続・その「ヒール」と違いますがな(改)。
前作のハンパさを、多少は回収できたのではないかと。
もともと、発音が同じでも、スペルと意味が異なる2つの言葉で遊びたかったのが発端でした。
あの騒ぎの後、帰宅して母に次第を告げた。父も兄も出張中なのだ(父は外交に携わっているので出張が多い。最近は兄も随行している)。
万事おっとりの母は「あらまあ」と驚いていたが、「お父様が戻られたら、お話ししましょうね」とだけ言い、私を抱きしめてよしよしと頭を撫でてくれた。お母様、私、幼児じゃないですよー。それに、なぐさめてもらわなくても大丈夫ですよー。破棄って言われても「へー、ほー、ふーん」でしたし。
と、騒ぎの翌日、王宮から緊急ということで呼び出された。昨日の今日で、対応が早過ぎじゃないか?
母とともに王宮に向かい、応接間の一つに通されると、目に入ったのは第一王子を真ん中に宰相の息子と騎士団長の息子の3人が並んで正座させられ、その正面に宰相・王妃様・騎士団長が仁王立ちしている図。
息子3人衆はそれぞれ、鉄拳制裁が加えられた模様で、第一王子は扇の破片にまみれ、ところどころ血がにじんでいる。宰相の息子はおでこに大きなたんこぶ、騎士団長の息子は頬が両方とも腫れている。しかし、この国に正座で反省という文化があるとは思わなかったわー。
と、私たちに気づいた王妃様が振り向き、
「アイリーンちゃん!うちのバカ息子がごめんなさいねえええええ!!」
と叫びながら突進してきた。とはいえ、避けるわけにもいかず、力いっぱい抱きしめられながら泣き崩れる王妃様を支える。が、首が苦しい。息が止まる。ギブギブ。ロープ。
「そろそろ放してやって」
母が王妃様の肩をぺしぺししながら言うと、ようやく放してくださった。ありがとう、お母様。
私から離れたものの、まだえぐえぐしている王妃様の肩を抱いて、母がなぐさめている。さすが仲良しさん。
そもそも、王子との婚約は、母親同士が親友だったことに端を発する。仲良し乙女の「お互いに子どもが生まれたら結婚させましょうねー♪」的なノリである。
ところが、どちらも最初の子どもは男。第一王子と、私の兄だ。2年後、王妃様には第二王子が生まれ、その3カ月後に私が生まれた。
私が生まれたと知った時の王妃ユージェニー・アイリーン様の喜びようは、それはそれは大変なものだったという。そう、アイリーンという名前は、王妃様のミドルネームをいただいたものである。そして、第一王子との婚約も確定。王家と公爵家ということで、周りからの反対もなかったらしい。
惜しむらくは、そこに「相性が良ければ」という条件が無かったことだろう。その辺は父や陛下にツッコんでもらいたかったものだが、後日、父に尋ねると「妻に逆らわないのは、男の知恵だ」とのお答え。まさかの恐妻家発言。って、娘に言ってどうする。
王妃様がしゃくりあげる声のみが響く中、どうしたものかと考えあぐねていると、母が「殿下たちを治して差し上げたら?」と声をかけてきた。そか、それがあった。
「よろしいですか?」と陛下にお伺いを立てるとうなずかれたので、息子3人衆の前に行き、同じように正座で座った。3人とも居心地悪そうに目線をそらすが気にしない。
まず、王子の顔を両手で挟むようにして手に“気”を集める。目を閉じて集中し、眼裏にふわっと光を感じたら終わり。
「わたくしの得手は、けがをさせるより治すことなのは、よく御存じだと思っておりましたのに」
座り直してそう言うと、王子が目を見開く。口も開きかけたが無視して左右の2人も治し、立ち上がった。と、騎士団長の息子が、ぼそっと「足のしびれもなおった」とつぶやいたのには驚いた。けがの治療だけをしたつもりだったので。
実のところ、自分の治癒力がどの程度のものなのか、自分でもよくわかっていない。
前世の私は「プロより上手い」と言われるほどマッサージが得意で、簡単な整体もできた。こちらの世界でも通用するのかと思っていたら、チートな方に伸びていた。
こちらでは、まれに特異能力を持つ人間が現れるらしく、案外、転生者がこちらの世界にくると特技がチート化するのかもしれないと思っている。同じく転生者であろうマクブライト嬢の能力については……あんまり考えたくないかも(男をはべらす趣味は無い)。
治療を終えたのを機に、陛下が立ちっぱなしの宰相をはじめ、私たちにも適当に座るように促し(息子3人衆は除く)、それぞれ座ったところでお茶が供された。
「さて、アイリーン、そなたはどうしたい?」
一息ついたところで、陛下が口を開く。どうしたいって……。さて、どう答えよう。事は荒立てたくないが、本音で良いかな。
「わたくし……我が家の領地に戻って、自分の力を領民の皆様のために役立てたいです」
私の答えが意外過ぎたのか、周りの全員が唖然としている。王妃様が弱々しく口を開いた。
「アイリーンちゃん、リチャードとの婚約は…?」
「いや、アイリーンが愛想を尽かしても仕方ないだろう」
陛下が「それだけのことは仕出かした」と王子を睨む。睨まれて王子はうなだれたが、今もまだマクブライト嬢を想っているかどうかは微妙…かな? 何となく、息子3人衆は憑き物が落ちたような顔をしている。
ということで、おかげさまで(?)生まれた時に決まった王子との婚約は一旦、白紙に戻された。完全破棄にならなかったのは、王妃様の涙の懇願による。さすがに、小さい頃から本当にかわいがっていただいたので、お願いを無下にはできなかった。
それと、お詫びも兼ねて扇をお贈りした。一番のお気に入りは、第一王子の頭で粉砕していたので。
と、第一王子との婚約が白紙になったと知った途端、プロポーズしてきた第二王子に思わず右フックをかましてしまったが、お咎めは無かったのは別の話。
対外的に見たら、第一王子を袖にして第二王子に乗り換えた悪女と言われかねないことに思い至らないのが、坊やなのだよ。
そうそう、今回の元凶、もとい首謀者のマクブライト嬢は「追って沙汰をするまで家から出るな」と送り返されたが、その沙汰自体が忘れられてしまい、数カ月放置状態でヒステリーを起こしたそうな。
扱いに困った親が恐る恐るお伺いを立ててきて、それならば心静かに過ごせるようにと、王都から離れた自然豊かな王領の修道院に行かされた。
本編に比べ、続編ではシリアスな感じが増してしまったので、本編のテイストに近づけたいと改稿しました。