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ArcanAbilitiA  作者: 御巫咲絢
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第二章【千里の双子】第一節

薄暗くなり始めた空を切るようなヘリコプターの音。

それを聞きながら、レヴィンはこの真下にある倉庫を見やる。

扉を開け、身を乗り出すかのような姿勢で待機しつつ、少し前に交わした会話の内容を復習していた。



――時は先日の昼下がりまで遡る。

来客対応を済ませたレインがレヴィンとアキアスを呼び、新しい依頼だと言って一つの資料を見せてきた。


『……見たことない名前だな?』

『最近興された小規模なテロ組織のようです。ここ数週間ほど活動が活発化し拡大を続けているそうで』

『うちに持ってきたってことは神秘力者組織か。マグメールは絡んでんのか?』

『いえ、関係性を匂わせるものは全く。ですが活動が活発化したと同時に国内で行方不明事件が多発しているようです』

『……ということはつまり』

『ええ、その黒幕である可能性が高い。組織の人数も爆発的に増加しているのも決して無関係ではないでしょう』

『その組織を仕留めて、もし行方不明の人たちがいるなら解放……ってことだな』

『そういうことです。ただ、嫌なパターンになっている気がするのですよねえ、これ』


レインの言葉の意味を察してレヴィンは眉をしかめ、アキアスもああ……と理解を示す。

突如活発化した小規模組織の人員増加と行方不明になった人々、この二つから導き出される結論。

……即ち。


『片っ端から拉致して洗脳、か』

『期間が然程ありませんから、余程強力な神秘力でもない限り黒幕から引き剥がせば問題ない……とは思うのですけどもね』

『とはいえ下手に手を出せねえのは骨が折れるぜ?』

『不殺戦法は十八番でしょう?』

『ま、そうだがな』

『ですので心配はしていませんよ。ただし』


ぴ、とレインの指がレヴィンに向く。


『く れ ぐ れ も。大怪我なんかして帰ってこないように…………いいですね?』


レヴィンは答えず無言を貫く。

アキアスも訝しむように見ているのだがそれでも答えない。

にこにこにこ、レインが笑ってただじーっと見つめてくるがそれでも口を開かぬレヴィン。


『……………………善処はする』


視線から逃げようと目を逸らした瞬間、弟の後ろに般若の如き黒いオーラが溢れ出したのが目に入りそこでやっと口を開いて話は終わった。



――そして時は戻り現在。

警察と合流し、突入時間がくるまでこうして待機しているというワケである。

別に軍事用とかそういった特殊な仕様のものではなく、あくまでごく普通のヘリコプター。

それが空を飛んでいるという風に見せかけて奇襲を仕掛け一気に制圧する……それが今回のプランだ。

成功するか甚だ怪しく思われそうだが、実際この作戦を実行してレヴィンたちが成功させなかったことは一度も無い。

それは、対神秘力者においての実力はそう簡単に右に出るものはいない程のものを持ち合わせているということの証明。

だがその程度ではまだ足りない。

マグメールとの戦闘……首領であるユピテル・ヴァリウスとの戦いを経た現在では自分たちは驕っていたともすら思えてならないぐらいの力の差を感じた故に。

逆に言えば、依頼は何が何でも完璧に達成してみせるという気概の現れでもあるのだが。


「レヴィン」


背後の席に座っているアキアスが声をかけてくる。

訝しむ顔で、じ……と色の違う瞳で振り向いたレヴィンの蒼瞳を見つめる。


「今 度 こ そ 。――絶対無茶すんじゃねえぞ」

「…………わかってる」

「その「わかってる」は信じていいんだな?やらかしたらマジでぶっ飛ばすからな?」

「……時間だ、いくぞ」

「っちょ、おいレヴィンっ!」


今誤魔化しやがったな!?――アキアスがそう怒鳴るのを気にも留めずレヴィンはその身を空中に投げる。


「《暴落する重力》」


真紅のオーラが体にかかる重力をこれでもかと引き上げ、落下スピードを強めていく。

流れ星が落ちるような勢いで倉庫の屋根へ一直線に向かい――砕く。

幾多の瓦礫と共に地に降り立ったその瞬間、レヴィンを中心に地面は大きく凹み、クレーターを作り上げた。


「!?何者だ!!」


一人の男が声を上げ、彼を護るかのように大勢の人々がレヴィンを取り囲む。

ナイフ、拳銃、メリケンサックに警棒……様々な武器を取り揃えた部下と思しき者たちの目は虚ろに揺らぎ、まるで上の空かのような印象も感じられた。

多勢に無勢という言葉がふさわしいような光景の中、レヴィンは動じることなく周りを一通り見回して声を荒げた男を見据える。

その男からは淀んだ泥の色のようなオーラが発せられている――即ち、同じ神秘力者。

