両親の呪縛 (マルク視点)
「なあ、不安で仕方なく、なにを言っても信じられないサーシャリアをどうしたら安心させられると思う?」
……突然のアルフォードの質問。
それに俺とリーリアは顔を見合わせる。
「……その話がいつ独断の理由につながる?」
「いいから答えろ」
そういうアルフォードに俺とリーリアは無言で思考し、そして何とか告げる。
「うまい食い物」
「本とか?」
「まあ、大きくはずれてはいないか」
「……正解は何だよ?」
「食事や、本などに没頭できる……時間だよ」
そう告げた時、なぜかアルフォードの言葉には、苦さが滲んでいた。
しかし、それについて問いかけるより前に、アルフォードは続ける。
「今のなにも信じられないサーシャリアを作ったのは、長期の劣悪な環境と、裏切りだ。だから、サーシャリアを癒せるのは時間だけ。穏やかな場所を維持し、新しく信頼を作るしかない」
「……時間がたったら、ソシリアに対しても?」
「ああ。サーシャリアも癒されていけば、生徒会メンバーに対しても普通に接せられるようになるはずだ。……ソシリアが、ただサーシャリアの為になにかしたかったことにも気付くさ」
アルフォードの表情に、怒りが浮かんだのはそのときだった。
「だが、その間伯爵家が大人しく待ってくれていると思うか?」
「……いや、ないな」
相変わらず、やっかいな連中だと、俺は顔をしかめる。
リーリアが首を傾げて告げたのは、そんな時だった。
「でも、この話と独断に、どこにつながりがあるの?」
「……もう少しでつながるさ」
そう、告げてアルフォードは話しに戻る。
「まあ、何だ。伯爵家がやっかいだと分かったところで一つ、とんでもなく厄介な問題が起こる。分かるか?」
「ん? 潰して終わりでいいんじゃないか?」
「いや、だめだろうな」
「何でだよ」
……その俺の問いに、少し黙った後アルフォードは告げる。
「──サーシャリアは、伯爵家に未練があるからだよ」
「……は?」
思わず声をあげて、俺はつっこむ。
「いや、あり得ないだろう? だってサーシャリアにあんなこと……」
「……ううん。そうかもしれない」
「リーリア?」
思わず俺が振り返ると、リーリアは苦悩を顔に浮かべて告げる。
「……覚えてないの、これで認めて貰えるって、サーシャリアが嬉しそうに帰っていった姿」
「だが……」
「ソシリアだって、そうだったでしょう?」
「……っ!」
それだけで、俺は理解してしまう。
……どれだけ親が残酷でも、子供が簡単に親を切り捨てられないことを。
とどめを刺すように、アルフォードが続ける。
「サーシャリアが吹っ切れているなら、両親の呪縛にここまで苦しむ訳がないんだよ」
──俺がようやく事態の厄介さに気付いたのは、そのときだった。




