第4話 新人研修 中編
新人研修六日目。
今日は、朝からエミリーさんに案内され、食堂に来ていた。
それにしてもこの宇宙船、外観がどうなっているのか分からないが今まで行ったことのある部屋がすべて一本の通路を中心にあった。
俺が最初にこの宇宙船に転送された、外の宇宙が見えるプラネタリウムみたいな部屋。次が、身体強化を施された治療室。
その身体強化を馴染ませるための、衝撃吸収材で囲まれた部屋。
さらに亜空間コンテナを習得した、何に使うか分からない大型装置の置かれた部屋。
後は、寝室にトイレやお風呂。
そして、今いる朝食などをとるための食堂。
これらを踏まえて考えると、この宇宙船は魚の骨のような形をしているのではないかと予想してしまう。
……まあ、他にも俺の知らない場所があるのだろうから、俺の予想通りの外観とは限らないんだがな。
そんなことを考えている俺の間向かい側に、エミリーさんが座り話しかけてくる。
「昨日、他の新人研修をしている人たちとある事情で、少し話をしたところ、我社の運搬業務をうろ覚えだった新人が何人かいました。
そこで、もう一度、我社の運搬業務の説明をします。
加藤さんは大丈夫だと思いますが、もう一度復習のために聞いてください」
「分かりました」
エミリーさんは、前話してくれた内容をもう一度話始める。
「宇宙運搬会社『ショルフダール』は、主に惑星間の荷物運搬をしています。
その規模は、個人用の小包から企業や国家の大型貨物まで様々です。
中には、完成した宇宙戦艦の運搬などを請け負うこともありますが、新人には、当分縁のない話です。
勿論、何れは取り扱うかもしれませんがね?
基本、加藤さんたち新人社員は上司の指示に従い、まず荷物を取りに行きます。
そして、届け先へ荷物を運んで終わりです。
料金や手数料などは、加藤さんたちが荷物を取りに行った時点で我社に支払い済みですからご安心を。
だからと言って、運搬業務だけをしていればいいというわけでもありません。
この運搬業には切っても切れない敵がいるのです。
それが、宇宙海賊の存在です。
一応、銀河警察の取り締まり強化や賞金稼ぎなどの影響で、全体数は減っているらしいのですが絶滅させることは困難だと言われています。
そのため、護衛を雇うことや自衛手段を持つことが必須となるわけです。
当然、加藤さんたち新人の宇宙船が狙われないということはありません。
そのため、会社としては用意した宇宙船に最新鋭のシールド装備を施して防衛としています。
これにより、宇宙海賊に襲われても逃げきることができるでしょう。
勿論、宇宙海賊を撃退したりすれば、社内評価も上がり何れは昇進ということもあり得るでしょうね。
また、新たな航路開拓も仕事として存在します。
まあこれは、加藤さんたち新人社員には荷が重すぎるので、知的生命体がいる惑星を見つけたら、会社に報告してください。
後はこちらで、ベテラン社員を派遣し対処します。
以上の三つをこなすことが、加藤さんたち新人社員に求められることです。
ちゃんと覚えていましたか?」
「はい、大丈夫です」
エミリーさんは、ニコリと笑うと頷く。
身体強化して少し若返ったとはいえ、41歳のおじさんが手を抜けるか!
俺にはもう後がないのだ。
この後、少し給料の話などをして説明が終わった。
▽ ▽
午後からは、いよいよ完成した宇宙船とアンドロイドとのご対面だ。
予定より、一日早くなったようだが、ここまで届けるのが早くなったおかげらしい。
会社説明の後、昼食をとっている最中に届いたんだとか。
エミリーさんのある事情でというのが、このことだったんだろう。
新人社員の俺たちの宇宙船が届いたので、引き渡すとかなんとか。
今、俺はエミリーさんの案内で転送されてきた部屋とは真逆の方向へ進んでいる。
そして行き止まりにある丈夫な扉を開くと、中は四畳半ほどの何もない部屋になっていて、さらに奥に頑丈な扉があった。
これって、SF映画とかである宇宙へ出るための部屋なんじゃなかったか?
