31 フルシの失墜4
タイトル間違えてました。(( ;゜Д゜)
壊滅的な被害を受けた探索隊は、来た道を引き返し、魔物の気配が無い安全地帯まで撤退した。
隊の人数は半分以下にまで減っており、生き残った騎士たちもほとんどの者が戦う余裕も無いほどに、満身創痍であった。
幸いな事に、後衛の回復術師隊に被害は無く、安全地帯に到着するとすぐに負傷兵の手当てが開始された。
とはいえ、戦力を削がれた状態が改善される見込みは無く、探索隊は仲間の死体を回収するどころか、自分達が無事に地上まで戻れるかどうかも危ぶまれるほどの窮地に立たされていた。
魔物のはびこる魔窟の只中で立ち往生し、援軍の助けを待ち続ける事しかできない。
不安と不満が隊員たちに蓄積されていく。
そしてそれらをぶつける対象は、自然に案内役のフルシへ向けられる事となった。
「フルシ殿! これは一体どういう事ですか!」
騎士隊長の叱責に、フルシは取り繕う事を止めて、素のまま立ち向かった。
「何が言いたい? 隊が壊滅したのは俺のせいだって言うのか? 戦闘を任せろと言ったのはアンタだろう! 自分の失態を俺のせいにするな!」
探索が失敗した以上、半ばフルシは自棄になっていた。
全く反省の色が見えないフルシの態度に、騎士隊長は呆気にとられ、憤慨した。
「何を……! あの魔物に火を放って良いと言ったのは、貴方ではありませんか! その結果敵が爆発し、十二人の優秀な騎士を喪う事になった!」
「アンタが訊いたから、仕方なく答えたんだろうが! 俺は事前に未知の事象だと言っておいたはずだ。あんな魔物がいる事なんて、俺だって知らなかったさ」
「この期に及んで、開き直るのですか。恥を知りなさい! だいたい、貴方はそうやって最初から適当な発言で我々を振り回すばかりだ。
我々は、貴方が探索のプロだと聞いたから、案内役に就いてもらったのです。それがどうだ。ここまで、一度だって貴方が我々に有益な情報を提供した事がありましたか? 役に立った事が在りましたか? 答えは否だ!
覚悟しておくことだ。地上に戻ったら、貴方を戦犯として訴えますからな!」
騎士隊長の宣言に、フルシも流石に参ってしまう。犯罪者にされたのでは敵わない。
「馬鹿なっ、戦犯だと! 俺が何をした! 負けたのは指揮官であるお前の責任だろう!」
「探索の案内ができると我々を欺き、虚偽の情報で混乱させた罪だ! 戦いで生じた全ての責任は私にある。その罰は当然、指揮官として受け入れますぞ。だからこそ、私は貴方を糾弾するのです! 私には貴方のした事を追及する責任がある!」
「ふざけるなっ!」
フルシは立ち上がると、自分の荷物を持ってその場に背を向けた。
「どこへ行くのです、フルシ殿!」
「付き合いきれん。俺だってお前らみたいな素人のお守は御免だ。俺の助言がいらないと言うのなら勝手にしろ。俺も勝手にやらせてもらう」
一足先に地上へ戻って対策を練ろう。そう考えたフルシの足を止めたのは、複数の視線だった。
今のやり取りを聞いていた騎士たちが、一斉にフルシへと非難の目を向けていた。
「なっ、なんだよお前ら……」
命の危険を感じて、フルシが身構える。
直後、唐突に悲鳴が上がった。
「ぐあああっ!」
フルシは恐怖で飛び上がるが、悲鳴は全く別方向から聞こえていた。
一同が悲鳴の先に視線を向けると、そこに不審な男の姿があった。隊にいた人間ではない。
男の手元には血の滴るククリ刀が握られており、その足元には悲鳴の主であろう騎士が倒れていた。
「何者だ!」
敵と判断し、騎士隊長は剣を抜く。
騎士隊長の問いかけを無視して、男は背後へと告げた。
