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36 過去からの追撃

 表彰の一件で僕の情報屋稼業が広く知れ渡り、僕らのギルドはかつてないほどの賑わいを見せていた。

 これまで付き合いのあった冒険者や、商会、ギルドが、情報を求めて訪ねて来る様になったのだ。


「はい。四層のゴーストの分布図です。ミスリル武器を忘れない様に。気を付けてね」


 四層に幽霊討伐に行くという冒険者に、魔物の分布図を渡し、


西洋採掘商会(採掘ギルド)の方ですね。これが、ご依頼の有った情報のまとめになります」


 採掘ギルドからは、比較的安全な採掘場所の情報を依頼され、


『魔女の鍋』(錬金ギルド)? ああ、ご無沙汰しております。前のギルドではお世話になりました。ああ、いつもの奴ですね。三層に良い薬草の採取場所が出来ましてね―――」


 錬金ギルドには、新たに見つかった希少な薬草の採取地を案内した。


「うわぁ、すごい繁盛してるね。新聞効果様様だ。何か手伝えることある?」


 いつになく人であふれたロビーの様子に、ミニケは感嘆の様子で口笛を吹く。


「大丈夫だよ、ミニケさん。もう収まって来たから」


「しっかし、君は本当にすごいね。あんな量の情報を捌くとか、頭の中どうなってるの? 噂には聞いていたけど、実際見ると想像以上だわ」


「噂?」


「うん。冒険者ギルド『凪の雫』には、凄腕の記録屋がいるって話。その記録屋が流す情報が、今やこの街の冒険者稼業全体に大きく影響を与えているとかなんとか。まさか、レイズ君がその人だとは知らなかったけどね」


 『凪の雫』とは、以前いたギルドの名だ。しかし、そんな噂があるなんて聞いた事が無い。それって、別人の話なのでは? ……いや、冒険もせずにこんな事をしているのは僕ぐらいなものか。


「いいや。そんな話は初めて聞いたよ」


「あれっ、そうなの?」


 意外そうにするミニケにどう返そうか考えていると、新たな客が来た。


「よう、レイズ」


 気さくにそう声をかけたのは、ガーランドだった。


「ガーランドさん―――と、『凪の雫』の冒険者?」


 ガーランドの後ろには、冒険者達が大勢続いていた。二十人近くいるだろうか。


「今良いか?」


「ええ。大丈夫ですよ。どうぞ」


 彼らの代表者らしいガーランドを、椅子に促す。


「俺達はあのギルドを辞める事にした。ついては、ここで雇ってほしい。こんな事を頼むのは厚かましいと思うが、頼む」


「えっと、その判断は僕ではなく―――」


 唐突な出来事に戸惑いつつ、ちょうど隣にいたミニケに判断を仰いだ。

 ミニケは事情を聞いて、目を輝かせる。


「やっとうちにも冒険者が! もちろん、大歓迎だとも! さあさあ、面接を始めようじゃないか。ああ、私がこのギルドのギルドマスター、ミニケだ。よろしく!」


 大はしゃぎで喜ぶミニケに、若干圧され気味の冒険者達。


「アンタがギルドマスターなの!?」


「若いな……」


「可愛いじゃん。ラッキー」


「何か馬鹿そうだな」


「よろしく頼むぜ、ミニケちゃん!」


 しかし、そんな好意的(?)な意見が冒険者達から挙がる。


「おいっ、今馬鹿っぽいって言ったの誰だ!」


 ミニケは楽しそうにしながら、冒険者達とじゃれ合っていた。彼女の目的であったギルド再建も、早々に叶いそうな雰囲気だ。

 しかしそれとは対照的に、どこか沈んだ雰囲気を纏う男が目の前に一人。


「押しかけてしまって悪かったな」


「いえ。ミニケさんは喜んでいるんで、大丈夫だと思います。それより、貴方が『凪の雫』を辞めるって、どういう事です?」


「あれはもう、俺が知っている『凪の雫』じゃない。先代がいなくなって、ノーデンスの野郎がマスターになって、それですべて変わっちまった」


「そんなに、状況は良くないんですか?」


「ああ。一番の問題は、奴が何も知らな過ぎるという点だ。アイツはいかに、金を回収できるかにしか興味がない。雑務は全部下の職員に押し付けて、やっている事と言えば挨拶回りくらいなものだろう。だから就任から一年経っても、冒険者ってものを全く理解しない。