確か、ここで減圧をするとか何とか……。
俺もエミリーさんも宇宙服を着てないけど、いいのか?
そう俺が焦っていると、エミリーさんは笑顔で頑丈な扉を開ける。
そして、プシュッという音が聞こえるとゆっくりと扉が開いた……。
だが、扉の先は宇宙ではなく通路になっていた。
それも、床以外すべてが透明で、まるで宇宙の中を道が続いているかのようだ。
「加藤さん、右端にあるこの取っ手を握って進みますよ。
歩く必要はありません、自動で運んでくれますからね」
そう言われて右の端を見れば、右手で掴みやすい位置に取っ手があった。
なるほど、これが掴めばそのまま運ばれる例の取っ手型エレベーター、だったかな。
「行きますよ?」
「は、はい!」
おっと、緊張してしまう。こんな体験は初めてだ。
エミリーさんは、自然に取っ手をつかむとそのまま進んでいく。
足に力を入れて蹴るとか、そんな動作はなかったな……。
俺は、一度深呼吸をすると、心落ち着かせて取っ手をつかむ。
すると、そのまま取っては前へ進み、俺の体が自然に運ばれていった。
「……なんだ、簡単じゃないか」
エミリーさんから五メートルほど後ろを、俺はついて行く。
ふと、後ろが気になったので振り返ると、そこにはとてつもなくデカい宇宙船が、いや、あの形状は宇宙戦艦といった方がいいか、その宇宙戦艦があった。
形は二等辺三角錐のような形で、通路は、宇宙戦艦の上部に繋がっている。
通路の下には、まだまだ宇宙戦艦の中部から下部が姿を見せており、俺の想像をはるかに超える大きさだった。
全体的な色はくすんだ赤色。
宇宙戦艦の全長は分からないが、後部のメインスラスターノズルが少し見えていた。
太陽の光の当たり具合なんだろうが、めちゃくちゃカッコよかった……。
今まで乗っていた宇宙戦艦の姿に圧倒されながら、前を向けば、エミリーさんが俺の方を見てクスクスと笑っていた。
「加藤さん、想像と違いました?」
「は、はい、俺の想像していたのとまるで違いすぎて……」
「まあ、案内できる場所は限定してましたからね。
今さらですが、あれが私の宇宙船『ニベルゲルン』です。
私の故郷の神話に出てくる、豊穣の女神の名前をとりました」
豊穣の女神……。
そういうつけ方もあるんだな。
「加藤さん、見えてきましたよ。
あれが、加藤さんの貨物宇宙船です」
「…………」
パッと見た目は、飛行船でありゼロ系新幹線のようだ。
丸い正面の上部に新幹線の操縦室のような感じで乗っかっている右端に通路は繋がっていた。
この宇宙船に名前を付けるのか……。
後、この貨物宇宙船から、エミリーさんのような宇宙戦艦へ乗り換えていくのか?
どうやって?
今はまだそのやり方が分からないが、そのうち分かるようになるんだろうか?
そんな感想や考えをしていると、終点に着いた。
……あ、どうやって止まるんだ?
俺は慌てて、エミリーさんの真似をしようと観察する。すると、エミリーさんはさっと取っ手から手を放し、床にスムーズに着地した。
俺も真似するように、取ってから手を放し、床に両足をついて着地する。
すると、床に両足をついた時、重力が働いたのかうまく着地できた……。
「どうです?初めての感想は」
「いや、お恥ずかしい姿を見せなくてよかったなと……」
「フフフ、誰でも初めてはあります。
宇宙船の中の移動も、こういうものを使うことがありますから慣れておくといいですよ?」
「ですね」
エミリーさんは、俺との会話の後、通路左にある扉をパネル操作で開けると中へ入っていった。
俺は、慌ててそれに続く……。
前編、後編で終わると思ったが終わらなかった。
もしかしたら、後編を今日中に更新できるかもしれません。