスチャンの言葉に俺は頼もしさを覚えながら、同時に強い後悔を感じていた。

 今はサーシャリアは安らかに眠っている。


 けれど、サーシャリアを見つけたあの瞬間の、崩れ落ちてしまいそうな表情。

 それは、俺の脳裏に鮮明に残っていた。


「すまない」


 サーシャリアの身体を少しでも温めるよう、その手を握りながら、俺は小さく囁く。

 今この瞬間、俺は自分が許せなくて仕方がなかった。

 後悔に表情を歪める俺に、セバスチャンが口を開く。


「アルフォード様」


「……なんだ」


「思うところがあるのも分かります。後悔が悪いとも言いません。けれど、一つ頭に入れておいてください。今、サーシャリア様を救ったのも貴方なのだと」


 その言葉に、俺は今までのことを思い出す。

 王都で噂になっているサーシャリアの婚約破棄について聞き。

 セバスチャンに御者を頼んで飛び出し、この場所に着くまでのことを。


 それから飛び出して、俺がこの街に着いたのは少し前のことだった。

 ようやくこの街に着いた安堵で一休みしようとして、街の人がしている噂を俺が聞いたのはその時だった。


 ……尋常ではない様子で、薄着の女性が街を走り抜けていったという。


 それにサーシャリアが関係する、そう確信できたわけじゃない。

 だが、それがサーシャリアだったら。

 そう思った瞬間、俺は「行ってくる」とだけセバスチャンに告げ、その女性がいると思われる場所に走り出していた。


 そしてそこにいたのが、サーシャリアだった。

 その時は夢中で探していただけだったが、その行動は正解だったらしい。

 今からが考えれば、こうして間に合ったのは奇跡に近かった。


 女性についての噂を無視して、伯爵家に行っていれば。

 いやそもそも、婚約破棄の噂が流れてくるのが数日後だったら。

 また、セバスチャンが馬車に乗って俺をすぐに追いかけてくれなかったら。


 そのどれか一つでもなければ、間に合っていなかったかもしれない。

 そして、そう考えれば俺がサーシャリアを助けたと言って間違いないのだろう。

 俺の行動が、サーシャリアを危ないところから救ったと。

 しかし、それでも俺は自分が許せなかった。


 ……本来ならば、ここまで追い詰められる前に、サーシャリアを救えたはずなのだから。


 俺は、いや、俺達はサーシャリアの周囲の環境を知っていた。

 サーシャリアがそんな環境でも必死に努力していて、それでも、傷つかないわけじゃないことを知っていた。


 ……それなのに俺は、サーシャリアに求婚を断られたことを気に病み、彼女から目をはなしてしまったのだ。

次回もアルフォートの独白が続き、その次からカイン視点(ざまぁというか自滅)が始まります!

それから、きちんとサーシャリアは癒されて行きますので、暫しお待ちください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