唯一の方法 (マルク視点)
「そう、今までならね」
俺の言葉にリーリアは言葉少なに同意する。
長いつきあいのある俺とリーリアだから故に、二人のことはある程度察することができて……しかし今のリーリアの表情は明らかに曇っていた。
そして、その理由についても、俺は想像できていた。
「……いつもなら、私もそう思うわ。でも、今もそういえるの?」
にもかかわらず、そうリーリアが告げたとき、俺はなにも答えられなかった。
無言の俺に、リーリアはさらに続ける。
「アルフォードは確かにサーシャリアのことを理解してるわ。けれど、肝心な気持ちには気付いていない」
そこで、ソシリアの表情が悲痛に歪む。
「ソシリアに関しては……」
「……大丈夫だ。ソシリアに関してはな」
そこで俺はようやく口を開いた。
「ソシリアは確かにサーシャリアの容態を見誤っていた。だが、決してサーシャリアへの対応がおかしかった訳じゃない。……サーシャリアの異常に気付いた今、もう気にする必要はない」
「……あれだけショックを受けていても?」
「ああ」
そう俺が断言した瞬間、はっきりとリーリアの顔に安堵が浮かぶ。
……しかし、それと対照的に俺の顔は曇っていた。
「ソシリアはもう問題じゃない。……だが、アルフォードに関しては俺もどうすればいいのか分からねえ」
「でも、ソシリアが大丈夫なら……」
そう告げるリーリアに俺は首を横に振る。
「……どうして?」
「正直なところ、一番の問題はアルフォードの野郎なんだよ」
俺は、リーリアへと心底弱り切った声で告げる。
「サーシャリアを傷つけず、伯爵家を乗り切る方法は決して皆無じゃない。サーシャリアを完全に癒す方法はある」
「……え?」
「ただ、それを当の本人……アルフォードが気づいていない」
一瞬リーリアの表情に浮かんだ喜色が、一瞬で消え去る。
その態度こそが、何より俺が言いたいことをリーリアが理解したことを示していた。
そんなリーリアに俺はさらに続ける。
「現状唯一アルフォードだけがサーシャリアの心を溶かせる。──ただ、それをアルフォードに自覚させる方法は、俺にも分からない」




