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就職先は宇宙船の艦長さん  作者: 光晴さん
新人研修

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第2話 就職決まって、引っ越しへ




「他に質問はありませんか?」


宇宙の大パノラマを背景に、エミリーさんが聞いてくる。

俺は、これからのことを聞いておくことにした


「仕事は分かりましたが、俺はいつから働くことになるんですか?」


俺の質問に、エミリーさんは白いブルゾンのポケットから小型のメモサイズのタブレットを取り出し、スケジュールを確認する。


「えっと、今日から三週間後の四月になってからですね。

それまでに、加藤さんが乗る宇宙貨物船や乗組員のアンドロイドの製造が終わりますから、どちらも新品同様でお渡しすることになります。

後、仕事の斡旋は加藤さんの直接の上司から、連絡がいくと思いますのでその指示に従ってください」


エミリーさんが俺の上司じゃないのか。

で、三週間後、上司からの連絡がくると……。


そういえば、大事なことを聞くのを忘れていた。


「あの、あとこの仕事は内緒にした方がいいのでしょうか?」

「ん~、そうですね……。話しても構いませんが、信じる人はいないでしょう」

「ですよね……」


母さんに就職したこと話したけど、どう言い訳しようかな……。

俺がそう悩んでいると、エミリーさんが察してくれたのか、提案してくれる。


「もしかして、誤魔化したい相手がいるんですか?」

「ええ、俺の母親なんですけど……」


俺は、母親が入院した経緯から、退院が二週間後になることまで、エミリーさんに話した。


「……では、日本にある同じ名前の会社を紹介してください。

そこは貿易をしている会社、ということになっています。

誤魔化すなら、最適でしょう。

それに、我社が実際に経営してますから何の問題ありません。


そして、加藤さんの今住んでいる実家からもかなり離れていますから、社員寮に住むことになったとでもしましょうか。

後で、会社に報告して部屋を用意してもらいましょう。。


日本にある会社も、本当に貿易関係の仕事をしていますしね。

で、加藤さんは実家から社員寮へ引っ越して、宇宙へ。


実家からの荷物は、社員寮へ届けてもらって置いておけばいいでしょう。

宇宙で仕事をこなして、地球によることもできます。

その時受け取ることもできますし、実家に電話もできますよ。

勿論、宇宙で仕事をしている時に電話することもできます。料金かかりますけど。


どうでしょうか、これで誤魔化せると思いますが……」


……結構、社員のことを考えてくれるんだな。



「後、給料は……」

「日本での銀行振り込みにもできますよ。そうします?」


「はい、それでお願いします」

「分かりました……。では、二週間後、お母様の退院を待って引っ越しですから、荷物はそれまでにまとめておいてくださいね?」


後、詳しいことはこちらにと、細かい規約などが書かれた冊子をもらった。

それと、母親に会社説明をと日本の貿易会社のパンフもついでにもらって、俺は自分の部屋に転送され、帰ってきた。


……夢じゃないかと、頬を抓るもものすごく痛かったよ。


こうして俺は、貨物宇宙船の艦長に就職しました。


でも、宇宙船なのに艦長とはこれいかに……。

そのうち、聞いてみようかな。




▽    ▽




次の日、俺はさっそく入院中の母親に就職先について説明。

そして、社員寮への引っ越しも伝えた。


伝え終わると、母親はベッドの上で少し寂しそうな顔をしたが、俺が働くことに喜んでくれた。

妹にも伝えておきたかったが、結婚して共働きらしいし、母親のお見舞いにもなかなか来れないって、入院当初ボヤいていたからな。

休みの日にでも、連絡しておくか……。



その日、病院から帰って早速引っ越しの準備に取り掛かる。

持っていくものと置いていくもの。

捨てるものに、購入するもの。

仕分けて、段ボールにまとめて入れて梱包する。


また、引っ越しの準備がすぐに終わることもなく、分からないことは、貰ってきた小冊子に載っていて、引っ越しの準備の仕方まで載っていた。

超便利、この小冊子……。




そうこうしているうちに、明日いよいよ引っ越しという日、エミリーさんから電話がかかってきて、引っ越し業者を明日向かわせますという連絡をもらった。


「……あの、なぜうちの電話番号が分かったんですか?」

『もちろん、調べましたからわかりましたよ。

本当は連絡先を聞いておけばよかったんですけど、ついうっかり聞きそびれてしまって……。

でも、結構簡単にわかるものなんですね~』


いや、分かったらいけないんですけどね?普通は……。

