謝罪と後悔 (ソシリア視点)
「……ソシリア様!?」
セインに連れられ部屋を後にしてすぐ、焦ったマリアの声が聞こえた。
しかし、それにさえ反応する事ができないほどに、私は呆然としていた。
頭に何度も蘇るのは先ほど、セインにつれていかれる前、アルフォードに明かされたこと。
……自分が、サーシャリアのことをただ傷つけていたという事実が、私を打ちのめしていた。
「セイン様、後は私がソシリア様をご案内します」
「……分かった、頼む」
虚ろな意識の中、セインに変わってマリアが私の身体を支えるのが分かる。
ふと、私があるとこを思い出したのはそのときだった。
そう、マリアはサーシャリアの異常に気付いていたことを。
あのとき、マリアは私に教えてくれていたのだ。
しかし、私はそのことを考えようともしなかった。
それこそが、何より私が自分のことしか考えていないことを示しているのではないか。
「ソシリア様、お部屋につきまし……」
「……ごめんなさい、マリア」
「え?」
そのことに思い当たった瞬間、私はマリアにそう謝罪していた。
部屋の中、混乱したようにこちらをみるマリアに、私は呆然と呟く。
「……貴方の言う通り、サーシャリアは限界だった。なのに、私はそのことに気付いてもいなかった」
マリアはアルフォードの話を聞いていたわけじゃない。
私が何を言っているのかも理解できないだろう、そうわかりながら私の口が止まることはなかった。
「私はただ、サーシャリアが自分を信頼していると思いたかっただけだった。親友だって言ってくれたサーシャリアなら全てを打ちあけてくれると思いこんでいただけだった。……そんな簡単な話じゃないと知っていたのに」
そう言葉を重ねる私の脳裏によぎるのは、過去の自分だった。
全てを抑制されていきることを強制され、未来を信じられなかった時。
そのときの私は、自分が無価値で、誰にも信頼されないと思い込んでいた。
──そう私は、人が信じられなくなるときがあることを知っているのだ。
「なのに私は、サーシャリアの気持ちを推し量れなかった。一番、私がサーシャリアの気持ちを理解できたはずなのに……!」
「……ソシリア様」
「もう、今の私にはサーシャリアになにをしてあげればいいのか分からないの。自分の存在それだけで、サーシャリアを追いつめるなら私は……」
「……っ! それだけはありません!」
今まで大人しく話を聞いてくれていたマリアが声を張り上げたのは、そのときだった。
「何があったのか、私は知りません。それでも、ソシリア様の存在がサーシャリア様の負担になっていたなんて絶対にありません!」
呆然とする私を、涙で濡れた目で真っ直ぐ見返しながら、マリアは告げる。
「確かに、サーシャリア様は何かに悩んでいました。それでも、生徒会の皆様がいた時、間違いなく楽しげでした!」
「……っ!」
感情的なマリアの叫び。
ようやく私が気づいたのはその瞬間だった。
……自分が、一つ大きな勘違いをしていたということに。




