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8 ギルド内の陰謀

 酒場での一件があった翌日、フルシはギルドマスターにレイズの事を訴えた。


「だからよぉ、レイズの野郎がギルドの保存資料を全部持って行っちまったんだよ!」


 ギルドマスターはフルシがそこまで資料とやらにこだわる理由が分からず、怪訝な顔をする。


「それがどうしたというのだ。地図なら、毎年ギルド連盟から発行されている物が在るだろう」


「地図だけの問題じゃねえんだよ伯父さん。魔物の生態や出現場所の統計、資源の採掘場所なんかもあの中には在ったんだ」


 フルシの言い分に、ギルドマスターはうんざりした様子で首を振った。あるいは、呆れていたのかもしれない。


「はぁ……お前たち冒険者はそれほどに無能なのか? 魔物と毎日戦っていれば、敵との戦い方くらい頭に入っているだろう。採掘場所にしても同じだ。自分で記録をつけられると言ったのはお前だ。いや、そもそも昔は、冒険者が個人個人で独自に記録を付けていたそうじゃないか。できる事は自分でやれ」


「俺は奴が、ギルドの備品を持って行ったこと自体を問題にしてるんだよ!」


「問題はないと、私は判断した。私も少し見たが、手当たり次第にダンジョンの記録をつけて、冒険者に必要ないとしか思えない事柄までまとめてあった。あんな莫大な資料の山を整理する手間を誰にやらせる? そんな事に人件費を割く気は無い」


 フルシは唖然として固まった。


 確かにレイズがまとめた資料は膨大で、一見無駄な事もある様に見えるが、それらは全て必要な時には必要になる情報だった。

 ダンジョン探索は事情や事態が急変するなどよくある事で、ただ魔物を狩ったり、物を集めればいいという訳ではない。


 例えば、魔物の群れから逃げる時は、当然群れの生息域を避けて逃げるのが安全だからと、巣の場所を精細に記録した資料があった。

 採取業専門のギルドの人員を護衛して連れて行くとなれば、戦闘が少ない方が良いと、隠れ場所や抜け穴など、一般的な地図に記すべきでない情報もまとめる必要があった。


 ベテランの冒険者であれば尚更なおさら、レイズのまとめたその内容の有用性に気づく。

 フルシとしては、レイズを追い出してそれらの恩恵を独占するつもりだったのだが、彼の思惑は味方の無知によって覆されてしまった。

 ギルドマスターは冒険者として働いた経験がないため、その内容の重要性に気づいていないのだ。


 フルシの態度が変わった事など気づかずに、ギルドマスターは続ける。


「そもそも、ギルドがどうしてそこまでやらなくてはいけないんだ? 探索に持って行く道具と同じだよ。必要な物は自分たちでそろえるのが冒険者だろう。ギルドが武器や薬を支給したりしないのと同じだ」


 フルシは自身の伯父が思いのほか無能であった事に落胆し、苛立ちながら話を切った。


「もう良い。埒が明かない」


「ああ。話は終わりだ」


「行くぞ、ロネット! エルドラ!」


 苛立ちをぶつけるような怒鳴り声で、フルシは二人の名を呼ぶ。


「はっ、はい」


 ロネットはそんなフルシの態度に震え上がりながら、その後をとぼとぼとついていく。

 エルドラはそんな二人を見送って、ギルドマスターに声をかけた。


「……マスター、少しよろしいでしょうか?」


「なんだね?」


「近年、他の冒険者ギルドでも冒険者個人で探索記録を付けなくなったのはご存じですか?」


「それがどうしたね?」


 ギルドマスターはエルドラの意図が分からずに怪訝な顔をする。


 エルドラの言う通り、現代の冒険者達は探索中に記録は付けず、地上に戻った後で仲間との情報交換の場で、口頭で知識をやり取りするのが一般的となっている。


 冒険者がダンジョンの深部に潜る様になり、魔物との戦闘が激化してきている中、生死をかける戦場では、戦闘と記録の両立が個人単位では難しくなってきているためである。

 当然それでは精度が落ちてしまうため、それを補うある存在の力が、街の冒険者ギルド全体を実は支えているという話である。


 それを知っていながらあえて、エルドラは伝える事をしなかった。


「……いいえ。マスターのお考えは正しいと、ただそれだけです」


「私に媚を売る時間があったら、探索に行ってこい」


「失礼いたしました」


 エルドラはマスターの執務室を出て、独りほくそ笑んだ。


「ふふっ、馬鹿な人。そのまま破滅なさい」


 静かな微笑みの裏で、彼女が復讐の憎悪をたぎらせている事など、今はまだ誰も知らない。

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