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告発 (伯爵家当主視点)

 どうして、なぜその話が広まっている?

 真っ白になった頭で、私は必死にそう考える。

 サーシャリアが失踪したことは確かに、私が広めた。

 けれど、サーシャリアを家から追い出したとは言ってないし、そもそも知っている人間も少ない。


「……誰がそのことを告げた?」


 可能性として、私の頭にかつて追い出した使用人が浮かぶ。

 いや、未だ侯爵家から逃げているというカインが逆恨みで、広めた可能性もある。

 そこまで考え、私はもう一つある可能性ある考えにたどり着いた。


「もしかして、サーシャリアか?」


 サーシャリアが未だどこにいるのかは、分かっていない。

 つまり、どこかにかくまわれたサーシャリアが噂を広めている可能性があるのだ。


「……ふざけよって!」


 自分の頭に浮かんだ可能性に、私は怒りを隠せずそう吐き捨てる。

 こんな不名誉きわまりない噂が貴族社会に流れていることが、さらに私の怒りを煽る。

 誰であろうが、伯爵家をおとしめる噂を流した人間を許しはしないと、私は決意する。

 ……呆れを隠せないアルフォードの声が響いたのは、そのときだった。


「サーシャリアのことを口にしたとき、少しは思い知ったのかと思ったが勘違いだったらしいな」


「……っ!」


 今更ながら、第三王子になんの言い訳もできていないことに気付いた私は、慌てて言葉を重ねる。


「あ、アルフォード様お待ちください! それは伯爵家を妬んだもの達が流した、根も葉もない噂です。どうか、この私を信じてください!」


「……今さらそんな言い訳が通じると思っているのか?」


 しかし、私の決死の訴えは第三王子の顔に浮かぶ呆れを深めるだけだっった。

 その言葉に、なんと言えばいいのか分からず黙った私に、第三王子は告げる。


「そもそも一つ訂正するが、私がここにきたのは辺境貿易の存続に対して、検討する為にきたのだ。今はサーシャリアの存在云々など関係ない」


「お、お待ちください!」


 ……なんとか避けようとしてきた言葉を継げられた瞬間、私は必死に声を張り上げていた。


「た、確かに今私が辺境貿易を監督しております。しかしそれは、サーシャリアがいないという緊急事態が起きた為の緊急の体制です!」


「……なんの話だ?」


「今、伯爵家から辺境貿易を奪って、一番被害を受けるのは伯爵家に戻ってきたサーシャリアというです!」


 必死に訴える私に、第三王子は呆れたようにため息をもらした。


「……本当に理解していないらしいな。ずっと言っているだろう、私がこの場に来たのにサーシャリアは関係ないと」


「なっ!」


 そういいながら、アルフォードは懐から何か手紙のようなものを取り出す。

 それを目にした瞬間、私は思わず声をあげていた。


 ──そんな場合でないと、どうして分からないのですか!


 私の頭に、侍女が顔色を変えて言ってきた言葉が蘇る。

 最悪の形で、私はその意味を理解することになった。


「私はサーシャリアの友人としてここにきたのではない。中立派の代表として、告発を受けて辺境貿易の存続について確認しにきたのだ」


 そう告げる第三王子の持つ手紙に記されていた名前は、数少ない伯爵家との交易を続けてくれていたはずで。

 ……私が金を無心した商会のものだった。

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