しかしその部下であろう人々からは男女問わずそれが一切発せられていない。


「……大した者じゃない。今すぐ全員武器を捨てて投降してくれ。しないなら相応の対応をさせてもらう」

「貴様……警察の手の者か!」


男が叫ぶと部下たちが一斉に構えを取る。

そのタイミングは一律、逆に違和感を感じさせると同時にレヴィンの中にあった一つの可能性を確信づけた。


「(やっぱりな。全員操られている)」


そうでなければこの大人数、一秒たりともタイミングに狂いがないなど余程の訓練を受けた軍人ぐらいでなければ有り得ない。

虚ろな様子からして正気でないのも確実だ。組織首領の神秘力によって何らかの洗脳を受けていると考えるのが妥当であり、恐らく彼らは行方不明事件の被害者だろう。

であれば無闇に傷つけるワケにもいかない――そう思考している中、さらに一人空から降り立つ。


「こりゃまた随分な歓迎だな。しかも予想が全的中ときた」


パーカーを脱ぎ捨て、アキアスは構えを取る。


「少人数どころかたった一人の組織だったってか。かっこに笑の字でもつけてやりてえぐらいだぜ」

「全くだ」

「警告……は、もうしてるわなお前のことだし」

「聞いたかどうかは察してくれ」

「言われずとも。見事なまでのテンプレ展開すぎて逆に安心するわ……んじゃ、いつも通りにやるかね――っと!」


発言と共にアキアスは一歩踏み出し姿を消す……否、目にも留まらぬ速さで行動に移った。

直後先程まで彼がいた位置に向かい、操られている人々のうち一人が先陣を切って鉄パイプを叩きつけてくる。

回避行動を取ると同時に背後を取ったのだ。

手刀で首の後ろをトンと叩けばからんからん、と武器を落とす音が響き渡り一番手は程なくしてその場に倒れて動かない。

次にその後ろからナイフを突き立てんとやってきた二番手の攻撃を屈んでかわし、そのまま鳩尾を殴りつけると同じように獲物を手から落として気絶した。


「なっ、なっ……お前たち!やれッ!!」


男の叫びに呼応し、操られた人々が一斉に雪崩れ込む。

まずは一人が鉄バットをレヴィンの顔面めがけて振るうが、あっさりと左手で留められ、武器ごと引き寄せられて延髄に刺激が走りその場に沈む。

拳銃を発砲すれば弾は彼の手前で地に落ち地面に小さな穴を開け、直後同じように地べたに這いつくばり。

後ろから振り被れば体を逸らすだけで狙いが外れ、体勢を崩したところで鳩尾を殴られて気絶する。


「……すまんな。手荒な真似になって」


ぐったりと地面に倒れようというところをそっと抱きとめ、優しく寝かせるレヴィン。

その背後を取らんとさらに一人が金槌を振り下ろすがアキアスが割って入り、腕を蹴り上げて無理やり武器を引き剥がす。

そして同じように気絶させられてどさりとその場に倒れ込んだ。


「ったく!優しくしてやりてえのはわかっけど数を考えてからやれよな!」

「お前がそうしてカバーしてくれると思ったから」

「こういう時ぐらい年上らしく頼れるとこ見せろっつーの!」

「……じゃあ、取り巻きは任せた」


手袋をはめ直して立ち上がり、そう告げるとレヴィンは人々の群れに向かって駆け出した。

それが自殺行為に見えたのか、首領の男ははっと笑って操り人形とした部下たちを一斉に向かわせていく。

だがそうくるのは織り込み済みだった。

レヴィンの背後にいるアキアスがぱんと手を鳴らせば群れの眼前で淡い光が集い炸裂、一瞬にして群れの大部分がその衝撃で吹き飛ばされ気絶する。

首領の下へたどり着くまでの簡易な道が出来上がり、残りを気にもせずレヴィンは走った。

途中襲い掛かってくる人々を掻い潜り、黒幕を仕留めるべく突き進む。


「く、くそっ……!」


このままではあっという間に距離を詰められお縄につくことになる。それだけは避けなければ。

男は逃げるべく足を動かそうとした――が、動かない。いくら踏ん張っても一歩もその場から動くことができない。

どういうことだと言おうとしてはっとした顔で目の前に迫る脅威を見る。

相手も神秘力者であるならば、それを使うのは当然。

この拘束がレヴィンの力によるものだと今更になって気づいた男の壁になるかのように残る操り人形たちを向かわせる。

あらゆる凶器があちらこちらから飛んでくるが一切気に留めずレヴィンは走る。

攻撃をかわし、かいくぐり……ただそれだけで相手に手を出すことは一切しない。


「……ば、化け物か貴様ッ!?」


男は思わず悲鳴を上げた。

攻撃を掻い潜れずその身に受けてもレヴィンは足を止めないのだ。

腕にナイフが突き刺さろうが足を銃弾がかすめようが脇腹を鈍器が叩きつけようが、顔を痛みに少し歪めるだけ。


「レヴィン!待てっ!止まれ!!」


そんな彼を止めようとアキアスが叫ぶが、それも聞かずに一直線に走る。

――あんの野郎、やっぱりさっきの答え誤魔化してやがったな!!!

