表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/167

遠ざかる足音 (マルク視点)

「な、笑えるだろう? 俺はそんな勘違いをしていたんだ。……サーシャリアが追いつめられてたその瞬間まで気付かなかったくせに」


「……アルフォード」


「それどころか、俺は愚かにも俺たちの存在がサーシャリアの心の支えになると思いこんでいたんだよ。本当にどうしようもない」


 そう告げ、軽く笑ってアルフォードは告げる。


「……実際は、サーシャリアにとって負担にしかないというのにな」


 その言葉を聞きながら、俺はなにもいえなかった。

 サーシャリアを看病する日々の中、アルフォードはこうして徐々に理解させられてきたのだ。

 ……自分の判断が裏目となっていたかもしれないことを。


「だから、俺はもう間違えない」


 そして、それこそが頑なにアルフォードが自身を犠牲にしようとする理由だと俺は理解する。


「たとえ俺が嫌われたとしても、伯爵家が今後サーシャリアに関われないよう、徹底的に潰してみせる」


「……待てよ、アルフォード」


 ──それと同時に、俺はアルフォードの暴走を許してはならないことにも気付いていた。


「本当にそう思いこんでいるのか?」


「何の話だ?」


 なにを言っているのか分からない、そんな表情をしたアルフォードの胸ぐらをつかみ、俺は叫ぶ。


「そんなことある訳ないだろうが!」


「ま、マルク!?」


 突然のことに驚くリーリアにも答えず、俺はさらに続ける。


「たとえ嫌われたとしてだと? そんな簡単にサーシャアリがお前への思いを断ち切れるわけがないだろうが!」


 確かに、サーシャリアは今アルフォードの思いを受け入れられるほどの余裕がないことは確かだろう。

 それほどの衝撃を受けるほどにサーシャリアにとって伯爵家は大きな存在で、それをアルフォードが見誤っていたのも間違いとはいえない。


 だからといって、アルフォードが全ての罪をかぶろうとするのが正解であるわけがなかった。

 その思いを込めて俺は叫ぶ。


「サーシャリアがお前のことを何とも思ってないわけがないだろうが!」


 しかし、そう俺がアルフォードを睨んでいられたのはそのときまでだった。


「……そうなら、良かったのに」


「っ!」


 アルフォードの心からの呟き。

 それを聞いて、俺は悟る。


 ……どれだけ言葉を重ねようようが、今のアルフォードに伝わることはないと。


 俺の力が緩んだのに気付いたアルフォードは、俺の手を取り払って離れる。


「どちらにせよ、ここまでくれば伯爵家から手を引くわけにはいかない。伯爵家を潰すのだけは協力してもらうぞ」


 それだけつげ、アルフォードは俺たちに背を向け、扉の方と歩き出す。 けれど、部屋を出る直前でアルフォードは足を止めた。


「……後処理はする。だから、後は頼んだ」


 それれが何のことを指すのか、俺には容易に理解できた。


「アルフォード!」


 その瞬間、俺は反射的に口を開くが、その前にアルフォードは部屋を出ていく。

 まるで言葉を聞くのを拒むように、足音は部屋から遠ざかっていく。


「……気づけよ、馬鹿が。サーシャリアを支えられるのはお前だけなのに!」


 もう聞く気はないのだと理解しつつも、俺は扉へと叫ぶ。


「遅くなったとしても、お前だけは間に合っていただろうが……」


 もう足音さえ聞こえなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