その目に浮かぶ絶望 (マルク視点)
俺の言葉を聞いたその瞬間、アルフォードの顔から表情が消える。
しかし、それは一瞬のことだった。
すぐにアルフォードはぎこちない笑みを浮かべて告げる。
「……当たり前だ」
俺の目を真っ向から見返し、アルフォードは宣言する。
「好きな人のために全てをかけるんだ。男冥利につきるってものだろう?」
アルフォードが感情を隠すのに長けていることを、俺は知っている。
だからこそ、俺はアルフォードの言葉に思わず顔をうつむけずにはいられなかった。
……まるで声の震えが、隠せていないアルフォードの言葉に。
「っ!」
自分でもそのことが理解できたのか、アルフォードの表情が憎々しげに歪む。
けれどすぐに、アルフォードは完全に感情を無表情の下に隠し、口角だけをつり上げた。
「覚悟くらい、もう決めている」
「だったら、どうしてあんなことをした?」
顔を上げ、表情の読めないアルフォードを真っ向からにらみ返しながら、俺はっさらに言葉を続ける。
「たとえ友人としてだとしても、どうして少しでも意識されようとした?」
表情は変わらない。
けれどその瞬間、はっきりとアルフォードの目に動揺が浮かぶのが分かった。
「……違うそれは」
「なにが違う? サーシャリアの為に執事服まで身につけ、あれだけ必死に動いていたのにか?」
その言葉に、完全に無言になったアルフォードへと俺は告げる。
「いい加減認めろよ、アルフォード。お前は嫌われたくないんだろうが!」
……アルフォードの表情がぞっとするほど冷たくなったのは、そのときだった。
「仮に。あくまで仮定として。俺が嫌われたくなかったとしよう」
「おま! この期に及んで……」
「だったら、他にどうすればよかった?」
「……っ!」
淡々と、必死に感情を押さえつけながら告げたアルフォードの質問。
それに、俺はようやく気付く。
サーシャリアの前、必死に道化として振る舞っていた姿の下、アルフォードは必死に自分の感情から目をそらしていたことを。
……そして自分は、必死にアルフォードが隠そうとしていた気持ちを、表に引っ張り出してしまったのだと。
「これでも、必死にサーシャリアに思いを寄せてきたつもり何だよ。でも実際のところ俺は、一番つらいときにそばに入れなかったどころか……その心の支えにすらなれなかった」
途中、抑えきれない感情が、アルフォードの声を震わす。
そして、アルフォードは懇願するように告げる。
「……俺は、その程度の存在でしかないんだよ」
そう告げたアルフォードの目は、自身に対する自責の念で染まっていた。




