食べすぎ注意報
ニンジン、それがやんごとなき彼の名である。
この国の王族は名に「ジン」を入れることが決まっていた。
ニンジン、彼は第二王子である。
四人兄弟であり、第三王子はサンジン、第四王子はヨンジンという名であった。ニンジンには劣るものの、瑞々しく麗しい響きである。
ニンジンには幼き日に結婚を誓いあった姫がいた。
隣国の姫君、シリシリである。
ニンジンとシリシリは似合いの恋人として、民草から祝福されていた。
しかしただ一人、二人の仲を良く思わない者がいた。
第一王子のイチジンである。
そもそも、イチジンはニンジンを含め、弟たちを快く思っていなかった。
ニンジン、サンジン、ヨンジンと、弟三人は三文字も揃いであるのに対し、イチジンは二文字しか同じでないので、仲間外れのようで、なんとなく寂しいからであった。
ニンジンとシリシリの結婚が正式に決まり、国を上げての披露宴が開催された時、事件は起こった。
イチジンがシリシリの三人の姉、スリスリとゴリゴリとモリモリを連れて乗り込んで来たのである!
スリスリとゴリゴリとモリモリは口々に捲し立てた。
──姉たちを差し置いて、妹が先に結婚するのは無礼である! と。
けしきばむニンジンを宥め、シリシリは一歩前に出てこう語った。
「ニンジンシリシリは美味しいです」と。
その場に居合わせた全員が膝から崩れ落ち、感動の涙を流した。その美しい涙がニンジンのヘタの部分を潤し、廃棄される予定だったヘタの部分から、可憐なふにょふにょした葉っぱが育つ。
──ニンジンシリシリは美味しい。それは世の真理である。そして極意ですらあるのだ。
嗚呼、なんという不思議! この上ない奇跡! かくしてベィタカロティンは全てを救うのであった。