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24 異変とパーティーの決裂

 目を覚ますと、見慣れぬ天井が目の前に広がった。

 どうやら、昨夜はギルドの事務室にあるソファーの上で寝てしまったらしい。

 ベットに潜ればいいものを、我ながら間抜けだ。おかげで身体中が痛い。


「はぁ……今何時だ?」


「日が昇ったばかりよ」


 倦怠けんたい感と戦いながら体を起こすと、エルドラがマグカップを差し出した。中身はコーヒーだった。


「四時間くらいしか寝てないのか……エルドラさんは徹夜かい?」


「いいえ。流石に仮眠は取ったわ。でも目が覚めてしまって」


 僕に差し出したのは自分で飲むために用意した物だったのか、エルドラは給湯設備の方へ歩いて行くと、コーヒーを淹れ直す。


「分かるよ。なんだか落ち着かない感じだ」


 虫の知らせ。悪い予感。呼び方は何でもいいが、そんな感じの嫌な気配があった。今朝の目覚めがすっきりしないのは、どうもそのせいらしい。


 ふと、連続した重い金属の音が遠くから聞こえてきた。窓から表の通りを覗くと、武装した兵士の行進が見える。

 向かっているのはダンジョンが在る方向だ。


「騎士団の行進か……例の探索隊だな。君は行かなくて良いのかい?」


 フルシのパーティーは案内役として探索隊に同行すると、ロネットから聞いている。

 エルドラは特に急いだ様子も無く、のんびりとコーヒーを口にした。


「慌てるような時間でも無いけれど……まあ、遅れるよりは良いか。ロネットと合流してから行くわ」


「なら僕もついて行くよ」


 ミニケは一晩で退院なので、クーナ共々迎えに行かなければ。


 僕らは近くの食堂で早めの朝食を済ませた後、病院へ向かった。

 それでも時間が早すぎて、病院に着いたのは6時頃だった。当然、対応してくれた受付の女性は、僕らの訪問に困った顔をする。


「申し訳ございません。面会時間は9時からとなっていまして―――」


「いえ。連れを迎えに来ただけですので。昨夜、ミニケという女性の個室に泊まった付添人がいたはずですが」


 エルドラがそう切り出すと、受付嬢は不思議な顔をした。 


「えっ? ……いえ。昨日は泊りの面会者はいませんよ」


「13歳ほどの女の子と、冒険者の女性が来たはずなんだが」


 僕がもう一度たずねると、受付嬢は手元の記録を確認してくれたが、やはりかぶりを振った。


「いえ。記録には何も」


「失礼するよ」


 僕とエルドラは止める受付嬢を無視して、ミニケの病室に直行した。

 何かがおかしい。今朝から続く嫌な気配が、増大していく。


 襲撃の犯人は捕まっているからか、すでに護衛の姿は無かった。

 ミニケの病室に入ると、中には眠っているミニケ以外誰もいなかった。


「ふぁー、なになに、何事?」


 突然入って来た僕らに驚いて、ミニケが驚いたように目を覚ます。


「ミニケさん、ゴメン。クーナさんがどこにいるか知ってる?」


「クーナちゃん? いや。昨日みんなと出て行ったきり、会ってないけど」


 僕の問いに、ミニケは眠そうな顔で答えた。返って来た内容はしっかりしているので、寝ぼけている風でも無い。


「昨日の夜、ロネットと来なかったの?」


「いいや。君たちの後には誰も来ていないよ」


 再度エルドラが訊き返しても、回答は当然同じだった。

 同じ質問を二度されたミニケは、不思議そうに首を傾げる。


「どういう事だ?」


 ギルドには僕らがいたから、戻っていればすぐに分かる。

 病院とギルド、それ以外に二人が行く場所なんて見当もつかない。

 嫌な想像が脳裏をよぎる。二人は何か、事件に巻き込まれたのではないのか?


「まだ焦るのは早いわ。もしかしたら、ロネットが自宅に連れて行ったのかも。まだ何かあったと決まったわけじゃない。」


 動揺している僕を落ち着かせるように、エルドラは言い聞かせてくる。


「そうか。それもあり得るか。僕はギルドの方を当たってみる。エルドラさんはロネットさんの家を」


「分かったわ」


 こうなれば思いつく限り、ロネットと関係のありそうな場所を当たろう。


「あっ、待って。私も行く!」


 僕らが病室を出ようとしたところで、ミニケがベッドから飛び降りた。


「ケガ人だろう? 安静にしていた方が――」


「大丈夫! 様子見で一晩泊まっただけさ。とっくに治っているよ。今は二人の方が大事だろう?」


「分かった。行こう、ミニケさん」


 エルドラと一旦分かれて、僕はミニケと共に、ロネットの所属するギルドへ向かって移動した。


 早朝にも関わらず、ギルドは冒険者の出入りが激しくて、忙しない様子だった。探索隊にはギルド連盟の冒険者パーティーが多数参加するらしく、皆が準備に追われているのだろう。


