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20 反撃の始動

 ギルドへの帰り道、一足先に曲がり角を曲がったクーナが叫んだ。


「なにこれ!」


 ロネットと目配せして戦闘に備えつつ、クーナの元に駆け付ける。僕らもまた、目の前の光景に唖然とした。

 ギルドの入り口が爆破された様に崩壊していたのだ。

 建物の周囲には憲兵隊の姿もあり、ここで事件が起きた事を物語っている。


「っ! デイビスさん、これはいったい?」


 憲兵隊の中に見知った顔を見つけて、僕は声を掛ける。

 デイビスも僕の姿を見て驚いた様子だった。


「お前は――そうか。ここのギルドの関係者だったか」


 デイビスは少し言いにくそうにして、深刻な顔で僕らに言った。


「ここのギルドマスターが怪我をして近くの病院に運ばれた。すぐに行ってやれ」




 デイビスに案内されて、僕らはミニケが運ばれたという病院を訪ねた。

 ミニケの病室には憲兵の護衛が付けられていて、事件がやはり彼女を狙ったものだという事を示唆していた。

 移動中デイビスは何も言わなかったので、不安な思いで扉を開けると、意外な事に病室には先客がいた。


「エルドラさん、どうしてここに?」


「あら、久しぶりね」


「彼女が助けてくれたのさ」


 エルドラがいる事に驚いている僕らへ、ベッドの上からミニケが言った。

 彼女には目立った外傷がなく、僕は一息ついた。治癒魔法で治せる範囲の傷だったのだろう。本当に良かった。


「ミニケさん、大丈夫?」


 ベッドに駆け寄ったクーナが、心配そうにたずねる。そんなクーナの頭を撫でながら、ミニケは陽気に振舞った。


「いやあ、こっ酷くやられたけど、幸い骨とかは折れてないってさ」


「誰にやられたんだ?」


 僕が訊くと、ミニケは真剣な顔になって答えた。


「顔は隠していたから断定はできないけど、声に覚えがあった。あれは多分、ギルドを出て行った連中だと思う」


「『吹雪の旗』か……」


「連中の目的は、事件を嗅ぎまわっているボクらの抹殺と、君の集めた証拠資料の回収だったみたいだ。途中でエルドラ君が来てくれたから、そのどちらも未遂に終わっているけどね」


 そう言ってミニケは、サイドテーブルに積まれていた資料を僕に差し出した。それは僕らが集めた"ギルド崩し"の調査資料だった。


「……申し訳ない。僕のせいでミニケさんを巻き込んでしまった」


「水くさい事を言うなよ。ボクは事件の被害者だぜ。関係ないなんて事は無いよ」


 ミニケはそう言ってくれるが、この事態を想定できなかった僕の詰めの甘さにも、多大な責任がある。


「事情はミニケから大体聞いているわ。ギルド崩しの犯人、もうほとんどそいつらで確定なんでしょう?」


 僕らのやり取りを静観していたエルドラが、頃合いを見て口を開いた。


「ああ。今までは断定する要素が無かったけど、今日の襲撃が『吹雪の旗』の仕業なら、疑う余地はない」


 連中の真意は分からないが、少なくとも僕らの敵であることは確定した。白昼堂々ギルドを襲ったのだ。この件に関しては少なくとも言い逃れはできないだろう。


「ミニケさん、後は任せてくれ。この代償は連中にきっちり払わせる」


「……できれば君たちに危険な事はしてほしくない、というのが本音なんだけどね。無理はしない様に」


 止めても無駄なんだろうと言いたげに、ミニケは心配そうにそう言った。


「ああ」


 僕はそれだけ答えて頷くと、病室を出た。

 律儀に外で待っていてくれたデイビスに、事情を話す。


「デイビスさん、話があるんだ」


「いつになく真剣な顔だな。聞こうか」


 僕は資料を提示しながら、デイビスに"ギルド崩し"と今日の襲撃の目的を説明する。


「―――ギルド崩しの真相か。これは本当なのか?」


「ここの資料だけでは疑惑しかないし、連中がミニケさんを襲ったというのも本人の証言だけだ。しかも声だけ。それでも、僕はここの連中が犯人で間違いないと思う」


「冒険者の直観か?」


「仲間を信じているんだ」


「そうか。……憲兵隊よりよっぽど捜査が進展しているのは正直驚きだ。俺としちゃ、お前さんをスカウトしたい気分だが、憲兵隊は一般人の調査報告で動いたりはしないだろう」


「無論だ。貴方に話したのは、一応知り合いだから筋を通しておこうと思ったまでさ」


 僕が憲兵より先に『吹雪の旗』を襲撃するつもりだという事は、デイビスにも伝わったのだろう。彼の顔が少し険しくなった。


「冒険者の掟か?」


「ああ。同業同士の争いはご法度。それを破ったギルドは、街全体で制裁するのがこの街のやり方だ。貴方達憲兵から言わせれば、法も何もない理屈かもしれないけどね。ここは冒険者の為に生まれた街で、そして今もなお冒険者の街だ。ここに息づいた僕らのルールは絶対だ」


 ギルドの垣根を越えて、僕らは結束しなくてはならない。それは冒険者の精神に基づいた掟だ。

 冒険者が冒険者の名誉を貶めるような行為に走った場合、全体でそれに対処する。ここはそういう街なのだ。


 連中は"ギルド崩し"なんて横領を行い、身内を襲撃までした。連中が鉄面皮にもギルドと冒険者を名乗っているのなら、その名誉は十分に傷つけられたとみて良いだろう。


「そういう事。だから止めるなんて無粋なだけよ」


 病室から出てきたエルドラが、僕の意見を支援してくれた。


「レイズさん、私たちも連れて行ってください!」


「戦うんだよね。クーナも絶対ついて行くから!」


 ロネットとクーナもやる気を見せた。

 そんな僕らの様子を見て、デイビスはため息をついた。


「はぁ、つくづくおっかない街だねここは。いいか、殺しはするなよ。それ以外ならまあ、喧嘩の仲裁くらいに留めてやるよ」


「わるいね、デイビスさん」


「止めるだけ野暮だろう。行ってこい」


 気持ちのいい笑顔を浮かべて、デイビスは僕らを送り出してくれた。

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