40 1年前の陰謀
39、40二話連続投稿になります。
時は進んで―――1年前。
その日、オムシグの執務室に突然男たちが押し掛けてきた。男たちはオムシグに武器を突き付けて拘束し、彼らの依頼人の前に跪かせる。
男たちを引き連れていたのは、ノーデンスであった。
9年前、殺人事件を調べたアストラとオムシグは、ノーデンスと北皇軍との関係を匂わせる証拠を手に入れて憲兵隊を動かし、あと一歩という所までノーデンスを追い詰めた。
面目を保つために貴族院が介入した事により、ノーデンスは逮捕されなかったが、結果的に彼の社会的信用は失墜した。貴族院との関りを永久的に禁じられ、その噂によって本来の海運業にまで影響が出たのだ。
その時の恨みつらみを、ノーデンスはオムシグの前でぶちまける。
「―――そうして9年前、お前たちの余計な探り込みのせいで、私は憲兵隊に目を付けられ、貴族院からの信用を失い、追放されて出世の機会を逃した。全部お前たちのせいだ!」
「自業自得じゃろう! 北皇人と結託してこの街を裏切った報いじゃ!」
怒るオムシグの言葉を、ノーデンスは嘲笑う。
「はははっ、結局それは証明されなかった。だから私は、こうして今も逮捕されずにいる」
「じゃが、お前を潔白と思うのなら、貴族院はお前を追放したりはせんじゃろう」
オムシグの指摘に、ノーデンスの顔から笑みが消えた。
「……お前らが余計な事さえしなければ、私は潔白のままだった! 全ては円滑に進んだのだ! 大事な顧客と出世の機会を奪われ、憲兵隊の捜査のせいで北皇の連中までいなくなった。私は大損だ!」
「ふざけるな! お前がレナントとリュートを殺したのが発端であろうが!」
オムシグは怒りに吠えた。あまりのノーデンスの太々しさに、殺意にも似た憤りを覚える。
「あの夜、アイツらが余計な気を起こして俺の周囲を探らなければ、あんな事にはならなかったのだ」
「ようやく認めるか」
「ああ。今日くらいは認めてやるさ。どうせアンタはここで死ぬ」
9年越しに得たノーデンスの自供に、オムシグは言い知れぬ不気味さを感じた。
「なぜだ。なぜ9年も経った今、再び我々の前に姿を現した!」
「戻って来たからだ。私の顧客が」
その回答が意味するところを即座に理解し、オムシグは顔色を変えた。
「……貴様、また北皇の連中と!」
「おいおい。耄碌したな、オムシグ。お前の周りにいるのは、一体どこの兵士だ?」
オムシグは慌てて、自分を拘束した男たちを見た。
「まさか、こいつらが!」
「祖国が変わってもなお、彼らは戦争がしたいらしい。戦いは金になる。大いに結構だ。ついでにアンタの椅子も貰って、私は復讐心と金庫を同時に満たせるわけだ」
「そんな風に上手くいくはずがない。この街の冒険者たちは、決してお前の様な者をのさばらせてはおかないぞ。必ず、報いを受ける」
そう睨みつけるオムシグへ、ノーデンスは嘲笑を返す。
「ははは。お前たちの様な剣を振るうしか能のない野蛮人に、私が負けるものか。支配してやるぞ。お前のギルドも、この街の冒険者共も。いずれは連盟を掌握し、貴族院と対等の存在となる」
「愚かな。その様な見栄に何の価値がある」
「お前の様な男には分からんさ。所詮は学の無い野蛮人のボスザルだ」
ノーデンスが手を挙げて合図すると、男たちがオムシグを押さえつけた。その腕に、注射針が差し込まれる。
「ぐっ、何を!」
「ギルドマスター・オムシグは、執務室で病に突然倒れる。そしてその後任はこの私だ」
「そんな事、冒険者たちが許す者か―――」
その言葉を最後に、オムシグは意識を失った。
「許してもらう必要は無い。大金をはたいて買った席だ。理由など、政府がどうにでも作ってくれるさ」
気を失ったオムシグを見下ろして、ノーデンスは高笑った。
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