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名付けてもらいました

皆様と少し仲良くなれた翌日、私は気になっていたことを聞くことにしました。


「ああああの、あのあの、ナオキ様、は、どうして私が、その、エルフだって……?」


 今まで私の種族を見破った人などいませんでした。外見はゴブリンメイジのハーフゴブリンですし、そこから更に魔力を調べる人はいません。ですがナオキ様は私を見た瞬間エルフだと気付いたみたいです。何故なのでしょうか?


「あぁ、そんなのステータスを見れば一発だよ」

「……すてーたす? ですか?」

「そ、ステータス。こいつを見れば対象の種族は勿論、レベル、名前、年齢、HPやMPそれにスキルなんかも判るんだ」


どうだい、便利だろう? とナオキ様は仰います。……えーと、途中分からない単語が出てきましたがその『すてーたす』を見れば相手の情報が載っているということでしょうか? そしてそれを見て私の種族がエルフだったと……なんか怖いです。本人しか知りえない情報を簡単に知ることができる『すてーたす』なるものを所持しているナオキ様は一体何者なのでしょうか? 分からないことが多すぎて思わずナオキ様の横に座っているダフネス様に視線を移します。


「あー、つまりなんだ、確かナオキには見ただけで相手の情報をある程度知ることができる能力があってそいつをステータスって呼んでんだとよ」


 ふむふむ、つまり『すてーたす』とは本や巻物ではなくて情報を得る魔法ということですね? 因みにHPは生命力でMPは魔力を数値化して見ることができるみたいです。ありがとうございますダフネス様。なんか妙に慣れてらっしゃいますね? ひょっとしてナオキ様の補足説明はダフネス様の役割なのでしょうか。


「それじゃ、疑問も解けたところでお互いをもっとよく知る為にも自己紹介でもしようじゃないか!」


 勢いよく立ち上がったナオキ様がそう仰いました。正直、奴隷の私にそんなことをされる必要はないと思うのですが。


「そうね、これからの旅は命懸けだもの。少しでも仲間の情報は持っていた方がいいわ」


 私の隣に座っていたエルザ様の言葉にうぅむと唸ります。成程、確かにその通りです。私は一般的な奴隷が行う荷物運びや盾としての役割ではなく戦力を期待されて買われていたのです。時に命を預ける味方の能力を把握しておくのはとても大切なことなのです。


「だよね⁉ じゃあ、言い出しっぺの僕から。僕の名前はナオキ・スルガヤ。17歳。趣味は昼寝と読書。好きなものはエルフと可愛い女の子だよ!」


 ……なんか、私の想像してた自己紹介と違いました。てっきり得意な戦法とかよく使う魔法とかを教えるのだとばかり思っていましたがこういう感じで進めていくのでしょうか?


「あのねぇ、ナオキ。それじゃ分からないことだらけじゃない。もっと戦闘時のポジションとか――」

「そんなの戦ってるうちに分かってくるよ。むしろ変な先入観を与えて動きが悪くなる方がよっぽど危ない」


 私と同じことを思ったエルザ様にナオキ様がすかさず反論します。


「お、珍しくマトモなこと言うじゃねぇか。全く以ってその通りだ。実践に勝る知識なんざありはしねぇ。そうやって何べんも一緒に戦っていくうちに連携ってのは生まれてくるもんだ。つーわけで次は俺な。名前はダフネス・ウォーリア。19歳だ。ガキの頃からこの馬鹿に拳骨を落とすのが俺の仕事だ。コイツが何かやらかしたらすぐ俺に言え。よろしくなチビジャリ」


 ダフネス様は気の良い笑顔でそう仰ってくれました。ずっと怒鳴っていたり、イライラしているように見えたので怖い人だと思っていましたが違うみたいです。思い返してみれば私を買うことに反対だったのもナオキ様の悪評を気にしてのことで私自身を嫌悪していたわけではありませんでした。年齢もナオキ様より上ですし兄貴分のような感じかもしれません。


「まったくダフネスまで。まぁ、いいわ。私の名前はエルザ・ハーン。17歳。見ての通りの魔法使いよ。女の子同士仲良くしましょ? 一応このパーティーのリーダーでもあるからパーティー全体の事で相談があるときも私に言ってね」


 驚きました。てっきりナオキ様がリーダーだと思ってました。このパーティーの中心は間違いなくナオキ様です。それなのに何故ナオキ様でも年長のダフネス様でもなくエルザ様なのでしょうか? 疑問が表情に出ていたのかエルザ様は気を悪くするでもなく続けます。