怒りを沸々と煮えたぎらせて後を追う。

何故どれだけ攻撃を受けようとレヴィンが歩みを止めない理由、それはただ一つ。


「(……これぐらいなら治る)」


それだけである。

彼の持つ力なら、この程度は走っている間にすぐ治癒が可能なのだ。

貴重な癒しの力を持つ彼だからこそできる突貫。

痛くないというワケではないが、過去味わった痛みに比べたらどれもこれも可愛いものでしかなかった。

それがある種の感覚麻痺だとわかっていても。

そして、目標にだけ目を向けるということは視野が狭くなるということの裏返しである。

自身の身を顧みない故にレヴィンは完全に失念していたのだ。



……相手も神秘力者である、ということを。




「――かは」


口から空気の抜けるような音、共に吐き出される血。

そこでやっとレヴィンは足を止めた。

ぐらりと体勢を崩し、倒れ込むその腹には一本の鉄骨が深々と突き刺さっている。


「はっ……ははっ、やっと止まったか化物ッ!!」


男は勝利を確信したように笑う。

足の自由も戻ってきた。逃げるなら今だが、その前にこの脅威だけは潰しておかねば。

そう思考したのだろう、次々に倉庫内にあるものを片っ端から浮き上がらせる。


「死ね!死ね!!息をしてるならさっさと死ねッ!!!」


そして狂ったように叫びを上げてそれらを一気に投げつける。

その数は正確に数えてる暇はないが、おおよそ数十は硬く範囲も広い。


「じゃかあしいわクソッタレェッ!!」


恐らく操られた人々も諸共に吹き飛ばすであろうの凶器が飛んだと同時にアキアスが前に飛び出した。

ぱん――と手を叩けば淡い光と共に突風が吹き荒び、投げられたそれを一気に押し返して男の背後にある壁を吹き飛せば男は呆然としてそれを見る。

その間にアキアスは倒れているレヴィンへと向かう。


「レヴィン!おいレヴィンっ!!しっかりしろ!」


少し揺さぶるとう……と呻き、目を開いて口を開く。


「生きてんな……ったく、お前はまた……!」

「……こ、れ」


言葉を遮り、レヴィンは弱々しく鉄骨を指す。

口で言わずともその意図を理解したアキアスがそれを握ると即座に引き抜き、レヴィンの口からは苦痛の叫びが飛び出した。

血が飛び散り、赤が衣服だけではなく床も侵蝕していく。

だがこれでいい。

レヴィンはこうなることをわかっていて、それでいて抜けとアキアスに伝えたのだ。

故に、これ以上はアキアスにはどうしようもない。彼にできるのは、


「――何逃げようとしてんだオラァッ!!!」


木っ端微塵に吹っ飛んだ壁から逃げ出そうとする首謀者をとっ捕まえることぐらいであった。

渾身の力を込めて投げ飛ばした血の滴り落ちる鉄骨は鈍い音を立てて男の目の前に落ちる。

一歩違えば自身の頭が砕けていたかもしれない一撃に怯んで尻もちをつく男。

その僅か数秒の動きの間にアキアスは奴の眼前にまで回り込んで胸ぐらを掴み上げる。


「今すぐここにいる連中にかけた力を解け!!てめえが操ってんのはわかってんだ、すっとぼけるなら容赦はしねえぞ!!」

「ひっ……わ、わかった!解く!解くから殺さないでくれ……!!」


男が手を上げると、先程まで命令もなく立ち尽くしていた人々がばたばたと倒れていく。

念のためと彼らの氣の感知を試みると感じ取ることはできた。ならば気を失っただけだろう。

ふう、と一つ息をつく。


「……こ、これで洗脳は解けたぞ」

