バレました
判ったことがあります。私、口下手です。
頭ではいろいろ考えているのですがそれを話そうとすると途端にどもります。どもりまくりです。怪しすぎです。
現在はナオキさん、いえ、ナオキ様方お三方に連れられて宿屋さんに来ています。勿論マント装備です。宿屋さんに着いて真っ先にお風呂に入れられました。とっても気持ちよかったです。お風呂なんて初めて入りました。奴隷になる前は水浴びでしたし。その時一緒にお風呂入ってくれたエルザ様が「貴女の髪本当に綺麗ね。肌も真っ白だし」と褒めてくださいました。私の金髪は数少ない自慢です。ありがとうございます、エルザ様。
お風呂から出るとお部屋にはナオキ様とダフネス様がいました。ナオキ様はともかくダフネス様は真剣な表情です。
「それで、教えてもらえるんだよな、ナオキ。どうしてこのハーフゴブリンを買ったのか」
ダフネス様から出た疑問は私も気になります。なぜ私を買ったのでしょう? 正直、冒険者さんに限らずハーフゴブリンを欲しがる人間というのを思いつきません。一瞬「あのこと」がバレたのかと思いましたがそんな筈ありません。冒険者さんは夢想家より現実主義者のほうが多いと聞きます。日頃から命がけですから当然ですよね。
「それはね、この娘が他に類を見ないほど貴重な戦力になってくれるからだよ」
しかしそんな私の甘い考えはナオキ様の一言で吹っ飛びました。
あわわわわ、バレた⁉ バレてる⁉ いつから⁉ 背筋が冷たい。冷や汗? 胸もひやってしてる。視点が定まらない。あれ? ちゃんと座れてる? あ、なんかくらくらしてきた――
「はい、落ち着いて。深呼吸、深呼吸」
気が付くとエルザ様が背中をさすって落ち着かせて下さいました。言われた通り深呼吸します。すー、はー、すー、はー、お、落ちつきました。
「あ、あああっ、ありっ、がとう、ございます」
「はい、どういたしまして。それでナオキ? この子が貴重な戦力ってどういうこと?」
「そのままの意味だよ。嘘かどうかなんならその娘に直接聞いてみたら?」
「いや、こいつ全然喋らねぇじゃねぇか。宿に着くまでエルザが話しかけても返事しねぇし。今ので2回目だぞこいつの声聞いたの」
「まぁね、多分凄い口下手なんだろうね。何も考えてないわけじゃないのは檻の中にいた時からずっと百面相してるから判るんだけど」
なんと、私そんなに表情に出てました? うむむ、このままではクールビューティーにはなれませんね、別に目指してませんけど。
先程は不意を突かれたので少しだけ動揺してしまいましたがまだ明言されたわけではありません。そうです、なにか勘違いの可能性もあります。そうであってください。
「この娘はねぇ、ハーフゴブリンなんかじゃないよ。この娘の本当の種族は――エルフさ」
私の淡い希望はいとも容易く砕かれました。
で、ですよね、そこまで話してたら気付いてますよね。はい、そうですエルフです。捕まった奴隷商人にも他の人達にも間違われましたがエルフなんです、私。どうしよう、私売られちゃうのですか? 実験動物ですか? 解剖ですか?
「エルフってお前んなわきゃねぇだろ。エルフは何千年も昔に絶滅しててとっくにお伽噺の中の存在じゃねぇかこんなチビジャリがんな神聖な種族に見えるか?」
あぁ、それとも体内の魔力を利用したエネルギー源ですか? ただの魔力を収めた肉人形にされるのでしょうか?
「この娘の体から莫大な魔力を感じる。殆ど漏れてないからゴブリンメイジの子供だと勘違いされるだろうけど実際に触れてみればよくわかるよ。でしょ? エルザ」
「え、ええ、確かにこの子の体にはとてつもない魔力が流れてるわ。しかもそれを殆ど漏らしていない。魔力操作も超一流ね。この子、なんて言ってるけどエルフは長寿種。少なくとも千年以上生きてるってことかしら」
この世に生を受けて早5年。母なる大地様、先立つ不幸をお許しください。
「いや、この娘は産まれてから6年も経ってないよ。エルフは大地と樹木の精霊だから普通に子供も産めるけど一定条件下で自然発生することもあるんだ。この娘の場合はそれだね」
「6年生きてねぇって、おいおい、こいつまだ5歳だってのか⁉ どう見ても10歳前後に見えるが」
「当たり前だよ。自然発生するんだから当然親はいない。産まれた瞬間からある程度生きる力がないと生き抜けないからね。多分今と殆ど同じ姿で産まれたんじゃないかな」
「……お前、やけに詳しいな。千年以上前に絶滅した種族なんてほとんど文献にも残ってねぇだろ。よくそこまで調べられたな」
「当然さ! 僕はエルフが大好きなんだ! エルフに会うために生きてきたといっても過言じゃないよ! それに調べるのもそこまで大変じゃないさ。ダフネスも言ったろ? お伽噺の存在だって。お伽噺だって事実無根なわけじゃない。エルフは実在していたんだからその生態だって信憑性があるものばかりだ。あとはそれを裏付ける情報を文献から――」
「だー! わかったわかった! でだ、お前はこのチビジャリを旅に……ってなんで泣いてんだよ⁉」
うぅ、これからの事を想像しただけで涙が。あ、エルザ様ハンカチありがとうございます。私がこれから先の未来予想と母への別れの言葉を考えている間、何やらお三方で話していたようですが私の処遇が決まったのでしょうか?
「君にはこれから僕たちと一緒に旅をしてもらう。危険な旅になるけどよろしくね」
そういってナオキ様は広場の時のように手を差し伸べてくれます。
「た、旅?」
「そう、旅」
「う、売らないんですか?」
「折角買ったのに売ったりしないよ」
「解剖もしませんか?」
「解剖もしないよ」
「肉人形にもしませんか?」
「「ぶっ⁉ に、肉人形⁉」」
ナオキ様と私の問答を聞いていたエルザ様とダフネス様が急に叫び声を上げます。な、なんでしょうかそんなに変なことを聞いたつもりはなかったのですが……はっ⁉ そうですよね、私奴隷ですもんね。奴隷はまさに肉の人形。お二人は何を当たり前のことを聞いているんだとビックリさせてしまったのですね。
「んー、肉人形にしないってのは約束できないな」
「おい! ナオキ!」
「だってこんなに可愛いんだよ⁉ エルフってだけでも素晴らしいのにその上この愛らしさ! 叶うのならば今すぐにでも――」
「やかましい! この変態!」
「ああ、ナオキ。貴方って人はその性的嗜好さえなければ選り取り見取りでしょうに」
「あっ、あああの、い、今のは私が間違えたんです。奴隷ですから。が、頑張りますナオキ様の肉人形として!」
「んなこと頑張らんでいい! とにかく一緒に旅に出てくれりゃそれでいいんだ」
「そうよ、万が一そこの変態に何かされそうになったら私に言いなさい。地獄を見させるから」
「え、でも奴隷……」
「「い・い・な(わね)⁉」」
「は、はいぃ」
結局お二人が何をそんなに怒っているのか分かりませんでしたが売られることも解剖されることもなくて良かったです。それにこんなにたくさん喋ったのも初めてでなんだかお三方と少し仲良くなれた気がします。買って頂いたご恩に報いるためにも一生懸命頑張りましょう。目指せ、最高の肉人形! です!
奴隷=肉人形だ思ってます。