全てが手遅れ (ソシリア視点)
瞬間、私の脳裏によぎったのは、今までのサーシャリアとの出来事だった。
──サーシャリア、大丈夫。これからは私が守るから。
──助けてくれた分、私はきちんと恩返しするから。
かつて、サーシャリアに私が告げた言葉が私の脳裏によぎる。
その時私は、それこそがサーシャリアの求める言葉だと疑っていなかった。
本心から、サーシャリアを守る言葉を言っていれば、サーシャリアの心が休まると考えていて。
だから次の日の朝、サーシャリアのベッドの上に置かれていた、私の活動に関する書類を見たとき、私は表面上は怒りつつ喜んでいた。
サーシャリアは、私の言葉に喜んでくれていて、私の仕事を手伝いたいと思っている、なんて考えて。
──実際のところ、私の言葉はサーシャリアに負担を与えていただけなのにも気付かずに。
ようやく、本当にようやく私は気付く。
自身の考えが、あまりにも都合のいい勘違いであることに。
そのとき、サーシャリアがどんな気持ちで書類を読んでいたか、今の私は理解できた。
……私の期待を裏切らないように、必死に書類を読み込んでいたことを。
そして、それは一度や二度の出来事ではなかった。
何度も、何度も私はサーシャリアを無自覚に傷つけていて。
──挙げ句の果て、それでサーシャリアの役に立っているなど、思いこんでいたのだ。
そのことに気付いた瞬間、私の身体から力が抜けていた。
危ないと思ったその瞬間には、私の身体は傾いていた。
「ソシリア!?」
私の身体に衝撃が走る直前、セインが私の身体を受け止める。
……しかし、身体は無傷でも、私は茫然自失の状態だった。
それでも私は、こんなところで自身が倒れることを許せなかった。
「あ、あ、ありがと。セイン」
「おい、ソシリア、そんな状態で……」
「いいから!」
制止するセインを無視して、私は自分の足でたとうとする。
アルフォードが口を開いたのは、そのときだった。
「……いや、セインの言うとおりだ。伯爵家に対して、ソシリアにできることはもうない。休んでおけ」
……明らかに、気を使ったアルフォードの態度。
それを見て、私はさらに気付く。
なぜ、アルフォードが今まで、独断を装ってサーシャリアの情報をコントロールしようとしたかを。
……全ては、私という足を引っ張る人間がいたからだと。
「ちが、私はそんな……」
そう反射的に言い掛けて私は気付く。
……なにも違わないことを。
私はただ、サーシャリアを無駄に傷つけ、皆の足を引っ張っていたにすぎないのだから。
「……いこうか、ソシリア」
完全に抵抗しなくなった私を、セインが支えながら歩き出す。
……私が自分の馬鹿さに気付いたのは、全てが手遅れになってからだった。
次回から、マルク視点となります。




