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37 11年前の出来事 1

過去編。三回くらい続きます。

 ―――11年前。

 街で冒険者を始める者が急増し、ギルドが増え続けたこの時期、冒険者ギルド連盟は街の中で強大な影響力を持つ一大組織として、その頭角を現しつつあった。


 その影響力を危険視した貴族院は、すぐさま対策を講じようと動き出す。

 ギルド連盟の会議に貴族院の介入を迫ったのである。


「冒険者の活動は今や、この街の主要な産業として経済の根幹に関わる様になった。貴族院としてはここまで強い影響力を持つ組織に、政府の目を置かない訳にもいかない。そこで提案したい。今後この連盟会議の議長を我々が任命した人間にやらせてはどうだろう。

 このノーデンス・イズリーム男爵は、帝都で学んだ優秀な男だ。経営の知識に明るく、連盟に大きな利益をもたらしてくれることだろう。

 ギルド連盟が結成されてから三十年。これまで貴族院と連盟は、互いに協力しながらこの街を発展させてきた仲だ。これからはより密にやっていこうじゃないか」


 月一で行われているギルド連盟の会合に突然現れた貴族院は、各ギルドの代表者たちに突然そう通達した。

 当然、冒険者たちはこの不躾な介入に反発した。


「連盟の活動に、政府が口を出すのには反対だ。冒険者は国に属する兵士とは違う」


「そもそも、それは提案ではなく一方的な要求ではないか。そんな横暴を我々が受け入れると思っているのか」


「要は、俺達の金庫の中身をアンタらが監視したいだけだろう! 何が貴族だ。金の匂いに集まって来たハイエナ共が!」


 冒険者たちの怒りの声が上がる中、それをいさめる声が上がった。


「まあまあ、みんな。そう喧嘩腰になると話し合いにもならないぞ」


 ギルド『凪の雫』の代表者である、レナントだった。


「何だ、レナント。お前、こいつらの味方をするのか?」


 ギルド『真紅の同盟』代表のリュートが、レナントを敵視した。

 憤怒する仲間を宥める様に、レナントは柔らかい口調で意見を述べる。


「そうではないよ、リュート。ただ、冷静に話し合おうと言っているだけだ。

 ダンジョンに転送装置を設置した時、援助してくださったのは領主様だ。輸入物資に関しても、色々と税の面で融通してもらっている事もある。確かに僕らは協力関係にある。政府との関係そのものを否定したいわけじゃない」


「だから、こいつらの要求を呑めって言うのか?」


 リュートの問いに、レナントはしっかりとかぶりを振った。


「そうは言っていない。僕としても、連盟会議に貴族院が介入するのは反対だ。連盟会議は、ギルドの活動を話し合う場であり、ギルドの意思とはすなわち僕ら冒険者の総意だ。だから連盟の意向は、活動に出ている冒険者達で話し合ってまとめる様に仕組みが作られている。それを今更否定する事に、良い効果があるとは思えない」


 レナントのその発言に異議を唱えたのは、貴族院が連れてきたノーデンスだった。


「お言葉だが、貴方達は探索の専門家ではあるが、経営の専門家ではないでしょう。ギルド連盟の意向は既に貴方達の活動内容だけでなく、街の経済にまで影響を与える様になっているのですよ。その事を、我々貴族院は危惧していると言っているのです。貴方達素人の集まりだけで会議するよりも、専門家の私が一人加わった方が利益を生む方策を考えやすいと勧めているのです」


 ノーデンスの発言に、レナントは一瞬だけ不機嫌さを表情に表した。


「……だとすれば、なおさらに貴方達を介入させる訳にはいかない。勘違いをしている様だが、我々は商人ではなく冒険家だ。もちろん、金はあるに越した事は無いが、僕らはダンジョンの中でその価値を求める。地上で金を稼ごうとは思わない。その立場を守る為の組合ギルドであり、連盟だという事を理解していただきたい」


「理解できないな。そんな不合理な事を……もっと効率よく金を回収できる方法はいくらでも作れる。それで君たちも街も潤うのだ。何が不満か?」


 食い下がるノーデンスを、リュートが否定する。


「アンタらにはどうせ理解できないさ。レナントが言っているのはな、俺達とアンタじゃ住んでいる世界が違うって事なんだ。貴族と庶民だからとか、金持ちと貧乏人だからとか、そう言う話じゃない。アンタはあくまでも金を求める商人で、俺達はロマンを求める冒険者なんだ」


「浪漫だと? そんなもの。役に立たない子供と遊び人のセリフだぞ」


 ノーデンスも訝しげな表情を浮かべて、リュートを睨む。

 それにリュートは不敵な笑みを返した。


「遊び人か……結構。言い方ってものがあるだろうが、連盟は要するに俺たちの遊びのルールを決める場所だ。勝手も分からない余所者が、入って来るんじゃねえって話だ」


 リュートの発言に、レナントの隣で控えていたガーランドが、呆れてため息をついた。


「本当に難のある言い方だな。だが、その通りだ。俺達はアンタらに方針を捻じ曲げられたくはない。要は俺達に利益を生み続けてもらうために、口を出したいって事なんだろう。だが、それであれこれと指図されるのは御免だ。レナントの言う通り、考え方も目的としている物も互いに違う。協力はできないさ」


 重鎮のガーランドがそう発言した事により、『凪の雫』のギルドマスターであるオムシグが口を開いた。

 ガーランドの発言力が強すぎるため、それが会議の総意になっては困ると判断したのである。


「そう言い切るのは早計じゃと、レナントは言ったんじゃろうが。政府と連盟のこれまでの協力関係を無かった事にはしたくない。ただ、ギルドマスターとしても、連盟会議に貴族院が介入するのは反対じゃ。連盟会議を掌握して街のギルドを一手に支配しようというそのやり方は、不要な争いを生むだけですぞ」


 オムシグの諫言に、貴族院は苦笑いで返す。


「掌握などと……人聞きが悪い」


 一介の冒険者たちの発言を、貴族院が聞く気など最初から無く、半ば強制的に連盟への介入を推し進めるつもりでいた。

 しかし、ギルドマスターの発言であればそれを有耶無耶にはできない。だからこそ、ギルドマスター達には事後報告になる様に、彼らは連盟会議へ事前報告なしに訪問したのである。


 連盟会議は現場主義である冒険者らしく、現役の冒険者達でその内容を話し合う様に決められている。

 そのため、本来ならばギルドマスターは会議に参加しないが、貴族院の突然の訪問にともない、会場のギルドの責任者であるオムシグは例外的に連盟会議へ顔を出していたのだ。


 この展開には、泥棒の現場を咎められたようで貴族院側も立場が無い。

 沈黙した貴族院へ、オムシグは冷静に告げた。


「今更取り繕う事もないでしょう。我らはこれまで通り、程よい距離を保ちつつ仲良くやっていこうではありませんか。ここで我らの機嫌を損ねて、そちらにどんな利がありましょう。どうか、お引き取りを」

誤字報告してくださった方、ありがとうございました。


読んでくださり、ありがとうございます! 感謝!

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