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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「銀河連合日本」二次創作

銀河連合日本外伝 ~宇宙は一家、ぬこ好きは皆きょうだい~

作者: トファナ水

 広大な星間国家連合体「ティエルクマスカ連合」。文明の発展に行き詰まっていた彼等の閉塞感を打破したのは、辺境の惑星・地球上の国家「日本」との接触である。発展途上ながらも独特の文化を持つ日本は、連合の未来に再び光をもたらした。その内の一つが、多くの連合市民の友となった肉食獣「猫」である……

※本作は「銀河連合日本」(N5084B)の二次創作作品です。原作者の柗本保羽様の御許可を頂いています。


 地球の公衆コンピュータ・ネットワークであるインターネットへは、ティ連からのアクセスは容易だ。それを介しての地球のコンテンツ閲覧は、今やティ連市民の娯楽としてすっかり根付いている。

 それはまた、ティ連各国の文化にも様々な影響を及ぼした。ティ連の民衆は新鮮な気持ちで地球の文化・習俗を吸収し、自分達の暮らしに彩りを加えていったのである。

 中には「バーゲンセール」「即身仏」の様に誤解された物や、「珍走団」「ぶっかけ」の様に地球人としては道徳的に好ましからざる物も含まれてはいたが、あくまでティ連各国の法が許す範囲の事である。

 そして、インターネットがティ連に及ぼした影響の一つが「猫」である。

 本稿では、その経緯について述べてみたい。


*  *  *


 ティ連の情報通信ネットワークから、インターネットへの接続が始まると程なく、地球のコンテンツに「猫」という小動物に関する物が際立って多い事に少なからぬ者が気付いた。

 猫。夜行性の肉食獣で、四足で歩行し尾を持ち、全身を体毛で覆われている。日本だけでなく国を問わずに飼育されている愛玩動物である。

 自分の飼育する猫を撮影した映像を投稿する地球人はとても多く、また、猫を題材としたイラスト、漫画、アニメーション等々の創作物もあふれている。飼育も比較的容易な様だ。

 猫が多くの地球人に愛されるペットであると知ったティ連市民の多くは、是非ともそれを間近に見たいと願った。

 その願いに最初に応えたのは、ティ連の科学技術や社会システムを学ぶ為、交渉権を有するイゼイラへ来訪し始めた日本人留学生達であった。

 現地で学ぶだけでなく、イゼイラ市民に日本について好印象を持たせる”かけ橋”となる事を期待されて送り出された日本人留学生達。彼等は日本外務省の支援を受け、地元との交流サロン設置を、首都「サントイゼイラ」へ設立すべく準備を進めていた。

 そして彼等は学内で、日本のどの様な物に関心があるのかとアンケートを取ったところ、上位に挙がった物の内で手軽そうな物は……何故か「猫」だった。

 留学生達は首を傾げつつも、飼育する猫を帯同していた一部の者の了解を取り付けて、サロンで共同飼育する事にした。

 また、サロンではユニフォームを作ろうという声が挙がり、多数決の結果、男性は執事調、女性はメイド調という事になる。建物も大正時代のミルクホール調という、日本人から見ると懐古調の物となった。勿論ハイクァーンがあるので、予算は考えなくて良い。

 シックな建物でカレーを味わいつつ、執事やメイドと語らいながら、愛らしい猫をめでる優雅なひと時。執事/メイド/猫喫茶は、イゼイラにおいて評判を博す事となった。

 猫の愛くるしさを直に知ったイゼイラ人達は、是非とも手元に置きたいと考える様になって行く。彼等が真っ先に頼ったのはインターネットだが、日本のペット通信販売サイトはその悉くが国内販売にしか対応していない。またこの時点では、ハイクァーン受給権での決済に対応している日本の業者もいなかった。

 さらには動物愛護の観点から、ペットの通信販売を規制し対面販売を義務付けようという動きも日本国内で強まっていた為、イゼイラ市民が猫を輸入する道は閉ざされたも同然だった。