「おう、じゃあ殺さねえ代わりにお縄についてもらおうか」


――まあ、元から殺すつもりはねえがな。

と独りごちながら胸ぐらを掴み上げたまま男の様子を伺う。

無念と言いたげにがっくりと項垂れ、抵抗する様子はなさそうだが……


「……っぐ!!?」


刹那、脇腹に鈍い痛みが走り、アキアスは体勢を崩して手を離してしまう。

からんからんと音を立てて真横に落ちる血のついた鉄骨。

今が好機と言わんばかりに男は踵を返して走り出していく。


「痛ゥ……っんの野郎、さっきのは演技か……!」


負傷した部分を抱えてアキアスはその場に崩折れる。

それをさらに好機と見て男は一目散に逃げ……ようとしたが。


「……なんて、そうは問屋が下ろすかよ。なあレヴィン」

「な……っひぃ!?」


男は悲鳴を上げた。

倒れているレヴィンの横を通り過ぎようとした足が掴まれている。


「なっ、なっ……何で生きてるんだお前!?化物か!?!?」

「別に俺は、ただの人間だ」


足を掴む手は血に塗れている。

彼の背にはマンホール一つ程の血溜まりができていて、シャツはすっかり真っ赤に染まっている。

ここまでの出血でこうも平然としていられるワケがない。

紅い髪に赤くそまった服、そこにわずかに存在する蒼。その瞳が見据えてくるということに男の背筋を恐怖が走る。


「人より頑丈で治りが早いだけの、なッ!!」


その言葉と共に怪我人とは思えぬ勢いで腹部を蹴り上げられ、男は意識を失った。




「……確かに身柄の引き渡しを確認。相変わらず頼もしいことだ」


主犯を捕まえればあとは警察の仕事で自分たちの出る幕はない。

多くのパトカーや人々を搬送する救急車たちのサイレンによって赤く染まる現場の隅、休息を取っている二人に一人の警部が声をかける。


「ぶっ壊した倉庫の壁の修繕費分、ちゃんと天引きしといてくださいよ」

「わざわざ言うなんて律儀だなあ、見た目とは違って。はっはっは」

「見た目とは違っては余計だっつーの……」

「でも否定はできないだろ」

「ああ!?」

「はっはっは、相変わらず君たちは仲が良いな!」


微笑ましげにこちらを見る警部。

レヴィンは恥ずかしそうに目を逸らし、アキアスもバツが悪そうな顔で掴み上げた胸ぐらから手を離す。


「……まあ、こいつには世話んなってっし」

「私も色々と助かっているので」

「最初はレヴィン君だけだったのがすっかり賑やかにもなって、かつますます頼もしくなった。もう何年になるんだったかね?」

「アキアスが入ってからですか。……三年ぐらい?」

「三年……三年か。サヒタリオ警部が亡くなってからも丁度それぐらいだったな」


サヒタリオ――その名を聞いてレヴィンは顔を俯ける。

それは彼にとって親しい人物の名。彼の幼馴染である女性の父だった存在。

そんな人がこの世を去ってからもうそんなに経つのかと、時間の流れの速さを思い知らされてならない。


「サヒタリオ……ってーと、マリナの親父さん?」

「ああ、子供の頃たくさん世話になった」

「あの頃のレヴィン君はやんちゃだった……と一言で片付けていいかはわからんが、とにかくそんな感じだった。懐かしいよ」

「……恥ずかしい限りです」

「はっはっは、若い頃の過ちというのはそういうものだよ。年を経たらみんなしてそう感じるのさ。

 早いねえ……サヒタリオ警部が亡くなって三年なのもだが、レヴィン君ももうすっかり大人の歳になって」

