13 復讐を決意するらしい…
◇◇◇
"ピルルルルルーー"
むくっと黒ローブが立ち上がる。
小さな灰色っぽい鳥がトカゲ車の窓に止まった。
グレーな九官鳥みたいなのが「オイ!」と素っ頓狂な声で呟いた。
「まったくマルノールの伝意鳥はもう少し丁寧な言葉使いができないのですかね?」
黒ローブは伝書鳩モドキの足に掛った宝石みたいなものに手を掛ける。
ボソッと何かを呟くと、小さな魔方陣みたいなのが宝石にあらわれ、淡く光った。
黒ローブは暫くうんうん頷いてる。
光が止まると、また黒ローブがボソッと呟き、黒ローブの手に魔方陣があらわれる。
それで宝石を包み込んで何かブツブツ言ってる。
意思を伝えてるみたいだな…。
(おおー!テレバスィーー!)
「さ、ザッピさんも起きてください。
リアドさんも、御者のロニマカさんも、この先の湖畔で野営します。
手筈通りですね。
ただ向こうは五人らしいです。
なめられたものですね。
ほら、奴隷さん達も楽しいお喋りは終わりですよ」
◇◇◇
湖畔に着くと、皆が柴刈りやら、焚火やら、湯浴みやらをし始めた。
オレとネコ娘もといジャガっ娘も、ちょい長めの縄で手足が自由になり、手伝わされる。
黒ローブからの命令を順守しないと、何か影響があるらしく、反抗的な気分になると、ちょいピキっと気分が悪くなる。
さっきからずっと試しているが、人工的ウツ状態になるのが引きこもりチックで楽しい。
ジャガっ娘も、黒ローブから何か言われる度にそんな気分になるのか、時々「うっ!」とかえずいている。
(腹減った)
そろそろ最初の太陽(三つある)が沈み始めた頃に夕食となる。
オレはジャガっ娘はオレがポーション漁で捕ったカマスマス(残り四匹)だ。
フッフッフ、ヤツらが食っている乾パンと干し肉みたいなのより美味いと思う。
(そしてそれだけじゃあない…)
パツ金が若干優しそう(言いくるめできそう)なので、カマスマスを炙っていいか、と聞く。
身振り手振りで、炙れないとお腹こわすアピール。
パツ金が黒ローブをチラ見すると、黒ローブは僅かに頷いた。
大ヤモリの尻尾の上に置かれてたんだ。
焚火遠赤外線でじっくりと炙ろう。
また幻覚で笑い出したくない。
藁みたいな草でチリホコリを払いながら炙る。
十分炙ってジャガっ娘に二本やる。
毒があるかもだから、頭と内臓は食べるなと言い含める。
ハフハフしながら美味そうに食ってるよ。
◇◇◇ーテスカ
野営の準備をあらかた終えると、焚火の前で小僧が魚を二匹差し出してくる。
「グウ…」そういえば腹が減っている。
拘束は緩められ、手足は自由に動かせるようになった。
聴きたくもない命令を聴き、作業を手伝わされるが、魔道士が頷くだけで、作業を手伝わなければ、という義務感が起こる。
ただ身体強化まで使わなければというほどではない。
反抗しようとすると、心がまるで冷たいトゲで刺されるような感覚が沸き起こる。
『うっ!』と蹲り、逃れようとしても逃げ場がない。
(これが奴隷落ちか…)
それにしてもこの魚美味い、塩加減が微妙によく、何かハーブも使っているようだ。小僧が「頭、内臓…毒…食うな」と言ってくる。
ヤツらとは、少し離れて焚火を眺める。
もうすぐ、最後の太陽が沈み始める。
アタシもボロボロだな。
小僧の言うように、臭いはずだ…。
小僧もボロボロで、こいつはローブの下に何も着ていない。
歯も磨いていない。
豹族のテスカは牙があるので、基本歯磨き派だ。村では、歯磨きの枝を使っていたが、町では歯ブラシがあった。
でもブラシは高い割には、木の枝の方が良い気がした…。
