表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
繋がりのその先で  作者: シクロペンタン
1/2

1-1『兄』の存在


俺は目をあける。

ここはどこだろう。



遠くの方で、何か音が聞こえる。

俺はその方向にゆっくりと視線をむける。



そこでは、たくさんの生物という生物が、何万種類もの武器をそれぞれ持ち、殺しあっていた。



真赤な液体が、まるでそれが当たり前かのように、一つ一つの肉体から飛び出している。まさに地獄のような光景だった。



...あぁ、またこれか。



俺はそこで、いつもなんとなく理解する。

これは「夢」なのだと。



目の前の光景は悲惨ではあるものの、それを見た自分自身は、もう何も感じることはない。なぜなら、俺はこの先を知っているからだ。『戦いはやがて終わり、平和がおとずれる』そんな未来を。



やがて、『その光景』は消え、目の前には二つの星が表れる。二つの星にはそれぞれの文明があり、多種多様で異なった生物がいる。...いや、いたのであろうが、片方の星は今にも滅びそうになっている。



そして、俺はいつもそこにいた。



今はそこには『何もない』。

正確には『機械だけ』が残っていた。

誰がどう見ても、そこは悲しい世界であったが、俺はそこに、いつも光があることを知っていた。それは何故か温かく、俺を包み込んでくれるような、そんな気分にさせてくれる。



その光が、いつも何か『音のようなもの』を出すのだか、それか聞こえる前に、俺の視界は暗くなる。



「...あぁ、また聞き取れなかった。」



今回も例のごとく、その通りなのだった。



<hr>



「早く起きなさいっ!!もう8時よ!?」

そんな言葉を正確に俺の耳が聞き取った瞬間、脳よりも先に体だけが反応し、俺は飛び起きた。

...8時!?それは高校生の俺としては、絶望的な時間だった。


視覚がやっと働きだしてきたところで、時計を見る。短い針は「7」を指していた。

...ん、7時??俺は目を擦って、もう一度時計を見た。

だが、確かに短い針は「7」を指していた。

少し脳が混乱する。

まだ寝ぼけているのかと思い、顔を叩こうとした時、また声が聞こえてきた。

「早く起きなさいっ!!もう8時よ!?」


そこで俺はやっと気付く。

これはアラームだと。


「...少しは慣れないとな。」

そう心の中で呟き、懐かしい声のアラームを消す。


俺の名前は重谷春樹。高校生で、一人暮らしをしている。両親は小さい頃に他界して、数年前までは祖父母に育ててもらっていたのだが、その祖父母も体調を崩し、入院したのをきっかけに、俺は他界した両親の家に戻ったのだった。


さっきのアラームは、母の声を録音したもので、唯一の形見だ。...本当は「小さい頃に他界した」と聞かされていただけで、顔も覚えていないのだが、何故かこの声を聞くと、母の温かさを感じる。


ちなみに、このアラームを作ったのは父だ。父は何かを作るのが好きだった。自作でコンピューターを一から作り、一体のロボットを完成させるほど、知識と技術を持っていた。俺はそれに憧れ、今、色々と勉強しているのだった。


俺は顔を洗い、朝ご飯を食べ終えると、すぐに家を出た。エレベーターを使い、一回に降りると、


「おはようございます。春樹様。」


と、声をかけられた。このマンションの管理ロボット、マフィーさんだ。いつもこの一階で掃除をしてくれている。


「おはようございます。」


と一礼すると、俺は足早にマンションを出た。



<hr>



今の社会は人間とロボットが共生している。今の技術は進歩していて、外見や声、しぐさなどはほとんど人間と同じで区別がつかない。長年、『ロボットが感情を持つこと』は不可能だとされてきたが、今ではその感情表現さえも再現され、さらには肌の感触、目、血液までもが忠実に再現されている。


だが、ただ一つ違う所がある。それは寿命だ。人間は今の科学でも、コールドスリープや再生医療を受けない限り、120年ほどしか生きることが出来ない。


しかし、ロボットは違う。

ロボットの命は永遠に近い。


100年ほど前は『バッテリー』というものが使われ、約30年ほどしか動かなかった。しかし、今はロボットが『呼吸』や『運動』をすることによって、中でエネルギーが産み出せる機械が開発されたのだった。その機械は、『小型ブラックホール』を作りだすものだった。


