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16 連盟会議と情報屋の噂

たくさん誤字報告いただきました。本当に助かります。感謝m(_ _)m

 連盟の会議には、各ギルドから筆頭の実力を持つパーティーが代表として出席する。

 フルシ達もそんな理由から、ギルドの代表者として会議に参加していた。


「―――"ギルド崩し"についての報告は以上だ。憲兵隊からの報告が新たにあれば、連絡係を通じて各ギルドに伝える。諸君もギルド内の不審な動きに気を配ってくれ」


 会議の進行役は、街最古のギルドとされる『真紅の同盟』代表のリリィという女性である。


「続いて、以前より計画していた探索隊の件だが、急遽予定日が変更になった。今週末にはダンジョンへ向かうとの事だ」


 リリィの発言に、フルシは異議を唱えた。


「おいおいっ、待ってくれよ。そんな話は聞いてないぞ。予定日は来週のはずだったろう!」


「すまない。だが、私もつい先刻聞かされたばかりなのだ」


 リリィは特に表情を変えず、淡々と言葉を返す。

 探索隊の案件は街の政府が進めている事であり、ギルド側にはほとんど発言権が無かった。

 フルシもそれは理解しているので、リリィを責める事はしない。


「チッ――準備はそれなりに終わっちゃいるが、お上はどうしてそんなに急ぐんだ?」


「それについてだが、一つ聞き出せた事がある。ウェンディッド様がダンジョンに向かわれるのは道楽ではなく、やはり人探しの為であると」


 ウェンディッドとは、街を治める領主の息子の名だ。

 今回の探索隊の話を立ち上げたのは、そのウェンディッドである。


 ほとんどの者はこの探索隊の話を貴族の道楽とみなしていたが、事情を知る者たちからはある憶測が以前からささやかれていた。


「人探し……まさか、アストラを探す気か?」


 議会の誰かが、誰に言うともなくそう発した。


 アストラとは、一か月前にダンジョン内で行方不明となった冒険者の名だった。

 街でも有数の盾の使い手として有名で、以前はリリィの代わりにこの会議に出席していた会の顔役でもあった。

 そして何より、アストラはウェンディッドの婚約者でもあったのだ。


「馬鹿な。行方が分からなくなって半月だぞ。死んでいるに決まってる」


「だが、あれだけ強い御仁ならば、深層で生き延びている可能性も」


「ならばなぜ帰ってこない?」


 代表者たちがアストラの行方について、言葉を交わす。

 話が脱線し始めたのを見て、リリィが修正に入った。


「待て待て、今話し合うのはアストラの事ではなく、調査隊の話だ―――」



「はぁー、眠くなってきたわね」


 会議室の壁際で、エルドラは会議の様子を退屈そうに眺めていた。

 各代表者のパーティーメンバーも念のためにと出席を求められているが、話し合うのは基本代表者だけなので、あとの者達はこうして傍聴しているしかない。


 エルドラの横で、ロネットが舟を漕ぐ。すぐに体を震わせて覚醒したが、ロネットの顔色はあまり良くなかった。


「―――気分が悪そうね、ロネット」


「はい。少し疲れました」


 げっそりとした顔で力なく微笑むロネットを、エルドラは気遣う。


「ここは良いから、部屋で休みなさい」


「すみません、エルドラ。では、お言葉に甘えて」


 体力の限界を自覚して、ロネットは言われるまま素直に会議室を離れた。

 ロビーに出た途端、喧騒に包まれる。夜もけ、情報の交換会は冒険者たちの飲み会へと変化していた。


 楽し気なそんな雰囲気にかれ、ロネットは水の一杯くらいもらってから寝ようと、ロビーに併設されている酒場に近づいた。


「店主様、水をくださいませんか」


「おお、ロネットちゃん。また随分と疲れた顔してるね」


 店主にまでそう言われ、ロネットは苦笑する。

 連日の探索で記録を取り続け、夜になればそれを整理してまとめる。ほとんど休む間もないそんな日々に、疲れているのは人に言われるまでも無く自覚していた。


 だが、それを平然と毎日の様にこなしていた前任者レイズがいる以上、泣き言は言えないとロネットは考えている。

 あるいは、レイズを助けられなかった負い目を、こうした形で自分を罰する事で拭い去ろうとしていたのかもしれない。


「ええ。ここ最近、探索続きでしたから」