小僧は焚火を見つめて目がくっつきそうにしていたが、こちらを少し振り向き、「オマエ…村…大丈夫か…?」と聞いてくる。
心の中でため息をつき「ダメだ…」と答える。
「家族…殺されたか?」
「わからない…」
「友達…殺されたか?」
「ああ…」ゴリン兄の姿が心に映る。
「知り合い、殺されたか?」
「ああ…」憎しみが湧き上がってくる。
◇◇◇
オブシ村の住人のほとんどがラビット種で何人かが、テスカのようにジャガー種、センザンコウのゴリン兄やはぐれアルビノ蝙蝠などの流れ者か、変わり者であった。
エルフの自治地域といっても、レザレン王国やグリディア帝国から認められているわけではない。
ただ王国や帝国が生まれたよりずっと前から、東の森のエルフはいたのだから、新参者は彼等の方だという認識らしい。
エルフ自治地域に居住が認められているといっても、昔は、村人も彼等とそんなに交流があったわけではない。
冬に餓死者が出て、恥を忍んで、助けを求めても、迷いの森に跳ね返され、会うこともできない。
そのくせ、エルフの居住地の方で狩や開墾をしようとすると、どこからともなく数人のエルフが現れ、こちら側でそれはならぬと言ってくる、という具合だったらしい。
それが変わったのは、どこからともなく、タートル種のタトル爺が現れてからだ。
タトル爺は、エルフ達の幾人かを知っていて細々と交流が始まったという。
タトル爺は人族に知り合いがおり、エルフの薬や道具、村の産物と町の品が交換されるようになった。
冬は餓死者も出た村だが、タトル爺の知識で作物が増えたり、質の良い革が作れるようになり、テスカが物心ついた時には比較的豊かな村になっていた。
ただ、エルフとも人族の知り合いとも付かず離れずの関係で、危機に対してどちらも助けてくれるとは思えない。
村も元々、獣人国のしきたりを嫌い、逃亡した流浪の民だそうだ。
それなりに戦う力もあった。
だが、自分で身を守ることができなければ終わりである。
◇◇◇
「憎いか…?」小僧が聞いてくる。
「ああ…」
「殺したいか…?」
「ああ…」
「アイツ…殺したいか?」小僧が魔道士を見る。
あいつらは村を襲った実行部隊ではないかもしれない。
でもその仲間であることは確かだ。憎しみが込み上げる。
(!!?…ウッ!)心を冷たい棘が襲ってくる。
「アイツ…殺したいか?」
(!!?…ガっ!)冷たい棘が体から溢れてくるようだ。
「復讐したいか…?」
(!!?…アアっ!)足元から黒い荊が立ち昇る。
「それが闇棘、ダークソーンらしい…」
「ハーッ!ハーッ!ハーッ!」
バンッ!ゴンッ!バキッ!
小僧を殴る。
「ウゲッ!アウッ!アガッ!
ジャガ…痛い…」
ケール車にいる時から殴ってるからか、小僧の顔が腫れている。
ざま見ろ…。
「お前、わざとやったろう⁉︎」
「それが復讐の痛み…今は違くとも…やがてはそうなる」
「いったい何を訳が分からないことを…それからアタシはテスカだ!」
そういえばタトル爺が言っていたな。
復讐は結局何かを損なうだけだと…。
しかし、この世界は、まるで、悪意と復讐で、何かを生み出したいようだと…。
「オレ、名前、ないらしい」
「そ、そうか…」
「人は取り憑かれやすい…。
いや、取り憑かれたいんだ…。
デモ復讐に取り憑かれるのはツラい。
だから、イタズラ…しよう。
イタズラなら取り憑かれてもいい…。
ヤツら…敵認定…だ…(うっ!)」
小僧にも、闇棘が行ったようだ。
体をプルプルさせてどんよりしている。
「この無力感…もうクセ」
小僧お前変だ…。
ありがとうございます