今さらの後悔 (伯爵家当主視点)
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養子であるマールスが連行されていく光景。
それを私は、呆然と見送ることしかできなかった。
……考えてみれば、これは間違いなく幸運なのだろう。
あのとき、マールスは自分の罪を逃れるために私のことを告発しようとしていた。
あのまま告発されていたら、待っていたのは激怒した第三王子だろう。
それを考えれば、マールスが連行されていったことは、間違いなく幸運だ。
……しかし、素直に喜ぶ気持ちは私の中には存在しなかった。
私はゆっくりと隣にたつ人間へと目をやる。
そう、先ほどのマールスの乱入から一切表情を変えていない第三王子へと。
その姿に、私の脳裏に先ほどの光景が蘇る。
マールスを軽々と持ち上げ、あっさりと投げとばしたその姿が。
そして、今や私は理解していた。
対応を間違えれば、私もマールスの二の舞になりかねないと。
この先、私はこの王子からの追求をなんとかやりすごさなければならないのだ。
その想像にぶるり、と私の背中に悪寒が走る。
アルフォードが、感情の読めないその目をむけてきたのはそのときだった。
「随分手の込んだ出迎え、感謝する。サーシャリア失踪に加え、本当に伯爵家は意表をつくことを考えるのがうまいな」
「……っ!」
それは隠す気のない皮肉だった。
けれど、その皮肉に対し、私は怒りを露わにすることか、何も答えることさえできない。
それを全て許さない怒りを、第三王子はその目に宿していた。
「言っておくが、ごまかせると思うな。洗いざらい全てをはいてもらう」
最後に、そう吐き捨てたアルフォードは勝手に玄関内へと入っていく。
……まるで、そんな行動をしても自分を止められないだろうといいたげに。
その後ろ姿を見ながら、私はようやく心から後悔する。
侯爵家の言い分を聞いて、第三王子をあざけるべきでなかった。
カインの言うことを聞いておくべきだった。
……そして、サーシャリアを追い出すような馬鹿なことをするのではなかったと。
そう思いながら、私は第三王子の背中を追って屋敷の中に入っていった。