 愛想笑いを浮かべるロネットの身を、店主は案じる。


「なんか、近々大事な仕事が在るんだろう? 大丈夫かい?」


「ええ。寝れば回復しますから」


「……お節介かもしれないが、よかったらこれ飲んでくれ」


 店主がロネットの前に置いたのは、緑色の透き通った飲み物だった。


「これは?」


「ポーションの原材料とほぼ同じもので造られた酒だよ。薬ほどの力はないけど、疲労回復くらいには効果がある。そんなに強くないから、酔いもしないだろう」


「ありがとうございます……おいしい」


 人の優しさに触れたせいか、酒を口に含んだ途端、ロネットの涙腺が緩む。


 エルドラや店主の様に気遣ってくれる人間は周囲にいるものの、それだけではどうにもならない日々の辛さに、自覚している以上に参っていた事をロネットは知る。


 嗚咽おえつするロネットを不憫ふびんに思いながら、店主は静かにその場を離れた。



「全く話にならないよな。レイズがいないんじゃ、何のための交換会か分かりゃしない」


 ふいに、ロネットの背後からそんな声が聞こえてきた。

 冒険者の何人かが集まって、話し合っている様だった。


「情報の真偽を確認するのは、あの人じゃなきゃダメだからな。結局、精査するまとめ役がいないと、こんなの噂話大会なんだよな」


「だいたい、クビにするってどういう事だろうな。あんな優秀な人、そうはいないだろうに」


「意外に、人格に難ありとかな」


「いやあ、あの人に限ってそれは無いだろう」


「噂じゃ、今のここのギルマスがフルシの伯父で、フルシの意向で辞めさせられたとか」


「そういや、基本的にフルシのパーティーに着いてたな、あの人」


「パーティー内のいざこざって、笑えないからな」


「エルドラさんも、ロネットさんも美人だからな」


「痴情のもつれって奴か?」


 不意打ちに、ロネットがむせた。


「ぐふっ―――」


「大丈夫か?」


 店主が心配そうにロネットへ声をかける。

 ロネットは紅潮した顔を隠すようにうつむいて、手をかざして大丈夫だと言う意図を伝えた。

 彼女は背後の会話に耳を立てる。


「しかし、これからどうするかな。自力で記録付けするか?」


「無理無理。そんなの器用にやってる余裕ないって」


「ああ、そう言えばギルドの受付に聞いたんだけど、レイズの奴、新しいギルドで情報屋とか始めたらしいぞ」


「情報屋? 情報を売ってるのか?」


「まあ、ギルド辞めさせられたんじゃ、収入も無いだろうしな。仕方ないんじゃないか?」


「でも、あの人の情報なら買う価値あるんじゃないか?」


「本当かよオマエ」


「いや、俺も興味あるな」


「私も興味あります!」


 思わず、ロネットは声を出して振り返っていた。

 突然割り込んできたロネットに、冒険者たちは唖然とする。

 ロネット自身、自分の行動に羞恥して赤くなる。


「ロネットちゃん、いたの……」


「あっ、ごめんなさい。話に割り込んでしまって」


「いや、別にそれは良いんだけどさ。ロネットちゃんも、レイズさんが何してるか知らなかったんだ」


「はい。解雇されたのは突然の事で、話す間もなくここを去って行かれましたから」


 途端に沈んだ顔をするロネットを見て、冒険者たちは気まずい空気に包まれる。

 目配せしながら、何か気の利いた事を言えと押し付け合う冒険者たち。その中の一人が、ロネットが興味を示した話題を再び持ち出した。


「そ、そっか。――えっと、場所どこだって言ったっけ?」


「ギルドの場所は知らないな。ウォーレンズ通りのミルスって酒場で、ビラが貼ってあったって話だけだ」


「なるほど。助かります。ありがとうございました」


 ロネットは急に元気を取り戻すと、手記を取り出してメモを取り、その場を走るように去って行った。

 そんなうしろ姿を見送って、冒険者の一人が呟いた。


「痴情のもつれ説、有りかもな」


「何くだらないこと言ってんだ。酒場の前で集まるなら、注文くらいしな」


 一連のやり取りを眺めていた店主が、勘ぐる冒険者たちをどやすように言った。


「へいへい」


 冒険者たちはその勢いに圧されて、渋々カウンターに集まって行った。

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