b1 フルシの怒り
フルシは街の影に潜んでいた。
人が寄り付かない路地裏の空白に廃棄物で住処を作り、閉じ籠っている。
彼の足下には新聞紙がいくつも散乱していた。
自分を罪人として取り上げ、非難している物。自分の手柄を横取りしたレイズの行いを讃え、英雄と評する物。
フルシは思う。どうして自分ばかりがこんな目に遭わなければならないのかと。
何もかもが間違っている。ここで讃えられるべきなのは、本来自分のはずだった。
無能な兵隊と馬鹿な貴族のお守をさせられて、あげくにその失敗の責任を全て自分に擦り付けた。
あいつらが悪い。
自分に全ての汚名を擦り付け、成果だけを持って行ったレイズは最悪だ。
あいつがすべて悪い。
レイズがいなければ、そもそも何もかもうまく行っていたはずなのだ。
みんながアイツを頼りにする。情報がどうとか、調査能力がどうとか、そんなものが何だというのだ。
第一、自分が優秀な冒険者として前線を探索するからこそ、レイズは調査ができていたのだ。レイズがぬくぬくと物書きに時間を費やす間、自分は命を張って前線で戦っていたのだ。
レイズの成果は、自分あってのものに違いないはずなのだ。
それをどいつもこいつも、自分を軽んじてレイズレイズと……どうしてそうなる。
記録なんか誰でも取れる。毎日ダンジョンに潜っているのだ。みんな頭に入っているはずだろう。
それなのに、どうしてレイズの助言を求めなくてはならないんだ?
そうだ。誰にでも記録はとれる。あのグズの召使、ロネットだって問題だ。
どうして普通の事も出来ないのだ奴は。そもそも、奴が探索直前にバックレなかったら、困らずに済んだのだ。
ロネットが調査の内容を持ったまま失踪しなかったら、こんな事にはならなかった。
あいつは昔からそうだ。とにかく使えない。
グズでノロマで、はっきりと喋らないし、いつもびくついていて、見ていてイライラする。
回復魔法がそれなりに使えるから傍においてやっているが、それ以外は何の役にもたちはしない。
今回の事でそれがよく分かった。
あんな奴の事をいちいち庇うレイズが、とにかく腹立たしかった。
あいつを追い出したのも、それがそもそもの原因だったか。
いや、待てよ。もしかして、今回の事はそういう事なのか?
レイズが追い出された腹いせに、ロネットと結託して自分を嵌めたのか?
エルドラが妙にロネットの事を庇うのも、それが理由? 三人ともグルだったのか?
フルシの思考は加速する。とにかく自身に都合の良い方へ、物事の辻褄が合わさっていく。
「あいつら、絶対に許さねぇ」
殺してやる。そうフルシは誓った。
自分から全てを奪った裏切り者と敵を、このまま勝ち逃げさせてなるものかと。
「そうだ。全てを失っても、俺にはまだ力がある。アイツらに負ける訳がねぇ。俺が最強なんだからなぁ!」
懐に忍ばせたナイフが斬り札だ。これでレイズとロネットを始末する。
決意を固め、フルシは隠れ家から外へ飛び出した。