「リーダーはギルドを通して依頼した人との交渉もするし別のパーティーリーダーと情報を交換することがあるの。パーティーを引っ張るだけならナオキに任せるけどそういった駆け引きはあの二人には無理でしょう? だから仕方なしに私がやってるのよ」


 な、成程、納得です。いえ、決してナオキ様とダフネス様を軽んじるつもりはないです。お会いしてまだ少ししか経っていませんがナオキ様は明るく素直な方ですしダフネス様も怖い人だと思ってましたが凄く面倒見の良い人みたいです。しかし、それでは言葉の裏に隠された意味に気付かず騙されてしまうこともあります。私は見たのです。安く仕入れた奴隷を持ってお貴族様を相手に言葉巧みに高額で売りつける奴隷商人の姿を。そんな人たちにとってお二人の性格は相性が悪すぎます。エルザ様もそれを理解しているからこそご自身でも慣れない交渉等を行っているのでしょう。エルザ様、少し大変そうに見えます。私も出来ることからお手伝いしていきましょう。


「よし、これで僕たちの紹介は終わったね。さぁ、君の番だよエルフちゃん。趣味とか特技とか好きなものとか。エルフちゃんのことどんどん教えてちょうだいな」


 そ、そうでした! 私も自己紹介するんでした。ど、どうしよう、何も考えてません。と、とりあえず今ナオキ様が挙げた項目だけでもお答えしなくては!


「え、えとえと。え、エルフです。5歳です。えっと、趣味は薬草の栽培と調合で、その、特技は魔法? でしょうか? そ、それで好きなものはクルコの実です」


 い、言えました。ま、まだ心臓がバックンバックンいってます。これから旅をしていくのにこれではいけません。お三方にだけでも普通に話せるようにならなくてはダメです。頑張りましょう。


「エルフちゃんはクルコの実が好きなのかぁ。あれ、甘くて美味しいよね。次の街に行ったら木の実だけじゃなくてもっと美味しいものも食べに行こうね」

「ほう、薬草の調合まで出来るのか。こいつぁ頼もしいこった。これから先、場合によっちゃ傷の癒える前に戦闘なんてこともあるかもしれねぇしな」

「待ちなさい二人とも。その前に気になることがあるでしょう。ねぇ、貴女。ひょっとして名前がないの?」


 お三方は私の自己紹介にそれぞれの反応を示してくださいました。特にエルザ様は私が名乗らなかったことを疑問に思い視線を私とナオキ様に向けます。私に名前があるならばナオキ様の『すてーたす』で見ることができる筈です。ですが実際私は名前を持っていません。奴隷になる前は森に一人でいたので名前を付けるという発想がなかったのです。


「うん、確かにこの娘にはまだ名前がない。でも大丈夫! 名前なら僕が夕べ考えておいたから!」


 ナオキ様が私の代わりに答えてくださいます。やっぱりナオキ様の魔法でも名前はなかったみたいです。ひょっとしたら私が知らないだけでちゃんとあるのかな。と少し期待してたのですが……。でも! ナオキ様が私に名前を! 感激です! 奴隷の事をそこまで考えてくださるなんて。私、ナオキ様の奴隷で幸せです!


「え……。名前を? ナオキが?」

「そうだよ。沢山考えてきたんだ。どれがいいかなぁ…………よし、これだ! ハナコ!」

「却下」

「即答⁉ なんでよエルザ!」

「なんでそんな奇天烈な名前なのよ。もっと普通の名前にしなさい」

「十分普通なのに。じゃあ、ナギサ! ハルカ! アケミ!」

「全部却下! 女の子の名前なのよ? そんな変な名前許せるわけないじゃない。全く、ナオキのセンスはどこかズレてるのよねぇ。貴方には任せておけないわ。私が考える」

「おう、俺も混ぜろや。ナオキよりかいいセンスしてると思うぜ?」

「ちょっ、なにさ二人揃って。まだまだ候補はあるんだからね⁉」


 お三方が揃ってあーでもないこーでもないと私の名前を考えてくださいます。私、蚊帳の外です。私の名前なのに。

 でも、不思議と寂しさは感じません。多分、皆様が本当に真剣なのが伝わってくるからだと思います。私の為に。なんて少し図々しいですかね?

 激論の末、私の名前は『アイリス』に決まりました。アイリス。産まれて初めて貰った名前。何と言いますか。今、私凄く幸せです。こんなに幸せな奴隷がいていいのでしょうか? 明日から王都を出て旅が始まります。この幸せの分もしっかり頑張らなくちゃダメですね。その代わり今夜は存分に幸せを噛み締めましょう。

えへへ、私、アイリスです。


全国のハナコさん、ナギサさん、ハルカさん、アケミさんごめんなさい。この作品の世界では名前の感性が少し違うんです。

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