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手紙の行方 (ソシリア視点)

「……たしかに緊急性はあったな」


 私の報告を聞いて、アルフォードは静かにそう告げた。


「だが、侯爵家について対抗するのは伯爵家の後だ。侯爵家を調べることに関しては、ソシリアがもうしているんだろう?」


「ええ」


「なら、今はさらに情報が集まるのを待つしかないだろう」


 そう告げた後、アルフォードは怪訝そうな表情をしながら告げる。


「……正直なところ、侯爵家の報告はともかく、提案に関しては別に改めて言うほどのことでもないのではないか? ソシリアも優先順位についてはわかっているだろう?」


 そう告げるアルフォードからは、言外に伯爵家に集中させてほしいという心が浮かんでいた。

 しかし、その気持ちに気づいた上で、私は笑ってみせる。


「あら、なにを言っているのアルフォード。今までのことは、全部報告よ。提案は今からよ」


「……どういうことだ」


「言ったでしょ。報告をふまえて、一つの提案があるって」


 その言葉に、アルフォードの表情はさらに怪訝そうなものとなる。

 しかし、少し話していたマルクとリーリアの表情が、はっとしたものに変わる。

 ……いまから私がなにをしようとしているのか、その意図を悟って。


「伯爵家を追いつめる前に、サーシャリアに思いを伝えてほしいの」


「……なっ!?」


 瞬間、アルフォードの表情は変わる。


「待ってくれ。前から言っているだろう、俺は手紙の件で……」


「ええ、知っているわ。だからこそよ」


 そう、私が説得できると踏んだ理由、それこそが手紙の件だった。

 前から、私は疑問で仕方なかったのだ。

 どうして、サーシャリアがアルフォードの手紙を無視したのか。

 たしかに、その頃から侯爵家との婚約の話が進んでいてもおかしくはない。

 けれど、それなら直接サーシャリアはアルフォードに手紙を出すだろう。


 いや、それどころかその婚約を断ってアルフォードの元にきてもおかしくないとさえ私は思っていた。

 ……なのに、実際のところ手紙は無視された。

 だとしたら、考えられることは一つ。


 ──つまり、サーシャリアが手紙を受け取っていない可能性だった。


 そして、その可能性があるとしたら、侯爵家だと私は考えていた。

 たしかに伯爵当主は愚かにもサーシャリアに嫉妬しているし、一番細工しやすい人間だろう。

 だが、王子と婚姻関係を結べるとわかれば、間違いなくその嫉妬も忘れ、アルフォードにしっぽを振るだろう。


 ……実際、侯爵家との婚約について言及したときは、初めてほめられたと浮かれた様子のサーシャリアの手紙が来ていた。


 つまり、伯爵家が不正をするとは考えられない。

 そしてもう一つ、アルフォードが侍女に手紙を渡したという話が、侯爵家の犯行の証拠になると私は思っていた。

 侯爵家カインが、相当浮き名を流していたことも、侯爵家を調べる中私は調べがついていた。

 それを考えれば、伯爵家の侍女と内通するくらい、カインにはたやすいだろう。


 そのことから、私は侯爵家の関与を疑っていて……けれどそれはあくまで想像の域をでることはなかった。

 王子の手紙を隠蔽するなど、たとえ侯爵家でも罪に問われないわけがない。

 だから、そうおいおいと疑いを口にするわけにはいかなかったのだ。


 ──そう、餓狼商という確証を得るまでは。


 マルクとリーリアから、うまく話を聞けた幸運を感謝しながら、私はアルフォードへと告げる。


「アルフォード、貴方は一度サーシャリアにきちんと想いを告げなさい。……おそらく、手紙はサーシャリアに届いてないわよ」

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