「フンッ、手負いの騎士など相手にもならんな。皆殺しにしろ」
男の背後に広がる暗がりの中から、黒ずくめの集団が現れる。集団は空間になだれ込むと、治療中の負傷兵たちに容赦なく襲いかかった。
ククリ刀の男はその混乱の中、真っすぐにウェンディッドへ向かって走り出す。
「フルシ殿っ、奴の狙いは!」
ウェンディッドを背後に庇って、騎士隊長は剣を構えた。
「分かっている!」
流石にこの状況を見過ごすわけにもいかず、フルシも剣を抜いて男の進路に立つ。
両者の剣がぶつかり合う。
ククリ刀の素早い斬撃を全て受け止めて、フルシは男へ斬りかかる。
男は後ろに退いて、フルシの剣を回避した。
「ほうっ、やるな」
感心した様子で、男はフルシを称賛する。
「当たり前だ。俺はこの街最強の剣士だぞ」
そう言い切ったフルシへ、男は次に嘲笑を向けた。
「だとしたら、この街は容易いな。――クーナ!」
男がそう名前を発した途端、彼の背後から少女が現れた。
人外的な速度でフルシに接近した少女は、握りしめた拳をその腹部へとねじ込んだ。
「ごはっ!」
反応する間もなく、フルシは急所にクーナの拳を受けて吹き飛んだ。
殴られた時点で意識は飛んでおり、フルシの身体は操者を失った人形の様に地面を跳ね転げる。
それでも気を失っただけで息はあるフルシの様子を目にし、男は興味深そうにクーナを見た。
「――やはり殺さないか。術の支配下に有りながら、まだ抗っているのか、クーナ?」
クーナは何も答えず、次の命令を待つ人形の様に佇んでいた。
男は嘲笑する様に鼻を鳴らして、意識を再度ウェンディッドへと向ける。
「殿下には指一本触れさせん!」
騎士隊長がその前に立ちはだかった。
男の素早い斬撃が、騎士隊長に襲い掛かる。
当初、騎士隊長など敵ではないと、侮った様に得物を構えていた男だったが、フルシ以上に冴えた剣で立ち回る騎士隊長に、ククリ刀の男は度肝を抜かれた。
騎士隊長の剣は重く、それでいて鋭い。速度を重視した男の軽い太刀筋とは相性が悪かった。
「ほう、王国の戦士も馬鹿にできないな」
騎士隊長に圧され気味の男は、心からの称賛を送る。
「当然だ! 殿下をお守りする騎士として、賊に後れなど取らぬ!」
「なら、こちらも本気で向かおう!」
男はもう一本のククリ刀を抜き、二つの刃で騎士隊長に襲い掛かった。
「≪加速≫!」
男がスキルを唱えると同時に、全ての動きが速まっていく。
自分の倍の速度で立ち回る相手に、騎士隊長は次第に圧されていく。形勢は逆転した。
男の斬撃が騎士隊長の腕を直撃し、怯んだ隙に蹴りの追撃が入る。
「ぐああっ!」
「さっきの威勢はどうした?」
倒れ込んだ騎士隊長を見下ろし、男はウェンディッドへ向けて手をかざした。
男がただの剣士と思い込んで、騎士隊長の後ろで鞘に手をかけていたウェンディッドは、その動作に目を見開く。
ウェンディッドが回避行動を取るよりも先に、男の手から雷撃魔法が放たれた。
「止めろおおお!」
騎士隊長が起き上がってウェンディッドを庇おうとするが、間に合わない。
その場にいた誰もがウェンディッドの死を確信した。
が、雷撃がウェンディッドへ直撃するのとほぼ同時に、別方向から声が上がった。
「≪魔法障壁≫!」
突然現れた障壁が雷撃を受け止め、ウェンディッドを守る。
「なんだと!」
不測の事態に男が狼狽え、声のした方向を向いた。
「ふぅ、危なかった。やっと見つけたよ。ホランド」
そこにいたのは、憲兵の集団を引き連れたレイズだった。
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