これケーキか?!
「ゲホゲホッ!」
うえっ……キモチワルイ……。
昨日食べたケーキもどきの味が、まだ口の中に残っている。一体あのケーキには何が入っていたんだよ……。
あの後、一時的に事務所の中が騒がしくなり、特にトイレが賑わっていた。そんな皆の様子に首をかしげていた元凶の菫は、「まったく、せっかく作ったのにまた残すのかしら……、もったいないわね」とか言いながら、自分は普通にケーキを食べていた。
「うーん、ちょっと砂糖入れすぎたかしら……?」
(いや、確実に違う!それ以上にあるだろ!)
「味は、まあまあってところね」
(なんで、そうなるの!?そ、それにあえて突っ込まなかったけどさ……ケーキって普通こんなにうねってないよね?触手とか生えてないよね?動かないよね?)
ケーキからは謎の触手が4本ほど生えている(ちなみにケーキの色は真冬にプールに入った時の唇の色)触手はフォークを刺される度に動きを増す。
「あらぁ、生きがいいわね」
(それ、ケーキ食べるときの感想違う!!)
「もう、静かにしていなさい。食べづらいでしょ」
(…ケーキに食べづらいもくそもないと思うんだが…いや、あれはそもそもケーキなのか……あれをケーキだと認めると俺がいままでケーキだと思いながら食べていたものは何だったんだ?イチゴの乗った白い天使か?あれ見た後だとものすごくそう思えるんだけど……)
とりあえず、身に染みて分かったことは、菫が料理下手なの(果たしてあれは料理といえるのか)と菫は舌バカだったということだ。
それからひと段落し、皆が落ち着いてきた所で(落ち着くのにかなり時間がかかった)菫から集合の合図がかかった。
「えーと、皆今日のことで色々分かったと思いますが、忍はこの様な状態なのでただでさえ人手不足なのにさーらーにー人手不足になりました。というわけなので、使えない忍の分も皆で分担してやってね、まあ忍がいなくなった二か月間頑張ってくれてたから、引き続きってことで」
(え、俺二か月いなかったのか?……そんなに経ってたなんて気づかなかった。)
「あー、あと忍、記憶がないのはしょうがないけど、あなたがいなかった分、埋めるの大変だったんだからね!その分たっぷり働いてもらいますから」
「……はい」
「わかったならいいわ、悠李あなた明日の仕事忍と行きなさい」
「え、俺ですか…?」
「ええ、あなたが忍の空っぽ頭に仕事のアレコレを叩き込んであげなさい」
「……」
「悠李」
「わかったよ、行けばいいんだろ……」
「それじゃ、決まりね!これにて今日は開散!」
「えっ、今日はもうおしまいなんですか?」
「ん、そうよ……あら私忍に言ってなかったかしら?」
「言われてません」
今日は電話で菫から「今日仕事があるから早めに来てね~、じゃ」と言われてすぐに切られたのだ。
そんな事知るわけ無い。
「今日仕事があるから~とか何とか言ってたじゃないですか!」
「…あらやだ、すっかり忘れてた…。忍をとりあえず呼ぼうと思ってそんな事言った気がするわ」
「……」
「ま、まぁ今日は忍の退院祝いだったんだから!いいでしょ!」
(あ、そっか……ケーキ?もどきのおかげで忘れていたけどそもそもこれ……俺の退院祝いをやってくれていたんだっけ……)
「後片付けは私がやるから忍は明日の為にゆっくり休んどいて。その代わり、明日からはビシバシやってもらうから頼んだわよ!」
「…え、と」
「返事は?」
「…は、ハイ…」
「よろしい!」
という感じで俺の(記憶が消えてからの)初仕事は悠李と共にすることになった。
(この先どうなるんだろう……)多少の不安を持ちながらも、ちょっとドキドキしていた。
(だって、やっと動きまわれるんだもん!)
そうして、今に至る。