世間はその機械を『Ete(エテ)』と呼んだ。『Ete』はさまざまな種類の物に使われ、現代社会の発展に大きな進歩をもたらしたのだった。

そして、それらを発見し、作ったのが俺の兄だった、重谷雪人である。


...なぜ『だった』のかというと、俺には兄の記憶がないからだ。


兄は『タイムマシン』の開発グループのトップだったらしい。


『タイムワープ』の実験中、突然、重谷雪人は消えた。一瞬、世界が止まったのだ。

実験を記録していたタイムカメラ(兄作)の映像は、世界を恐怖で包んだ。

空間が歪み、すべてのあらゆる物質が『数値化』されていたのだ。

そして、すべての物質が再構築され、人々の記憶も書き換えられた。やがて、何事もなかったかのように、映像に写っている人々は動き出す。

しかし、より世界を驚かせたのは、どのような方法を使ったのか見当もつかないが、『このカメラと画面に写る『重谷雪人』は数値化されていなかった』ことだった。


以後、『重谷雪人』を知る人物はいなくなった。


後日、開発グループの一人が映像を発見し、『重谷雪人』なる人物がいたことがわかった。...最初、世間は納得しなかったが、雪人の残した『このカメラは誰の手によって作られたものなのか』などの矛盾が生じ、『重谷雪人』が存在していたことが明らかになった。



...『兄のいた世界』はいったいどのようなものだったのだろう。『重谷雪人』はいったいどんな人だったのだろう。そんなことを考えながら、駅へと向かっていた俺の肩に、少しの衝撃が走った。


「おっはよー、春樹!!」


声をかけてきたのは、幼馴染(と言って良いのか??)の木谷昴だった。こいつを紹介するときに、『幼馴染』と言うのに何故抵抗があるかというと、こいつも『ロボット』だからである。

...ちなみに、今の俺にはロボットしか友達がいない。別に話し下手なわけでもないのだが、何故か俺には人間の友達が出来ない。

...いったい何故なのだろうか。


「そうやって、すぐに黙っちゃうからじゃないの??」


と返答が返ってきた。


「...なんで俺の心の中がわかったんだ??」


「そりゃあ僕、機械だから、表情を読み取れば何を思ってるかぐらい普通にわかるよ。」


「常識だろ??」みたいなトーンで返答が返ってくる。

...前言撤回だ。やはりロボットの方が凄い。

少し腹立たしい気持ちを抑え、俺と昴は青い改札を抜け、ホームへと走った。丁度来ていた電車に飛び乗る。


「案外、今日は空いてるなぁ」


電車内は俺と昴を含め、10人程度だった。そして、その6人が俺と昴の通う学校の生徒だった。俺達が通っている高校は偏差値が異常なほど高いのだが、建てられたのが最近のため校舎がきれい、などの理由で人気が高かった。もちろん、共学だ。


「明日、テストがあるから皆勉強してるんじゃない??」


なるほど。だからか。

俺は一人で納得する。


「まー、いつも勉強しなくても一位がとれる春樹にはわっかんないだろうけど。」


なかなか一言多いやつだった。


「そういうお前こそ、いっつも二位じゃねーか。そんなのお互い様だろ??」


昴は俺を落ち着かせるように「はいはい。」とだけ言う。


俺は父や兄と同じく頭が良い。これは俺の長所だ。テストでは、ほとんどを記憶してしまうロボットを軽く越える点数をいつも叩きだしている。そのせいか、周りには一目おかれている。自分の長所が悪影響を及ぼしていることについて、すこし複雑な気持ちを持っているが、いつかその長所が活きることを願いながら俺は日々を過ごすことにしている。

...残念ながら、昴も同類なのだろう。


「さて、その日はいつくるのか...」


俺の心を見透かしながら、昴はため息をついた。


「まぁ、こんなこと考えていても、しょーがねー。毎日頑張ってたらその日はいつかくるだろう?」


適当な返答に対し、昴は


「...そうだね。時間は無限にあるし!!」


と、さらに適当なことを言った。


俺が心の中で「無限じゃねーよ」と突っ込み終えると、電車の扉が開き、いつのまにか学校前の駅に着いていた。

『いつも通り』のアホな会話を繰り広げ、「今日も相変わらずだな」と思いながら、俺と昴は電車を降り、高校へと向かう。



が、こんな『いつも通り』は、


案外早く、終わるものだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