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定まった覚悟 (アルフォード視点)

 早足でマルク達のいる部屋から遠ざかりながら、俺の唇をかみしめていた。

 できるだけ早く、マルク達のいる部屋から遠ざかろうとしながら、そんな行為に意味が無いことを俺は理解していた。

 なぜなら最後にマルクが告げた言葉、それはもう頭にこびりついていたのだから。


「……間に合っているわけ、ないだろうが」


 ぼろぼろで泣いていたサーシャリアの姿。

 それは俺の脳裏に鮮明に残っていた。

 あれで間に合ったなんていえる訳がなかった。


 ……もし、もっと早くにサーシャリアのそばにいられたら、俺は受け入れられたのだろうか。


 そんなどうしようもない考えが浮かんできて、俺は自嘲の笑みを浮かべる。

 なんて未練がましいのだろう、そう思って。

 そう思っても考えてしまうほどに、それからのことは俺の中で強い後悔として根付いていた。


 あきらかに、俺の存在に恐怖を抱くサーシャリアの姿は。


 ただの偶然だったが、今は分かる。

 あのとき、サーシャリアのい婚約のことを明かさなかったのは、正解だったと。

 そうでなければ、サーシャリアは俺とともにいることさえ、避けるようになっていただろう。


 ……けれど、避けることを回避できても、俺にできたのはサーシャリアのそばにいることだけだった。


 徐々に自分の存在を受け入れてくれているのは、喜びだった。

 けれど、それでそばにいることしかできない程度の存在でしかない、という絶望が消える訳ではなかった。


 伯爵家の存在がなければ、俺は必死にその絶望から目をそらして続けていられたかもしれない。

 そうして、自分の心を隠してサーシャリアのそばにいただろう。

 例え少しであれ、サーシャリアの役に立てるなら、俺はなんでもやる気だったのだから。


 けれど、伯爵家という存在がいる以上、そんな悠長な時間は残されていなかった。


 それを恨む一方で──かすかに救いを感じている自分に俺は気付いていた。


 このままいけば、俺はサーシャリアみ嫌われるだろう。

 思いが報われる日々なんてこないかもしれない。

 だが、それでも伯爵家を潰せば、あることだけは確実になるのだ。


 俺は、間違いなくサーシャリアの役にたったという。


「……そのためなら、たとえ嫌われても」


 そこで言葉を止めて、俺は伯爵家の家がある方向に目をやる。

 明日出発して伯爵家につくまで、まだ時間はある。

 しかし、その時が来るのが俺は待ち遠してくて仕方がなかった。


「待ってろ、お前等は俺が確実に潰す」


 そう告げた俺の目には、隠す気もない憎悪が浮かんでいた。

次回から、伯爵家視点へと移行します。

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