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言い忘れた伝言 (マルク視点)

「……いい忘れていたこと?」


 俺も言葉にサーシャリアの顔が怪訝そうなものに変わる。

 それを確認し、俺は表情が変わらないよう意識しつつ告げた。


「ああ、伝言を伝え忘れていてな。覚えてるだろ、魔物よけを作ってくれたあのじいさんの話だよ」


「……っ! 今も変わりなく元気なの?」


「ああ、バリバリに仕事をしてるぞ」


 その言葉にすこし元気を取り戻した様子のサーシャリアに、俺は内心ある確信を強める。

 今から自分が行うことは必須だと。

 しかし、その思いを表面上には出すことなく、俺は続ける。


「時間が短かったせいで、そのじいさんに伝言頼まれていたのを忘れていてな」


「っ!」


 その瞬間、今まで黙っていたリーリアが僅かに顔色を変えた。

 俺に向けられた視線から、一体なにをしようとしているのかという気持ちが伝わってくるのが分かる。

 それも、当然の話だろう。

 なにせ、じいいさんの伝言に関しては伝え忘れていたわけじゃない。

 その時間がないと判断して、あとで伝えようとしていたものなのだから。

 しかし、その事実を無視し、俺は口を開く。


「何か行き詰まったらいつでもこい、てさ。仕事が忙しくて、猫の手でも借りたい状態らしい」


「え?」


 瞬間、部屋の中に漏れた呆然とした吐息、それがサーシャリア、リーリアどっちのものか、俺は判断できなかった。

 ……いや、おそらくどっちのものでもあるのだろう。

 かすかに俯いたサーシャリアとリーリアの表情、その二つをみる限り、そうとしか考えられなかった。

 それでも、そんなことを考えていることをおくびにも出さず、俺は笑ってみせる。


「相変わらず難儀なじいさんだよな、普通に心配してるって言えばいいのに」


「……マルク、私っておじいさんに必要とされてるのかな?」


「ん? 当たり前だろう。あのじいさんが細々した計算が得意なように見えるか? サーシャリアの計算能力がのどから手がでるほどほしいだろうよ」


「そう……」


「まあ、また元気になったらじいさんの仕事手伝いにでもいこうぜ。まあ、言い忘れてたことはそれだけだ。お大事にな」


「うん、マルク」


「なんだ?」


 俺の姿に俯いた頭をあげると、僅かにほほえんでサーシャリアは告げた。


「──ありがとう」


 ……その言葉には、明らかにただのお礼といえない響きがあった。

 しかし、それに気づかない振りをして俺は笑う。


「気にするなよ。それじゃ、お休み」


「ええ、お休み」


 そして、無言となったリーリアを引っ張って俺は出て行く。

 ……自身のねらい道理にことが進んでいるのをを確信しつつ。

更新遅れてしまい申し訳ありません!

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