泥棒が現れる?
今日は娘の為にウィール村に来ている。
何故ここに来たかは言うまでもない、パンを買う為だ。
歩き疲れたから俺は喫茶店でコーヒーを飲んで休憩した後、
いつものお店「パンシナル」に入ろうとした時だった。
目の前にあるドアが勢い良く開き、
白いフードを深く被った人が走ってきてぶつかってしまった。
『きゃあっ!?』
自分よりも背丈が小さかったから相手は後ろに倒れて尻もちをし、
パンが入っている紙袋が地面に落ちてパンが散らばってしまった。
『す、すまない! 大丈夫か!?』
手を伸ばして起き上がらせようとすると、
お店の中からエプロン姿をした茶髪の女性が駆け寄ってきた。
そう、俺の友達のミリアだった。
『ロアン! ちょうど良いところに来たわ!
その子うちのパンを盗んだから捕まえて!!』
『え、泥棒なの? なら、捕まえるか』
助けようとしたが泥棒なら俺は悪くないな、うん。
そう思って手を伸ばして捕まえようとすると、
泥棒が泣きそうな声で叫んでいた。
『ごめんなさい! もうしないから酷い事だけ辞めて!!』
ん?この可愛らしい声は女の子?いや、まさかな。
確認をする為に深く被っていたフードをあげると、黒髪の女の子が現れた。
それだけでも驚きだが、
その女の子の頭には犬みたいなケモノミミがあったから尚更驚いた。
当然、友達のミリアもこればかりは驚いていた。
『君は・・・フェンリル?』
良く見てみると、白いコートからも肌触りがよさそうな黒い尻尾まで出ていた。
女の子に尋ねたら頭に生えているケモノミミを両手で隠し、身体を震わせて怖がっていた。
『ごめんなさい・・・酷い事だけ辞めて・・・』
んーこれじゃあこっちが虐めているような気持ちになる。
俺はミリアと目を合わせ、取り敢えず事情を聞く為にお店の中に入れさせた。
お店の中にある休憩所の椅子に女の子を座らせ、ミリアが優しく声を掛けた。
『ねぇ、怒らないから話してみて、何でこんな事をしたの?』
『・・・酷い事をしない?』
『うん、しないわよ』
震えて怖がっていた女の子はミリアに視線を向けて話してくれた。
『お金が無かったら・・・盗んだ』
んーストレートな理由だ。
しかし、他にも理由がありそうな気がする。
普通の人間ならこの理由で説明がつくが、
この子がフェンリルの種族だから違和感があったのだ。
何故こんな村にフェンリルの女の子がいるのか?
疑問に思っていると、女の子の口から信じられない言葉が出てきた。
『親が人間に殺されたから盗んで生きるしか方法がない』
俺とミリアは信じられない言葉に固まってしまった。
話に寄ると、女の子の母親はある町で悪事をしていたらしい。
娘と生活の為にあらゆる物を盗んでは人を殺し、生活費を貯めていたと言う。
そんなある日に町の人に住んでいる場所が特定され、
押し寄せられて殺されたみたいだ。
余りにも可哀想な出来事で励ませる言葉が出て来なかった・・・。
重苦しい空気になっていると、
ミリアが椅子から立ち上がってお店の方に向かい、
トレーに乗せているパンを持って戻ってきた。
『これ、食べていいわよ。お腹空いてるでしょ?』
女の子はミリアの顔を見て驚いている表情をした。
『いいの・・・?』
『うん、いいわよ』
ミリアが優しく微笑むと女の子はトレーに手を伸ばし、
パンを取って噛り付いた。
『もぐ、もぐ、あむ・・・ごくん』
『そんなに急いで食べなくても良いわよ、まだいっぱいあるからね』
『・・・美味しい・・・ぐすっ』
よっぽどお腹を空かせていたのか、涙ぐみながらパンを食べていた。
一安心したミリアだったがため息を尽き、俺に相談をしてきた。
『この子、可哀想だけどどうしよう?
毎日パンをあげる訳には・・・お客さんにバレたら怒られそうだし・・・』
『んー確かに・・・でもどうする? 養うのも難しいだろうし・・・』
ん、待てよ?養う?うちだったら出来るんじゃね?
俺は女の子にあるから提案をした。