「ここが、君が以前に所属していたギルドか」


「ああ。すごく久しぶりな気がするよ」


 ミニケと共にギルドの施設へ足を踏み入れる。離れてから一か月も経っていないのだが、随分と久しぶりな気がした。


「チッ――どうしてアイツらじゃなくて、お前がここにいるんだ!」


 入った途端にそう声をかけてきたのは、フルシだった。エルドラ達を待っていたのか、出入り口付近で不機嫌そうに腕を組んでいた。


「フルシか……エルドラならもうじき来るさ。その口ぶりだと、ロネットはここにいない様だね」


「これから大事な探索だって言うのに、アイツら何をしているんだ」


 直後に、背後で息を切らす気配がしたので振り向くと、そこにエルドラがいた。ここまで走って来たらしい。


「エルドラさん、どうだった?」


「ダメ。あの子の家には誰もいなかった」


 苦い顔で、エルドラはかぶりを振る。


「ここにもいないらしい」


「そんな。二人は一体どこに行ったの?」


 僕の報告に、エルドラは怪訝な顔をする。


「おいっ、どういう事だ? ロネットがいなくなったのか?」


 僕らの会話を聞いて、フルシも顔をしかめた。


「ええ。昨夜別れてから、行方が分からなくなっているのよ」


「ふざけやがって。下見の内容は全部アイツが持っているんだぞ。どこをほつき歩いてやがる!」


「仲間が事件に巻き込まれたかもしれないのに、心配なのは探索の事か?」


「外野は黙ってろ。これはウチのギルドの問題だ!」


 口を挟んだ僕に、フルシがものすごい剣幕で吠えた。彼は彼で追い詰められているらしい。


「打ち合わせの時間が近い。こうなれば、俺達だけでなんとかするぞ、エルドラ」


「ロネットは探さないの?」


「遅れて来るヤツの面倒を見るために、他のギルドの前で恥をかけってか?」


「ロネットはこんな時に予定をすっぽかす様な子じゃない。それはアナタだってよく知っているでしょう? きっと、何か事件に巻き込まれたのよ」


 ロネットを探すべきだと言うエルドラに、フルシは強く言い放つ。


「だったら何だ。どんな理由が在ろうと、アイツがここにいないのが悪い。アイツの事情なんて俺には何の関係も無いね。役立たずは俺のパーティーには必要ない。俺をそんな事で煩わせるな!」


「この、人でなし―――!」


 エルドラが手を上げる。

 だが、気づけばそれよりも先に、僕がフルシを殴っていた。


 何も考えていなかった。ただ、一瞬で沸き起こった怒りに身を任せていて、気づけばフルシは目の前で倒れていた。


「おうっ……良くやったレイズ」


 やや戸惑い気味にそう褒めるミニケの声が、背後から聞こえた。


「君の言い分も分からなくはない。君にも立場や責任があるんだから、仕方のない事だ。でも、君の言った事は許されない事だ。君の為にあれだけ尽くしたロネットを、そんな風に罵って切り捨てるのは間違っている。あの子は、君の役に立とうと努力していたんだぞ」


 ロネットはフルシに押し付けられた仕事でも、ちゃんとこなせる様にしたいと、僕のところに効率の良い記録の取り方を聞きに来た。

 見せてもらった手記には、彼女が今日の日に備えて努力した形跡が、よく表れていた。


 やつれた顔にやる気の表情を浮かべて、僕らの探索に付いて行きたいと言った時、僕はロネットを痛ましいとすら思った。

 あんなに頑張っている子を、役立たずとだけは言わせてなるものか。


「努力しようが、役に立たなきゃ意味なんかねえんだよ」


 フルシは身を起こしながら、そう叫んで僕に敵意を剥きだした。

 その前に、エルドラが立ちはだかる。


「見損なった―――とは言わないわ。元から貴方がそういう人だって事は知ってるもの。私は仕事より仲間を優先するわ。後は好きにやって頂戴」


 エルドラはそう言い残すと、僕の手を引いてギルドの外へと出た。


「クソッ、待てよエルドラ! お前がいなかったら、誰が戦うんだ!」


「知らないわよ。貴方の事情なんて、私には何の関係も無いわ。このギルドが恥をかこうと、それも知った事じゃない。役に立たないのなら、どうぞ私も切り捨てなさい。貴方は他人に求めるばかりで、仲間の役に立とうとした事なんて無いじゃない!」


 エルドラはフルシへ怒りをぶつける様にそう叫んで、足早にその場を去って行った。

誤字報告ありがとうございました! 感謝! キャラの名前間違いは真剣に注意します。(`д´)ゝ


読んでくださり、ありがとうございました!

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