[無能者]のスキルその1〜
「随分とお早いinなのです」
「そっくりそのままお前に返すわ」
朝の五時。「GoG」をプレイして2日目、早くもハマってしまった俺は朝早くにゲームを起動してinしていた。
1人でレベル上げをして少しはシェイナを驚かせようと意気込んでいた訳だが、目の前にいられたんじゃどうしようもない。本当に何でこんな早くいるんでしょうね。
昨日、ログアウトした後にシェイナからダイレクトメッセージで明日もプレイ出来るのか聞かれたからもちろんと答えた。集合時間は昼って言われたからレベル上げにも丁度良いなって思ってたのに。
「何でこんな早いんだよ」
「寝覚めは良い方なのです」
にしても早いわ。今5時だぞ5時。
俺は溜息を吐き仕方なく朝早くから2人でプレイすることになった。まぁ別に嫌ではないからいいんだけどね。
[グリア草原]
クェーグルを出てから10分歩いた場所にある草原。そこには色々なモンスターがわんさかいた。
「ここ、グリア草原の主となるモンスターはあの三体なのです。他は全部カスなのです」
シェイナが指さす方向には青い狼、青い猪、青い鳥が睨みをきかせていた。
「グリア草原の[三獣蒼]なのです」
「三獣蒼?」
「はいなのです」とシェイナは首を縦に振りその三体へと近づいていく。
すると目に見えてわかる、ここからは戦闘になりますよ的なサークルが現れた。
なるほど、あれがこの草原のボス的な奴らか。まぁ見るからに強そうだもんな。レベルも60と結構高いし。
シェイナは俺が確認したのを認識するとトコトコと戻ってくる。
「あれは経験値、希少素材、レベル共にこの草原ではトップなのです。」
シェイナ曰く、三獣蒼の武器、装備を1つ作るのにも1ヶ月以上掛かるらしい。
何でも三獣蒼のアイテムドロップ率がほぼ0に近く、そして倒すのにも時間が掛かるためなんだと。
更にこのゲームの[ランダムジョブシステム]によって決められた職で戦うとなると相当レベルを上げないと周回なんてやってられないって投げ出すプレイヤーが後を絶たないらしい。うーん確かになそれはあるな。そこは理不尽だもんねこのゲーム。
「でもあれを倒せば大体70レベル相当の武器が手に入るのです。更に装備レベルは10。手にして損は無い代物なのです」
つってもドロップ率が相当低いからなぁ。レベルも足んないしまずドロップ云々より倒すのが難しそうだ。
「確かに。でも今日は別にこれを狩る為に来た訳では無いのです。」
「ん?じゃあなんの為にここに来たんだ?」
シェイナはやれやれと身振りをしてため息を吐く。
「ジントの[無能者]のスキルを試すためなのですよ。」
「あぁー。そう言えばあったな」
今の今まで忘れてた。
俺はスキル欄を開き、シェイナもどれどれと背伸びをして覗いてくる。
「形質移動…なのです?聞いたことないのです」
「マジか」
うーん。頼りになるシェイナが知らないとなると迂闊に使うのも危ないかな。でも一次職で危ないスキルとかあるのか?
