風邪を引いたフェル
翌朝の事だ。
いつものように家族で仲良く朝ごはんを食べている最中だった。
『どうしたんだ、フェル?』
ルーナの特製サンドイッチがテーブルの真ん中に並んでいるが、手を付けようとしない。
声を掛けてようやく我に帰ると、フェルが慌てるように手を振っていた。
『ううん、何でもない! いただきまーす!!』
ルーナとルナリアが気にしながらも一安心し、
手にしているサンドイッチをぱくりと食べ始めた。
『うーん! やっぱりママの作るサンドイッチは美味しいー!』
『ふふっ、ありがとうね』
ルーナの手作りサンドイッチはオリジナルタルタルソースを作り、
小屋の隣で勝手に生えている新鮮な野菜を使っているから、
本格的になって美味しいのだ。うん、これは何枚でも食べれそうだ。
俺達がいつものように2枚目に手を付けようとすると、
フェルがサンドイッチを半分残していて『ごちそうさま』と立ち上がった。
いつもと様子が明らかに違うからこればかりは心配した。
『フェル、体調が悪いの?』
『大丈夫ー?』
ルーナとルナリアが心配するも、フェルはぎこちない笑顔で『大丈夫』と言ったが、
その矢先に脚がふらつき、倒れ込みそうになった。
『フェル!?』
俺はフェルが床に倒れる前に急いで駆け寄り、片腕でなんとか支える事が出来た。
『大丈夫かフェル!?』
顔を見ると妙におでこと頬が赤く染まり、辛そうに息を吐いていた。
確認をする為におでこに手を当てると、やはり熱があるようだ。
『これは風邪だな・・・ルーナ!
俺はフェルをベッドまで運ぶから風邪薬を棚から出してくれ!
ルナリアはタオルと水の用意を!』
『分かったわ。頼むわよロアン』
『うんパパ! 私に任せてー!』
フェルを抱えながらドアを膝で開けてルーナの部屋に入り、
もう一つの部屋のドアも同じく開けてフェルの部屋に入ってベッドの上に寝かせた。
三人が慌てていると、フェルが小声を出して言った。
『もー・・・風邪くらいで大袈裟なんだからー・・・』
フェルは苦笑いをしながら落ち着いていたが、
ルーナとルナリアはまるで大きな病気にも掛かったのではないかと物凄く心配していた。
『フェル! 風邪薬を持ってきたからこれを飲みなさい』
『水で濡らしたタオルと水も用意したよー! フェル、しっかりしてー!』
フェルが薬を口に含んでコップに入っている水で流し込み、布団を被せて安静させ、
ルナリアが水で濡らしたタオルをおでこに合わせて折りたたみ、そっとおでこにタオルを置いた。
フェルが落ち着いて寝た後に三人でリビングに向かい、一安心をしてテーブルに座った。
『フェルも風邪を引くとは思いもしなかったわ』
『ビックリして焦っちゃったよー』
どうしてうちの嫁と娘がこんなに焦っていたかと言うと、
エルフの種族は人間よりも治癒能力が高く、滅多に風邪を引かないからだ。
だから風邪を引いただけでもあの騒ぎになる。
まぁ、俺が数年前に風邪を引いて具合が悪い時は、
ルナリアがもっとひどかったからあの時と比べたらまだましか。
あの時は俺が風邪を引いて具合が悪く、
ベッドの上で寝ていただけだったのにルナリアが涙目になりながら
『パパ! お願いだから死なないで! 死んじゃやだよー!!』と号泣していたからな。
あの時は可愛かったなー。今もめっちゃ可愛いけどな。
そんな事を呑気に思い出していると、
ルーナが『フェルの為に風邪に効く薬草を採ってくるわ』と言い、
ルナリアも付いて行くように小屋を出て行った。
その間は俺がフェルの看病をする事なり、
フェルが寝ている部屋にゆっくりと入った。