34 プラントミミック討伐
騎士隊長とウェンディッド、そして戦闘可能な騎士4人を連れて、僕らはプラントミミックがいるという広間へと向かった。
「たった7人で、本当にあの魔物を倒せると思うか?」
再び強敵を前にして、ウェンディッドが不安そうに僕に訊ねた。
断言はできないので、代わりに前向きになれる話を提供した。
「殿下、お言葉ですが冒険者の平均パーティー人数は4人です」
「そうか。冒険者は過酷な仕事なのだな」
ウェンディッドはどこか気の毒そうにして頷いた。
確かに、4、5人で探索って割と無茶してるよな、冒険者。
「では、手筈通りに。アストラさんを救い出しましょう!」
「うむ」
僕の号令で、皆が構えを取る。
それに応じる様にして、プラントミミックも眷属を放ってきた。
「やはり出してきたか!」
騎士隊長の発言からして、あれが爆発するという魔物か。僕の記憶と一致する。これなら問題はなさそうだ。
僕と騎士隊長とウェンディッドが武器を構えて魔物に突進し、後衛の四人が魔法を放つ。
「≪トスラ・ブリザ≫!」
味方の放った氷の魔法が眷属たちに直撃し、その身体を一瞬で氷漬けにする。
「核を一気に突くんだ!」
味方に指示を出しつつ、氷漬けになった眷属の核を剣で貫いた。
この眷属たちは体内に爆発物質を持つ魔物で、火や衝撃を受けると爆発する。植物の様な見た目をしているが、実は火属性の魔物という質の悪い奴で、見た目に騙された敵がまんまと≪火≫で攻撃すれば、破裂して攻撃してくるという厄介な敵なのだ。
だが、それを知っていれば対処はとても簡単で、氷魔法で爆発物質は簡単に無力化できてしまう。後は剣で斬ろうが槍で突こうが、爆発する事は無い。
「本当に無傷で倒せた……」
眷属を全滅させて、騎士隊長が驚きの声を上げる。
「このまま突っ込む! 援軍を召喚させるな!」
眷属を倒した事でわずかに気が緩んだ皆にそう発破をかけて、プラントミミック本体に突っ込む。
プラントミミックは、先端の尖ったツタを複数本伸ばして、迎撃の姿勢を取った。
「≪トスラ・ブリザ≫!」
背後から飛んできた味方の氷魔法が、ツタを凍らせていく。
動きの止まったツタを切断しながら、プラントミミックに迫る。
「グルルル……ギシャアアアアアッ!」
悔しそうに足元の食人植物は唸った。
花弁の様に四つに割れた捕食器のうち二枚を切断して、食人植物の上に飛び乗る。
「さあ、殿下お早く! ここの管を切ってください」
アストラの身体を拘束するツタを切断しながら、後から飛び乗って来たウェンディッドに指示を出す。
彼女の背中には毒と養分を注入するための管が刺さっていた。
「うむ。今助けるぞアストラ!」
ウェンディッドがそれらの管を全て切断し、僕の方も全ての拘束を切り離した。
アストラをウェンディッドが抱え上げ、僕ら二人は食人植物から飛び降りる。
「よしっ! 今だ!」
僕の合図と同時に、味方が一斉に氷魔法を連発した。氷魔法の連撃が、食人植物を凍らせていく。
実はプラントミミックも眷属と同様に火の属性を持つ魔物で、冷気に耐性が無いのだ。
「ギシャアアァァァァ―――!」
断末魔を上げて、プラントミミックは萎れて動かなくなった。
ガチガチに凍ったその身体が、割れて崩れ落ちる。
「やったか?」
「倒したぞ!」
「我々の勝利だ!」
仲間の仇が討てたことに、騎士たちは大喜びだった。
「すぐにアストラさんの手当てをお願いします!」
僕らは後方に一人控えさせていた回復魔法使いの元へ、アストラを連れて行く。
「彼女をうつ伏せに寝かせて」
ウェンディッドにそう指示を出し、アストラに刺さっている管を抜く。返しの付いた棘で身体に刺さっているため、下手に抜くと棘が体に残ってしまうのだ。
この手の仕掛けを持つ魔物は結構多いので、抜くのはお手の物だ。全ての棘を除去して、後は回復役に託す。
「よし。抜けた。傷の手当てを。解毒魔法と、衰弱に対する処置もお願いします」
「了解です」
不安そうに見守るウェンディッドに、状況を説明する。
「息は有りましたから、アストラさんは大丈夫でしょう。過去に救助した前例もありますが、その時も後遺症とかは無かったはずです。ただまあ、希少な事例なんで慎重に様子は見たほうが良いでしょう」
「レイズ殿、本当に感謝する。貴公が居なければ、私は後悔したままこのダンジョンを去るところであった」
ようやく安心した様な柔らかい笑みを浮かべて、ウェンディッドは礼を告げた。
「魔物に対する立ち回りも見事でしたぞ! この戦いの功労者ですな」
騎士隊長も満足顔で、笑っていた。
「いえ。自分は少し助言しただけの事。倒せたのは、騎士の皆さんが優秀だからですよ」
「それでも、貴公の働きに報いたい。報酬は、望む物を用意しよう」
ウェンディッドは真剣な顔でそう言ってくれたが、いきなり報酬と言われても悩む。
「報酬ですか。いえ、自分は別に……」
「受け取るべきですぞ。貴方はそれだけの働きをなさった」
騎士隊長も強く説得しにくる。
それなら、手っ取り早く金銭でも要求すれば、ミニケ辺りは喜ぶだろうかと考えて、ふと思いついた事を話してみた。
「うーん、そういう事ならば、殿下に一つ助けて頂きたい事が在ります」
◆
その後、分かれて行動していた他の探索隊に救助され、ウェンディッド率いる班は無事にダンジョンから生還する事が出来た。
ダンジョン内で起きた出来事はすべて公表され、ウェンディッドは恋人を救い出した英雄として、民衆にもてはやされる事となる。
レイズもまた、探索隊救助と魔物討伐の功労者として、街から表彰されたのであった。
そんな内容が一面を飾る新聞を手に、昼間から酒をあおる若者たちが居る。
レイズが元々所属していた冒険者ギルドの冒険者達である。
近頃訳あって仕事が滞っているために、彼らは依頼も受けずにギルドの酒場で暇を持て余していた。
「聞いたか? ギルド崩しの被害ギルドに、街が立て直しの補助金を出すってさ」
「ああ。聞いた聞いた。レイズが領主に頼んだんだってな」
「あの人ただの記録係とか言ってたけど、めっちゃ優秀だったんだな」
「表彰物の大活躍だもんな。全滅しかけた探索隊を助けて、アストラまで救助したんだろう?」
「いやいや。あの人は元から優秀だって。この街の冒険者は、あの人の記録のおかげで冒険できてるんだぜ」
「それを追い出しちゃうんだから、ウチのギルマスは頭おかしいって」
「このギルドもおしまいかもな……」
冒険者たちはそんな会話を交わして、背後の光景にうんざりと目を向けた。
ギルドのロビーは、抗議する人々で殺到していた。