 今日話して分かったが、アイツはギルドの内情をほとんど知らなかった。それで経営者気取りとは本当に笑わせるぜ。いや、そもそも、俺達は商会(カンパニー)ではなく組合(ギルド)なんだ。アイツはそこをはき違えている」


 後進育成と、相互扶助を目的とした組織であるギルドは、商人の様に金銭の稼ぎを最終目的とする組織とは存在意義が異なる。

 そういう意味では確かに、ノーデンスのやり方は金儲けに走り過ぎていると言えた。


 本来は組合としての性質上、ギルドの利益ではなく、冒険者の利益を優先するべきなので、冒険者に対する福利厚生を切る事をしてはならない。が、ノーデンスはそれを率先してやってしまっているのだ。


「そもそも、どうしてそんな人間がギルドマスターになったのです?」


「先代が病で引退したから、老舗ギルド存続のために急遽空いた穴を埋めるべく政府が用意した。公にはそうなっているが、まあ、当然信じちゃいないよな」


「ええ。ギルドマスターは貴方が継ぐべきだった。それはみんな思っていた事です」


 本来なら、古株の冒険者であるガーランドは、先代の後を継いでギルドマスターになるべき人物だ。

 しかし、突然の先代引退と同時に政府が割り込んで、ノーデンスがその席に就任してしまったのだ。


 ノーデンスは、先代の支持者であった古株のギルド事務員たちを全員解雇し、他所から連れてきた自分のシンパをその後釜に据えた。

 それによって徹底的な言論統制が敷かれ、その内情を調べる事は難しくなっていた。

 僕はダンジョンでの情報収集がメインなので、その辺りに時間を割く余裕はあまりなく、結局調べられずにいたのだ。


「先代は、アイツに嵌められたんだ」


「っ! どういう事です?」


 突飛なガーランドの発言に戸惑っていると、奥の部屋から出てきたエルドラが更に畳みかけてきた。


「ノーデンスは冒険者に復讐したがっていたからよ」


「エルドラさん……今の話って?」


 エルドラは僕の隣に座ってため息をつくと、どこか辛そうに訊いてきた。


「……貴方、御父上を今でも恨んでる?」


「っ! どうして、今それを? それがこの事と関係があるんですか?」


 親父の事を出されて、条件反射で身構えてしまう。そんな僕を、エルドラは宥める。


「落ち着いて。無ければ出さないわよ、こんな話。貴方が嫌がっているのは知ってるもの」


 エルドラも、あまり進んでこの話をしたがっている訳ではない様だった。


「恨んでは、いないと思います。でも、許せない」


 正直な思いを、口にする。

 かつて、僕の父はガーランドと同じパーティーに所属する冒険者だった。ギルドのトップパーティーに所属する優秀な人で、誰もが彼を慕っていた。

 だが、ある日突然父は同業者を殺して姿を暗ませた。理由は分かっていない。


 それ以来、残された僕は街中の冒険者から、白い目で見られる事になった。

 この街は、冒険者の名誉を傷つけた者に容赦はしない。冒険者は、信用が無ければ成り立たない仕事だからだ。


「……オルコラと話した夜、貴方言ってたわね。子供に無用の咎を背負わせる親は最低だって」


「そうですね。俺は父のせいで、大変迷惑しましたから」


「それもノーデンスのせいだと、貴方は知っていた?」


 エルドラの発言に耳を疑う。


「は? 何ですかそれ? アイツが、父とどういう関係があるって言うんです!?」


 エルドラに詰め寄る僕を制して、ガーランドが言った。


「お前の親父を殺して罠に嵌めたのは、ノーデンスだ。お前の親父は、犯罪者なんかじゃない」

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