看病をするロアン
フェルが寝ていたので、なるべく物音を立たないようにする為に椅子に座り、
テーブルの上に片腕を付けながら小説を読んでいた。
それでも無関心という訳にもいかず、フェルの様子をチラ見していた。
『うん・・・ぐっすりと寝ているな』
安心してまた小説を読もうとすると、フェルが目覚めて起き上がった。
『ん、ん・・・まだ少し頭がぼーとする・・・』
俺は本を見開いた状態で逆さまにしてテーブルに置き、フェルの元に寄った。
『ごめん、起こしたか?』
俺の所為で起こしたと思っていたがフェルが首を横に振り、否定をしていた。
『違うよ』
『あー、なら良かった・・・けど、まだ寝ていた方が良いぞ?
さっきよりは顔色が良いが安静にした方がいい』
そう優しく言葉を掛けてあげると、フェルがベッドから起き上がろうとしていた。
『お、おい、何処にいー・・・』
『パパデリカシーがない・・・トイレ』
『ごめん』
こればかりは反省した。
俺は少しばかりふらふらとしているフェルを見守り、帰って来るのを待った。
数分後にちゃんと帰って来たから良かった。
取り敢えずほっとしたが、フェルがベッドに戻ると同時に話しかけられた。
『ねーパパ。服が汗の所為でベトベトで気持ち悪いんだけど・・・』
『あー服を取ってくるから待ってろ。確かタンスの中にあるよな?』
俺は立ち上がってタンスの中に入っている服を適当に取り出し、フェルに渡した。
『俺は一度部屋を出るからその間に着替えな』
『うん・・・』
そう思って一度部屋を出たが、扉の向こうから微かに『パパー』と言う声が聞こえた。
何か困っているような声で呼んだいたから部屋に戻る事にした。
『どうしたんだ?』
フェルは顔を下に俯き、恥ずかしそうに言っていた。
『シャツが脱げない』
多分具合が悪い所為で身体が思うように動かず、汗の所為で脱げないんだろう。
いくら父親とはいえど、13歳になる娘の着替えを手伝うのを戸惑ったが、
なるべく素肌を見ないようにして背中を向いて貰ってシャツを脱がせた。
なんとかシャツを脱がせる事が出来たが、確かに服が汗でベトベトになっていた。
このままだと新しいシャツを着ても直ぐに汚れてしまうし、汗が引いたら悪化するかもしれない。
俺は娘に提案をする事にした。
『フェルよ、このままだったら風邪を引いてしまうから、
一度濡れたタオルで身体を拭いた方が良くないか?』
娘は少しばかり考えるも素直に頷いた。
『だね・・・それじゃあお願い』
『なぬ?』
今お願いと言ったか?少しだけ戸惑ってしまったが、
水が入っている桶にタオルを入れ、身体を拭いてあげた。
身体を拭き終わって新しいシャツを着せると、少しだけすっきりした表情に変わった。
『あとがと・・・パパ』
『どーいたしまして』
フェルが再び寝ようとして横になると、何かを思い出したように小さな声で話した。
『あ、そういえばママ達は何処に行ったの?』
『ん? ああ、フェルの為に風邪に良く効く薬草を取りに行っているぞ』
そう伝えると苦笑いをしていたが、嬉しそうに顔を緩めた。
『もー、本当に大袈裟なんだからー・・・』
『可愛い娘の為なら当然だと思うぞ?』
そう笑顔で振る舞うと、フェルが何かに浸るような表情をしていた。
『どうしたんだ?』
『ふふっ・・・私、パパとママとお姉ちゃんの家族になれて本当に良かったと思った』
純粋な気持ちでそんな恥ずかしい台詞を言われたから照れてくさかったが、笑って誤魔化した。
『ぷっ、はははっ! 何を今更言っているんだ。
フェルよ、風邪が治って思い返せばさっきの台詞恥ずかしくてまた熱が上がるぞ?』
冗談に言うと『そうかも』と微笑んでいた。
するとリビングから大きな物音が聞こえ、
勢い良くドアを開けたルーナとルナリアがいた。
『フェル! 風邪に効く薬草を採って着たわ!』
『これで風邪なんて余裕で治るんだからー!』
二人は息を切らしており、
顔には汗も出ていたから見つけた時に全力で走って戻って来たんだろう。
ここまでいくと親バカというかなんていうか・・・いや、ルナリアはシスコンかな?
そんな姿を見たルーナとルナリアにフェルが笑っていた。
その日の夕方。二人が採ってきた薬草の効果が現れ、
フェルもすっかり元気になってくれた。
夜は健康面と体力面を考えて野菜スープと野菜をメインにしたピザが食卓に並び、
朝からあんなに具合が悪かったフェルだが、夜はお腹が空いたのか物凄い勢いで食べていた。
そんな元気な姿を見た俺は安心し、冷やかしてやろうと思った。
『そういえば、さっきフェルが嬉しい事を言ってくれたんだ』
『ちょっとパパ! それは言わないで!』
そう言うと何かを察したのか、
フェルがめちゃくちゃ動揺していた。
俺が先程の台詞を堂々と言ったらルーナ達は微笑み、フェルは顔が真っ赤になって両手で隠し、物凄く恥ずかしがっていた光景が面白かった。
次回、新キャラが登場する!? お楽しみに!!