 どうやったら猫を入手出来るのかと殺到する問い合わせに、日本大使館は困惑する事となる。


*  *  *


 猫を渇望するイゼイラ人の内、業を煮やした一部の者は、日本に渡航しての購入を考える様になった。イゼイラ=地球間の定期便が就航し観光目的の渡航が許可される様になると、早速彼等は「猫ちゃんお迎えツアー」を編成し、日本の地に向けて出発した。その数、何と約三百名である。

 日本で入管手続きを済ませた彼等は早速、目をつけていた大規模ペットショップへと繰り出すが、ショーウインドウに並ぶ猫達の値段を見て彼等は悩む事となる。

 観光で来訪したイゼイラ人は、現地で使う為の日本円を支給されるのだが、ここで販売されている猫の値段はいずれも、その大半をはたいて何とかという価格だ。

 ベンガル、スフィンクス、マンクス、シャルトリュー、メインクーン、アメリカンワイヤーヘア等々の高級猫達を前に、彼等は考え込んでしまう。何とか買えなくはないのだが…… 流石に日本まで来て、猫を買っただけで帰るというのはわびしい。

 購入を保留して店を出た彼等は宿泊先のホテル(もちろんペット同伴可である)で対応を検討する事にしたが、夕食の席で付いていたTVで流れている、日本放送協会の報道番組を見て仰天した。

 日本では、飼育出来ない猫を保健所が引き取り、一定期間内に飼育希望者が現れないと殺処分するというのだ。

 その場の全員が、口にしていた食事を吹き出してしまった。

 怒りと悲しみに我を忘れた彼等は夕食もそこそこに、丁度ホテルから程近い距離にあった日本放送協会の本局に押しかけると、取材先を教えろと受付に詰め寄った。

 唐突に押し寄せたイゼイラ人の集団に受付嬢はパニックを起こしかけつつも、報道番組のディレクターに連絡を取る。丁度本局にいた為に応対へ出たディレクターは、イゼイラ人達の訪問意図を聞くと、翌日に件の保健所へ案内する事と交換に、その一部始終の取材を申し入れる。一同は喜んでそれを受け入れた。


*  *  *


 翌日、「猫ちゃんお迎えツアー」一同は、約束通りに迎えに来たディレクターの用意したバスに乗り込んで、取材スタッフと共に保健所へと向かった。

 予め連絡を入れられていた保健所の係員は、異星の猫愛好家集団に戦々恐々としていたが、彼等の口から出たのは殺処分への批難ではなく、猫を引き取りたいという申し入れだった。

 胸を撫でおろした職員に案内され、里親を待つ猫達に引き合わされた一同は、一様に顔がほころんだ。ニャアニャアと鳴く猫達を抱き上げるイゼイラ人達に、スタッフがカメラを向ける。何ともほほえましい光景だ。

 だが、ディレクターは感動的なシーンでは終わらせなかった。


「空前の猫ブームの裏でこの国では、年間約八万頭の猫が殺処分されています。異星の救いの手は、ほんの一握りの命を救ったに過ぎないのです……」


 マイクを握るキャスターから出る冷徹な言葉に、幸福感に浸っていた「猫ちゃんお迎えツアー」一同の顔は蒼白になったが、ツアー代表格の女性は落ち着いていた。


「ならば、私達が何とかします」

「でしたら引き続き、取材をよろしいですか?」

「喜んで」


 きっぱりと対応する旨を告げるツアー代表に、ディレクターはすかさず継続取材を申し込む。二つ返事での快諾に、彼は内心で喝采していた。


(うまく乗った!)


