[無能者]初クエストにて〜
始まりの街クェーグルを出て早30分。目的地の廃村へと着いた俺とシェイナ。
ここは元々ハルベル村って所で、何ヶ月か前までは結構人も多くて賑やかな村だったらしい。
なんで廃村になったかっていうと亜邪蜘蛛って魔物がこの村を襲ったんだと。
軽い説明でそれしか聞かされてないけど割と強いらしい。今回はそれが標的魔物だ。初心者向けでは無いとも言ってたな。うん。
「そこまで分かってて何でそれを受けたのです!?」
「金欲しいし」
「それだけなのです!?」
ガミガミと難癖をつけてくるシェイナ。一体何が気に入らないというのだろうか。
俺が初心者なのにヤバいクエストを受けたからか?
それとも金欲しいがために強い魔物と戦うことになってしまったからか?
それとも受付の人に「これ本当に受けるんですか?無理なさらない方が…」とか言われたのに「大丈夫です、負けませんから」とか言ったからか?
うむ…一体どれだろうか。
「ぜ・ん・ぶ・なのですよ!!!」
あれまぁ。全部でしたか。
「わざとなのです!?わざとなのです!?」
グイグイ顔を近づけるシェイナはぷんぷんと頬を膨らませ怒ってますとアピールする。
いやーしょうがないじゃん。だって何も言われなかったんだし。これオススメとか言われればそれにしてたし。俺に選ばせたシェイナが悪い。
あれ?でも勝てばいいじゃん。
「開き直ったのですよこのおバカさんは!!」
頭を抑えため息を吐くシェイナ。
確かに悪いとは思ってるけど受けたものはしょうがない。取り敢えずクリアしてから怒られるとしよう。
そのクリアをする為にはまず亜邪蜘蛛を見つけないとな。
そして廃村、ハルベル村の探索を始めた直後、シェイナはやれやれと頭を降る。
「クリア前提なのはもうツッコまないのです。でもあれを見てまだそれを言えるのです?」
ザクザクと音を立て進む先。
シェイナはハルベル村の一番奥、この村で一際目立つ建物を指さす。その建物はボロボロ、半壊しており、何の建物か、家なのか集会場だったのか何もわからなかった。
ただ一つ断言出来ること。それは
「あの建物を食ってる蜘蛛が村のペットじゃないことは確かだよな」
「あれがジントの受けたクエストの標的魔物、「[村絶やし]亜邪蜘蛛」なのです。」
半壊していないもう半分の壁面をバリボリと音を立てて食い散らかし、口元には涎がべっとりとついていた。そして身体全体が気色悪い雰囲気の素だというのははっきりとわかった。
これとやるというのは冗談であってほしい。
心の底から望んだ俺の願いは儚く砕け散る。
「描かれてる姿形まんまいっしょなのです」
手に持ったクエスト用紙を覗き込みながら半壊した建物を食べるキモチワルイ蜘蛛を眺めるシェイナ。
あれとやるのかー…
「現実を直視したくないのです…」
「マネるなです!!ちゃんと前を見るのですよ!」
やだよ!だって普通に嫌じゃん!!なにが好きであんなバケモノみたいな蜘蛛と戦わないといけないんですか!?
見れば見るほどキモチワルイ。全長はどのくらいだろう、7メートルくらいあるだろうか。普通にキモイ、とにかくキモイ。
まだ俺たちに気付いてない亜邪蜘蛛は夢中になって半壊した建物を食べている。
逃げてもいい…けども。
「やりますか…」
「やっぱり。ジントならそう言うのですよね。」
シェイナは俺の横に立ち、丈に合わない太刀を握る。
その刀はシンプルな黒一色で吸い込まれそうなくらい目を奪う「何か」があった。
そして隣に立ったシェイナは俺の顔をみて小さく笑う。その笑顔を見た俺は少し気恥しくなる。
全て知ってるよって笑顔。シェイナの笑顔はそれ。
「(全部わかってますってか)」
俺は腰に提げた剣を抜き構えをとる。
「それじゃあ行くぜ!シェイナ!!」
「はいなのです!!」
~~ミラール~~
少しお話を聞いてほしいのです。
それは始まりの街に着いて直ぐの話なのです。ヒソヒソと陰口をにも似た言葉を吐かれるジント。
あ、ジントって言うのは今私が一緒に行動している[無能者]の新人冒険者なのです。
それで最初は止めようかとも思ったのです。でも本人が何処吹く風と言わんばかりに無反応、だから止める気は自然と消えていたのです。
それから私はクエストを受けさせるために「クエスト案内所」にジントを連れて行ったのです。裸足でクエストの用紙を配るボロボロの少女を素通りして。
そしてクエストを受注したジント。
気づいたのは廃村に着いてクエスト用紙を覗いた時なのです。
ジントが持っていた持っていたクエスト用紙はあの時素通りした少女の持っていたクエスト用紙と全く一緒だったのです。
最初は金欲しい、金が大事と言っていたジント。割と報酬も良いと言ってたけど他のクエストと比べても1000Dほどの小さな差なのです。
それなら他の安全な、高い報酬のクエストを受けた方が効率も危険性も低いのです。
なのに危険な、完全に初心者殺しの魔物と戦う理由、それはきっと…いや、言わないのです。
え、教えてほしい?なのです?ふふっ、ダメなのですよ。
秘密にしてほしいことだってあるのですよ。
…まぁそれで私もその秘密に付き合ってあげるのです。お人好しの[無能者]の為に。
さて、これくらいで話はおしまいなのです。これ以上話すとジントに何か言われそうなのです。
あ、それと。
こんな私の話しに付き合ってくれてありがとうなのです。それではまたな、なのです。