「……カンケルさん、そんな付き合い長いんすか」

「それこそ彼がまだ10代半ばの少年だった頃から見ているからな。補導とか補導とか補導とか補導とかで」

「カンケルさん!!!」


レヴィンが顔を真っ赤にして声を荒らげるとカンケルははっはっは、とまた笑う。


「大丈夫だよ、君の黒歴史を簡単に言ったりはしないから」

「……お願いしますよ、本当に」

「聞くつもりはねえが、俺はこいつがそんな大荒れした元ヤンってのが未だに信じられねえんですけどね」

「そうだなあ、レヴィン君はあの頃から友達思いで弟思いの優しい少年だったからなあ……」


ますますアキアスは疑問符を浮かべる。

レヴィンゼード・リベリシオンという人物は一言で言うなら「お人好しがすぎるお人好し」。

見た目こそ強面なれど実際は人見知りで上がり症、人に迷惑をかけるなんて以ての外だと言わんばかりに気を遣おうとするし

周りの反応を気にして自分の意見を引っ込めることだって日常茶飯事だ。

その癖自己犠牲が強すぎる性質に治癒能力なんぞがついてきてしまったせいで誰かの代わりに傷つく、ということに関してだけは非常に積極的になる。

そんな人物が何がどうして警察に世話になる程の素行をやらかしたというのだろうか。

ティルナノーグの新人二人だって彼が元ヤンだったということについては信じられない、と口を揃えて言う。

そしてこの長い付き合いであるというカンケルの感想もこれであるからして、現在の性格は元からだったと見て間違いもないワケで。

しかし気になるからといって彼の心に土足で踏み入るような真似などするワケもないのであって、結局真相は謎のままで終わらねばならないのだが。


「まあ、もう後の処理は我々に任せて二人は帰りなさい。明日も早いだろう」

「わかりました。お言葉に甘えます」

「レヴィン君は真っ直ぐ家に帰る前に病院で傷を見てもらいなさい。治りが早いとは言え怪我をしたんだから」

「……もう大分塞がってるから大丈夫か」


刹那、レヴィンの頭に空のペットボトルが叩きつけられる。


「とッ!?!?」


小気味良い音と共に口から飛び出す最後の一文字。

恐る恐る隣を振り向くと般若のような顔をしたアキアスがばき、ばきと骨を鳴らしていた。


「大丈夫だあ?あんな出血多量な怪我しといて何が「大丈夫」っつーんだゴラ。言ってみろや」

「……い、いや、だって」

「だってじゃねえよクソッタレ!!!!!てめえ俺最初に何つったか覚えてんのか今度は絶対無茶すんなっつったんだぞ!!!

 なのにやらかしやがって事務所戻ってまたトラをゲロらすつもりかああん!?!?」

「……あ」


今更思い出したかのように声を上げるレヴィン。

ぴき、と血管を浮き上がらせ、アキアスは彼の腹部を小突く。


「い゛っっっ!?!?」


患部をピンポイントで狙った一撃はクリティカルヒット。

目に涙を浮かべてレヴィンはその場で腹を抱えて蹲る。

大分塞がってはいるが、痛みが走らぬワケでもまた傷口が開かないワケでもない。

正直今また傷口が開くかと思ったぐらいだ。


「今行けすぐ行け絶対行け事務所寄んな真っ直ぐ家帰れいいかわかったな二言は言わせねえぞはい返事!!!」

「…………はい……」


鬼の形相で捲し立てるアキアスの気迫と痛みに推され、レヴィンは一人病院経由の帰路につくのであった。

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