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42 ノーデンスの失墜

 翌日、ノーデンスはギルドに出勤して唖然とした。

 昨日とは打って変わって閑散としたギルド内には、人の姿が全くない。抗議するために集まっていた群衆が、嘘のような静けさだった。


「ギルドに人がいないだと……これは何事だ! どうなっている!」


 受付で暇そうにしている嬢へ、ノーデンスは詰め寄った。


「それが、嘆願書を出してもギルドが改善されないため、罷業ストライキするとの事でして……」


 受付嬢は苦い顔をしながら、言いにくそうにそう答えた。


「馬鹿な。あれだけの人数が皆一斉に仕事を放棄したというのか」


「あの、ギルドマスター。そうは仰いますが、うちに残っている冒険者はたったの16人ですよ」


「はっ? 馬鹿を言え。60人以上いたであろうが」


「いえ、街がギルド崩しの被害者に支援を出したので、その件で移って来た冒険者は古巣に戻りましたし、元々所属していた人はほとんどがレイズさんの元へ移籍されましたよ」


「なんだと! そんな報告は聞いてないぞ!」


「何度も報告しようとしました。けど、ギルドマスターがそういう事は君たちに任せるの一点張りで、話を聞かなかったじゃ―――」


「私のせいだというのか! そんな大事な事なら、私にちゃんと言いたまえ!」


 ノーデンスの怒声が、受付嬢の発言を遮る。それでとうとう、受付嬢の忍耐すら限界を迎えた。


「はぁ―――もう、いい加減にしてください。冒険者たちが出て行くのなんて、あたりまえじゃないですか。補助を廃止して、報酬まで減らして、ただ冒険者から搾取するだけになったこの場所をギルドなんて呼べません! 私も安月給で使われてうんざりですよ。他所で働いてる子たちに聞いたら、私の倍以上貰ってるって。老舗のギルドはそんなケチなのかって、いい笑い者ですよ。私も辞めさせていただきます」


 受付嬢は一気にそう言い放つと、カウンターを飛び出して去って行く。


「あっ、おい! そんな事が許されると思っているのか!」


 慌てて引き留めに掛かるノーデンスに、受付嬢は振り向いて中指を立てた。


「貴方に許される必要はありません」


 誰もいなくなったロビーに、ノーデンスの立てる音だけが響き渡る。


「だ、誰かいないのか! おい!」


 ノーデンスの声に応える者はいない。ガーランドとエルドラの根回しによって、既に事務員たちは他所の施設に転職してしまっていた。

 今このギルドには、本当にノーデンス一人しかいなかった。


「……クソッ、クソックソックソッ! レイズか! あのガキの仕業か! このままでは、ギルドが潰れてしまう。こうなれば、あのガキを連れ戻すしかない。皆が奴に付いて行くというのなら、奴を買収すればいい。そうだ。金はある! どうせ正規の冒険者でも無いんだ。大した金も持ってはいまい」


 ノーデンスは決心を固め、レイズがいるというギルドを探しに向かった。



        ◆



「―――お断りします」


 唐突にノーデンスが訪ねてきたかと思えば、いきなり戻ってきてほしいと言われた。

 提示報酬は年5万。冒険者の給与よりは遥かに高い数字なのだが、今の僕はこのままいけば、それ以上に稼げてしまうだろう。


「な、なんだと? この額では足りないというのか!」


 ノーデンスは何を根拠に断られないと思ったのか、狼狽えていた。


「いえ、いくら積まれても戻る気はありませんよ」


「なら、何が望みだ!」


「何も。貴方は僕の仕事を無用なモノと切り捨て、給料を払うのは不合理だと仰いました。僕はこの仕事に誇りを持っています。この仕事の価値が分からない人間に、安売りする気にはなれない」


 僕ははっきりと言ってやった。

 本当は父の事や先代の事をなじってやりたい気持ちはあるが、それをしたらエルドラの計画に支障が出る恐れがある。

 情報屋として、情報漏洩は避けなければならない。


「そこをどうか、頼む。ギルドの危機なのだ!」


「お断りします」


「この私がこうまで頼んでもダメか?」


「いや、貴方が何者かなんて知りませんよ」


「年収10万。それならどうだ!」


 食い下がるノーデンスに、僕は一つ質問を投げた。


「……貴方、レナントという人を知っていますか?」


「誰だそいつは?」


 ノーデンスは怪訝な顔をする。彼がそれを覚えていたところで、どうにかなった訳でも無いが、予想通りの回答に僕は腹が立った。


「……結構。お帰り下さい。私は貴方に協力するつもりはございません」


 ノーデンスは嫌悪をあからさまに顔に表して、舌打ちと共に去って行った。

 終始上からの態度だったが、よくあれで人に戻って来いとか言えるものだ。

 なんだか、以前にも増して悪人に見える。人間、余裕が無くなると本性が出るものなんだな。


「見ていてスッキリする光景だったわね」


 エルドラが楽しそうにそう言って、背後からやって来た。


「エルドラさん、見てたの?」


「ええ。これ以上無いってくらい最高のショーだったわ」


「ははは。君は怖い人だね」


 僕にはあんなもの、哀れとしか思えない。

 こちらが反応に困っていたからか、エルドラは話題を変えた。


「そう言えば、ロネットが近々退院できるそうよ。最近会いに行ってあげてる?」


「いや。色々と忙しかったから。行けてないんだ」


 売り物の情報の精査と編纂を昼間は行い、仕事が上がればホランドの行方を調べたり、クーナさんにかけられた術の解き方を探している。

 最近はあまり寝てもいない。段々と、余裕が無くなってきているのを自分でも感じている。


「今日にでも、会いに行ってあげてくれない? あの子、貴方が行ったら喜ぶから」


「それはまた、どうして? ―――てっ」


 不思議がる僕の額を、エルドラが指で弾いた。


「貴方はもう少し、視野を広げなさいな。どうしてそういうとこだけ鈍いのよ」


 エルドラは少しだけ怒りながら、そう言った。

 言わんとする事は分かるが、勘違いな男と思われたくないだけだ。

誤字報告してくださった方、ありがとうございました! 感謝 *ᴗ ᴗ)⁾⁾


読んで下さり、ありがとうございます!

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