*  *  *


 「猫ちゃんお迎えツアー」は引き取った猫達と共に、再び宿泊先へと戻る。そのまま同行した取材スタッフが向けるカメラの前で、彼等は次なる行動へと入っる。引き取った猫と戯れつつも、それは素早く果敢だった。

 イゼイラ本国の猫愛好家達に、日本に於ける猫殺処分の現状を伝えると共に、可能であれば猫の里親となる様に訴えた。

 また、日本国内の猫愛護団体へと連絡を取り、自分達が窓口となってイゼイラの里親希望者への猫引き渡しを行えないかと交渉。さらには「猫ちゃんお迎えツアー」に対する同団体の後援と、中核メンバーの日本への延長滞在の身元保証を依頼した。

 猫愛護団体側は当初、唐突な申し入れに怪訝な顔をしていた物の、日本放送協会の取材が同行していたこともあり信用し、「猫ちゃんお迎えツアー」は日本での拠点を手に入れる事となる。

 当初予定通りにイゼイラへ帰国したメンバーも、日本人留学生中から募ったボランティアと共に飼育のアフターフォローの為の拠点を開設する事となった。

 ここまでの一連の様子は、日本放送協会のドキュメント番組として放送されるに至り、高視聴率をあげた。担当のディレクターもまた、高く評価されるに至る。

 一カ月もしない内、イゼイラからは猫を求める里親希望者が「猫ちゃんお迎えツアー」として来日する事となり、その数も倍増していった。

 目標は年間八万頭。これだけの数の猫を救うのは容易ではないと思われたが、イゼイラ中に広まった猫愛好家に猫をいき渡らせるには、全くの不足であった。イゼイラの総国民数は六百億。その内のごく一部の物好きの需要を満たすだけでも大変である。

 皮肉にも、「猫ちゃんお迎えツアー」を特集したドキュメント番組が、安易な猫の処分を抑制する結果になった事が、供給不足につながった一面もある。

 また、この時点では日本はティ連に正式加盟していなかった為、イゼイラ経由で猫を入手したいと申し出る他加盟国の愛好家も多かったのだが、その声に応える事は難しかった。

 ちなみに、意図せぬ野生化を防ぐ為、研究用途等の特別な許可がない限りは日本から出国の前に不妊処置を施しているので、繁殖によって需要に応える事は出来ない。

 やがて日本がティ連に加盟すると、それまで待たされていた他国の愛好家達もこぞって「猫ちゃんお迎えツアー」支部を結成し、日本へと向かう様になる。



 その頃には日本の猫だけでは全く足りない様になり、猫愛護団体を通じてLNIF諸国からの猫引き取りを始めるに至った。ティ連への心証を良くすべく、国を挙げて野良猫を捕獲して差し出す処もあった程である。

 ついに不要猫の引き取りでは全く需要が満たせなくなり、ティ連内での繁殖も厳正な管理の下で開始される事となった。

 ティ連での猫の様子は、地球からもインターネットで見る事が出来た。地球人と同じく、ティ連市民もまた、動画投稿で猫自慢を楽しむ様になったのである。

 インターネットを通じた地球とティ連の猫愛好家の交流も一段と進み、双方の信頼醸成に一役買う事にもつながった。

 今や猫は宇宙に広まった、普遍的な愛玩動物なのである。


「銀河連合日本」の二次作を書いてみたいとは以前から思っていたのですが、私の自作を知る人はご存知の通り、ダークな物ばかり思いついてしまい、二の足を踏んでいました。

 心機一転、明るい話題は何かないかと考え「インターネットでは猫の画像があふれている」という現実の事象から、今作を思いついたという訳です。

そして、

ティ連って地球のインターネットを視聴可能だったんだよな

だったら猫画像も見ているだろう

飼いたくなる人も多かろう


と発想を膨らませて行き、今回の形にしてみました。


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― 新着の感想 ―
[一言] お見事!   お猫様愛が銀河を超えてしまうとは…。まあ、犬でも同じ事がありそうですな。温泉につかる猿とか見たらどうするんであろうか? お犬様バージョンもお願いします。  でも、この世界だとネ…
[一言] 私は、生物学には相当くわしいつもりですが……。 猫科動物の場合、人間以外に事実上敵がいないので、なおさら厄介ですよね。
[一言] 「小さな島に持ち込まれた一匹の猫が、その島にしか居ない新種の小鳥を絶滅させた」……。 「スティーブンイワサザイ」ですか。「絶滅動物の歴史」では、有名な話ですね。  小さな島に少数のみ棲息し…
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