退院した母親も、ショルフダールという会社からの電話に驚いていたし……。



この日の夜、母親が引っ越し祝いと就職祝いをしてくれた。

また、この日は近くに住む妹家族も一緒に祝ってくれて、楽しかった。

でも、やっぱり母さんは、寂しそうだったけどな……。



次の日、引っ越し業者のトラックに荷物を積んで、家族に別れを告げてトラックに乗り込み、俺は旅立っていった。

……しんみりするのは好きじゃないから、別れの様子は察してくれ。


41歳という年齢でも、悲しいものは悲しいんだよ。




▽    ▽




高速を使い、半日かけて俺は引っ越し先の社員寮に到着した。


社員寮の管理人さんは優しそうなお爺さんだったが、その人に挨拶して、俺の部屋に荷物を運び入れる。

とりあえず、仮の住まいとはいえ荷物は段ボールから出さないとな……。


荷ほどきに少し時間がかかったが、快適に住めるようになった。


そしてその夜、俺は再び宇宙に転送された。




「二週間ぶりですね、加藤さん」


そう笑顔で挨拶してくれるエミリーさんのいる場所は、二週間前に会った場所と同じ場所。

月と地球の間にある、ラグランジュポイントに浮かぶ宇宙船の中なのだろう。


「エミリーさん、お久しぶりです。

今回は、何故ここに?まだ、上司からの連絡とかありませんけど……」


社員寮に着いて荷解きが終わったその日に、ここへ転送したんだ。

何か用事でもあるのか?


「どうやら、加藤さんは少し勘違いをしているようですね?」

「勘違い、ですか?」

「そうです。私どもは、すぐに加藤さんに運搬の仕事させるわけではありません。

まずは、新人研修を受けてもらいます。

そして来週には、本格的に働いてもらうことになります。ですが……」


そう言って、エミリーさんの視線は俺のお腹に集中する。

このポッチャリ体形のでっぷりなお腹に……。


「う……」

「それに、加藤さんはまだ生体強化を施していませんから、それもこの新人研修期間にしてしまいましょう」

「生体強化、ですか?」



生体強化。

エミリーさんがくれた、詳しい小冊子に載っていた項目だ。

宇宙での運搬業は、かなりの危険と隣り合わせになる。

それは、いろんな事故であったり放射線であったり重力であったりいろいろだ。


そこで、人間の肉体や細胞に手を加えて強化して、宇宙環境に負けない体にしてしまおうというのが、生体強化なのだ。



「そうです、生体強化をすれば病気にかかりにくくなり宇宙環境に負けない力が付きます。寿命も延びますから、長く働くことができるんですよ」

「へぇ~」


それって、ブラックな感じがしないでもないかな……。

でも、運搬業なら時間厳守じゃない限りホワイトか?


「もっとも、宇宙で仕事をする人は生体強化が必須となっていますから、必ずすることになるんですけどね」


てことは、この仕事についた時点で生体強化をすることになるのか……。

……緊張するな……。



「では、こちらに目を通してください。

この新人研修の一週間の予定表です」


そう言って、エミリーさんはA4サイズの薄いタブレットを渡してきた。

厚さが5ミリもないな、このタブレット……。

まるでクリアファイルみたいに薄いのに、鉄板のようにしっかりしている。

重さも、軽すぎず重すぎずといった感じか?


……とりあえず、表示されている予定を確認する。


えっと、初日に生体強化を施し、その後は、生体強化後の体の動かし方を学ぶ。

そして、睡眠を利用して宇宙共通語などの言語を学習する。

4日間この繰り返しで、集中的に体を慣れさせる。


5日目から宇宙に住む人々や連邦法に関して学び、勉強漏れは睡眠学習法を使う。

最終日の7日目に、宇宙貨物船及びアンドロイドの受け渡しを行う。


受け渡し後、宇宙貨物船の命名を行い、アンドロイドと船の点検などで親交を深める。

……一晩でできるのか?


8日に、上司の挨拶で仕事開始か……。



「なるほど……。

そういえば、亜空間コンテナの習得はいつ行うのですか?」


「ああ、それがありましたね。

亜空間コンテナの習得は、4日目に行うことにしましょう。

生体強化した体もスムーズに動かせていると思いますからね」


エミリーさんは笑顔でそう答える。


亜空間コンテナ。所謂SF版アイテムボックスだ。

自身の体の近くの亜空間に、コンテナサイズの倉庫が固定される。

個人の私物なんかを収納できて、場所いらずという優れもの。


もらった冊子に、会社からプレゼントされるとだけ書かれてあったから、気になっていたんだよな。


「さて、それでは移動しましょうか。

新人研修は、もう始まっているのですよ?加藤さん」


こうして、新人研修が始まった……。








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