「物は試し。使ってみればいいのです」
「…だな。」
俺は近くにいるモンスターに狙いを定める。
「形質移動!!」
……………
後ろを振り向き精一杯の困り顔でシェイナに尋ねる。
「これどうやって使うんだ?」
「そこからなのですか…」
ーーーーー
場所を少し変えモンスターがポップしない水辺へ移動する。何でもここはあまり知られていない安らぎスポットらしい。
近くにある湧き水の天然温泉や、木々に実る甘い果物。そよ風に当たりながら寝転がれる天然のベット。中々穴場だ。
あまり知られていないのは入口が隠されていること。俺もシェイナに連れてこられなければ絶対見つけるなんて到底出来ないと思うくらいだ。
グリア草原のシンボルともなる三獣蒼の近く、大きな大木から10歩。へんてこりんな草が生い茂る場所、そこが入口。
この場所に入るための入口は三獣蒼と戦闘にならないギリギリの所にあり、1歩でも右に進めば戦闘開始サークルに入ってしまうくらいだ。
この場所を見つけた人は中々のアドベンチャーさんだな。
そしてここに来た理由はと言うと
「先ずは形質移動のスキル詳細を確認しないと始まらないのです。」
「でも???になってて分からないんだよ」
シェイナは顎に手を当てて考え込むように唸る。
「恐らく万能系のスキルだからなのです」
「万能系スキル?」
「はいなのです。スキルは主に四つの部類に分けられるのです。1つは攻撃系スキル。防御系スキル。支援系スキル。そして万能系スキルなのです。ちょっと見ていてなのです」
そう言って右手を水辺の方へかざしポツっと呟く。
「空気弾(エアーボム_)」
直後、右手をかざした方向の岩場が破壊され粉々に砕かれた。これはすごいな。後で教えて欲しい。
「これが攻撃系に属するスキルなのです。そしてこれが…」
今度は壊れた岩場に手をかざす。するとみるみるうちに破壊された物が元に戻っていく。
そしてあっという間に元の岩場に戻ってしまった。なんか時間が巻き戻されたみたいだな。
「支援系に属するスキルなのです。防御系も大体予想がついたと思うのです。」
「まぁ分かるだろうな」
基本のスキルとかはある程度一般のRPGゲームと何ら変わりない。そこら辺は普通でよかった。
このゲーム俺の常識をかるーく超えくるから怖かったんだよね。
後は万能系スキルの話だけど多分俺が思ってる事は当たってる。
「もしかして万能系スキルって攻撃系、防御系、支援系全てが使えたりする?」
「正解なのです。万能系スキルは攻撃に応用することも、防御に応用することも、支援に応用することも出来るのです。」
微チートだなそれ。1系統に特化しているからバランスが保たれているのであってそんな全系統スキルに応用が効くとかせこすぎると俺は思う。
「万能系スキルは魔法記や伝授などでは覚えられない超貴重なスキルなのです。だから出現率するのはレベルアップ時の新スキル獲得時のみということになるのです」
なるほど。よくわかんない単語が出てきたけどとにかく凄い貴重なスキルって事はわかった。
でも万能系スキルとスキル詳細が???なのは繋がりがあるのだろうか。
「万能系スキルは大体がスキル詳細???で表示されるのです。初めてそのスキルを発動すれば見れると思うのですが…」
「使い方わからないんじゃ無理じゃないですかね?」
初めて使うのに説明書がないから使えない道具みたいなもんじゃん。
うーん。でも形質移動って言うんだから多分移動させるものだろう。
…だったら少し試してみるか。
「シェイナ!火ぃ出してみて!」
「分かったのです…?」
シェイナは訳も分からず手元に火を出現させる。 俺の予想が正しいなら多分こういうことだともう。
「形質移動」
俺はシェイナの出した炎めがけてスキルを発動する。一見なんの変わりようもみせないけど多分あってる。
そのまま俺は発動させた右手で落ちていた木の枝を掴む。
瞬間、右手で持った木の枝は燃え上がり塵になった。やっぱりこういうことかー。
「じ、ジント!?一体何をしたのです!?」
「スキル使ってみた。あと多分その火熱くないぜ」
シェイナは驚愕の顔で恐る恐る火に手を入れる。
するとまたビックリ顔だった顔は更にすごい顔になった。
「熱くないのです!!」
「まぁだろうな」
形質移動。これそのまんまのスキル名だな。
俺のした事は火の特性である熱、燃える、を俺の手に移動させただけ。そんで奪われた火は特性を失ったって事になる。いやーよかった熱くなくて。シェイナならもしもの保険にも使えるし丁度よかったわ。
「むぅ。実験に使われたのは癪なのですが取り敢えず許すとするのです」