真に理解できるのは (マルク視点)
俺はさらに、リーリアへと淡々と告げる。
「確かに、サーシャリアに罪悪感があるのも分かる。どの口でサーシャリアのそばにいるなどいえるのかとは、俺だって思う」
肝心な時にそばにいれなくて、そばにいるなど片腹痛い言葉だ。
俺だってそう思う。
だけど、サーシャリアが一番欲しているのはその言葉だろう。
そして、心が弱った状態では、簡単に信じられない言葉でもあるのだろう。
「だが、時間をかけてもそれを伝えていくのが、サーシャリアを癒す一番の方法のはずだ」
その言葉に、徐々にリーリアの目に光が宿っていく。
しかし、その途中でリーリアの表情は曇ることとなった。
……その表情に、俺もまたその表情を曇らせる。
そう、時間さえあれば何の問題もなかったのだ。
時間さえあったならば、俺たちもまたサーシャリアとの溝を埋められただろうし、アルフォードがこうして強固な手段をかんがえることもなかっただろう。
そう、あれが存在しなければ。
「……伯爵家さえなければ」
「ああ」
ぽつりと呟いたリーリアに俺は頷く。
そう、全ての元凶は伯爵家だった。
サーシャリアの今の状態も、またアルフォードの思い込みの原因も。
「だから、真っ先に伯爵家を潰すということに関しては、アルフォードの言っていることは間違っていない。……そうしないと、間違いなくサーシャリアにとって害となる」
「……その結果、サーシャリアがそれで傷つけてしまっても?」
「そうだ」
そう告げた瞬間、リーリアの顔が曇る。
実際のところ、リーリアもとっくに理解しているのだろう。
サーシャリアの為にも、伯爵家には対処しておかないといけないことを。
それを理解しつつも、サーシャリアの心の痛みに気を使ってしまうリーリアの優しさは美点に他ならない。
とはいえ、この状況に置いてはその美点が裏目にでていることに俺は気付いていた。
「俺たちにできるのは、それだけだからな。……俺たちには、この状況でサーシャリアの支えになることはできないのだから」
その俺の言葉に、リーリアの顔がはっきりと歪む。
しかし、それでも俺は言葉を続ける。
「時間があれば、俺たちにもサーシャリアにそばにいい続けることはできただろう。でも、真にサーシャリアの気持ちを察して、その心を癒すことなんてできない」
「……どうして?」
「俺たちは家族に愛され、そばにいる人間に恵まれているからだ。だから、俺たちには信じることをおそれるサーシャリアに歩みよれない」
そう、俺は環境こそは恵まれてはいなかったが、それ故に周囲の人には恵まれていた。
辺境に住む全ての人間が家族のようなもので、彼らを信じ必死に動いてきたから今がある。
だから、根本的にサーシャリアと考えが相成れないのだ。
「俺もある程度、人を見抜くことはできるようになってきた。今みたいに、内心を察することもできる。だが、理解できるわけじゃない」
「そんな……」
「リーリアだって何でサーシャリアがここまで頑なにアルフォード達を信じられない理由が分からないんだろう?」
瞬間、はっきりとリーリアの顔色が変わる。
それこそが、何より雄弁な答えだった。
「俺も同じだ。分かんねえよ、人を信じられないということが。だから、サーシャリアの内心を理解なんてできない。多分、セインも同じだろうよ。あいつも人には恵まれているからな」
そこで言葉を切って、俺は告げる。
「おそらく、サーシャリアを真に理解できるのは、人を信じられない状況で生きてきたあいつ等、ソシリアとアルフォードだけだろうよ」
更新遅れてしまい申し訳ありません……。
実は少し難産状態で、モチベーションあげるために一度タイトルをへんこうするかもしれないです。
またいずれ使用人視点とかの別視点の外伝を書いてみたく、それに合わせたタイトルにしたいと思っております。




